株価変動モデルとは? わかりやすく解説

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株価変動モデル

読み方かぶかへんどうもでる
【英】:stock price fluctuation model

概要

一般に金融資産価格変動は非常に激しくモデル化難しい. そのため対数価格ランダムウォークにしたがうと仮定される場合が多い. しかし, 価格変動には, 収益率分布正規分布比べ尖度大きい, 収益率自己相関係数小さい, 2乗収益率自己相関係数大きくかつ長期間渡り減衰しない, 観測時間間隔長くなる収益率独立・同一分布近づく等の諸特徴あまねく観察される. ARCHモデルこのような特徴備え代表的確率モデルである.

詳説

1. 株価変動の諸特徴 株価変動モデル化する場合, オプション理論見られるように, 市場効率性仮説立場から株価変動幾何ブラウン運動(対数正規ランダムウォークモデルとする立場がある. 幾何ブラウン運動均衡オプション価格を導くために重要な役割を果たすが, このモデル現実観察されるデータ特性正しく反映している保証はない. データ特性に斉合的統計モデル構築する視点に立つと, 現象をどう見るかで使用するモデル異なる. 株価変動は, 一時点における複数銘柄間の関連同一銘柄における異時点間の関連同時に有する考えられる. 以下では, 個別銘柄変動記述するモデルと, 複数銘柄同時価格変動記述するモデル説明する.

2. 一変モデル 個別銘柄日次収益率非正規性ファットテイル, 非独立性(収益率自身自己相関低くて2乗収益率自己相関有意に高い), 非線形性特徴を持つことがあまねく観察される. また週次月次収益率では非正規性, 非独立性,非線形性という日次収益率の諸特性弱まり, 対数正規ランダムウォーク近づく性質がある. このような特性と斉合的モデルのなかで, Engle [2]が提案した自己回帰条件付分散変動モデル(ARCHモデル)は, 株式市場実証分析に最もよく使われる. t\, 期の株価P_t\, とすると, 株式連続複利収益率x_t = \log P_t - \log P_{t-1}\, 表せる. ARCHモデルは, t-1\, 期までの情報 \Psi_{t-1} = \{x_{t-j}: j=1,2,\ldots\}\, 所与とするとき, x_t\, 条件付分布


\begin{array}{lll}
x_t & \mid \Psi_{t-1} \sim \mbox{N}(0,h_t) \\
 & h_t=\alpha_0 + \displaystyle \sum_{i=1}^{q}
 \alpha_i x^2_{t-i},\quad
 \alpha_0 > 0,\ \alpha_i\ge 0
\end{array}\,      (1) \,


と表す. ここで \mbox{N}(0, h_t)\, 平均0, 分散h_t\, 正規分布を表す. t\, 期の条件付分散過去2乗収益率関数であり, その値は毎期変化する. 収益率プロセス2次定常となるための必要十分条件



 \sum_{i=1}^q \alpha_i < 1
\,      (2) \,


である. 2次定常ARCHモデル無相関プロセスであるが, 条件付分散過去収益率依存するために独立プロセスではない. ARCHモデルでは尤度関数簡単に求まり, 未知パラメータ最尤推定量繰り返し計算によって解くことができる. 一定の正則条件のもとで, 最尤推定量漸近正規性が証明され, 漸近分散共分散行列求めることが可能である.さらに条件付分散不均一性対す仮説検定行うことができる. Bollerslev [1]は条件付分散(1)式を拡張したGARCHモデル



 h_t=\alpha_0 + \sum_{i=1}^q \alpha_ix_{t-i}^2
 + \sum_{j=1}^p \beta_jh_{t-j}^2,
 \quad \alpha_0>0,\ \alpha_i\ge 0,\ \beta_j\ge 0
\,      (3) \,


提案した. 条件付分散h_tの定式化自己回帰h_{t-j}\, 含まれる. (3)式は条件付分散自己回帰移動平均(ARMA)型の時系列モデルに従うと解釈できる. ARMAモデル自己回帰(AR)モデルに対してしばしばパラメータ節約になるのに対応して, GARCHモデルARCHモデル比べパラメータ節約となる. ARCHモデル金融資産価格変動特性である条件付分散変動2乗収益率プロセス従属性をモデル化しており, 多く実証分析有用な結果得ている. 以上の他にも,Taylor [7]の確率的ボラティリティーモデル(stochastic volatility model), 双線形モデル(bilinear model), いき値自己回帰モデル(TAR= threshold autoregressive model)等多くの非線形時系列モデル考案されている.

3. 多変量モデル 株式には多数銘柄存在し, それらの価格変動お互いに関連している. 従って多数株価同時変動モデル化するには, 多変量時系列モデルが必要となる. しかし銘柄数が多くなるモデル未知パラメータ数が飛躍的に多くなり, モデル推定値が不安定となる可能性がある. それゆえ, 例え株式ポートフォリオ構築のために多変量時系列モデル作成するには, パラメータ数を節約する工夫が大切である. さらに株価変動には, 先に見た時系列特性存在する. 株式銘柄間の関係と異時点間の関係を同時に満足する多変量時系列モデル作成するのは容易ではない. ここでは, 銘柄間の相互依存関係を明示的に取入れファクターモデル初めに説明し, 次にファクターモデル時系列構造導入したファクターARCHモデル説明する. ファクターモデル個別銘柄収益生成プロセスが, 少数共通要因とその銘柄固有の特殊要因により決定される考え



 x_{it} = \mu_i + \sum_{j=1}^K\beta_{ij} f_{jt}+ \epsilon_{it},
 \quad i=1,\ldots,n ;\ t=1,\ldots,T
\,      (4) \,


で表す. ただし, \mu_i\, は第i\, 銘柄期待収益率, \beta_{ij}\, は第i\, 銘柄の第j\, 共通要因対す感応度, f_{jt}\, は第j\, 共通要因t\, 期の値, \epsilon_{it}\, は第i\, 銘柄の特殊要因t\, 期の値である. 行列用いれば



 \begin{array}{cccccccc}
 x_t& = & \mu& + & B & f_t& + &\epsilon_t, \\
 n\times 1 & & n\times 1 & & n\times K & K\times 1 & & n\times 1
 \end{array}
\,      (5) \,


簡潔に表現される. ただし



\begin{array}{l}
 \mbox{E}(f_t) = 0,\ \mbox{V}(f_t) = I_K,\ \mbox{E}(\epsilon_t) = 0,\\
 \mbox{V}(\epsilon_t) = \Psi,\ \mbox{E}(f_t \cdot \epsilon_s) = 0,
 \end{array}
\,      (6) \,


仮定する. ここで, \mbox{E}(\cdot)\, , \mbox{V}(\cdot)\, 期待値分散を表す記号である. この時x_t\, 期待値分散共分散行列


\mbox{E}(x_t) = \mu,\ \mbox{V}(x_t)=BB^{\top} + \Psi \,      (7) \,


である. 各銘柄分散共通要因による部分と特殊要因による部分の和となる. このモデルCAPMAPT実証分析ポートフォリオ構築のためにしばしば利用される. ファクターモデル銘柄間の関連考慮するが, 時系列構造に関して独立同一分布前提にしている.

ファクターARCHモデル(5)式に(1)または(2)式のARCHモデル結合して, 株価変動の諸特性と斉合的な非線形多変量時系列モデル提供する. (5)式のモデルではf_{jt}\, 独立同一分布仮定するが, この仮定はずしてf_{jt}\, (1)式のARCHモデルに従うものとすれば, x_t\, 条件付き分散共分散行列



\mbox{V}(x_t) = BH_tB^{\top} + \Psi
\,      (8) \,


となる. H_t\, 対角行列であり, 第j\, 要素共通要因f_{jt}\, 条件付分散示している. ARCHモデル多変量化する試みこの他にも数多く存在する. 多変量ARCHモデル開発近年急速に進んでおり, 今後ファイナンス実証分析でますます重要な役割を果たすことになるだろう.



参考文献

[1] T. Bollerslev, "Generalized Autoregressive Conditional Heteroskedasticity," Journal of Econometrics, 31 (1986), 307-327.

[2] R. F. Engle, "Autoregressive Conditional Heteroscedasticity with Estimate of the Variance of United Kingdom Inflation," Econometrica, 50 (1982), 987-1007.

[3] R. F. Engle and K. F. Kroner, "Multivariate Simultaneous Generalized ARCH," Econometric Theory, 11 (1995), 122-150.

[4] E. F. Fama, "The Behavior of Stock-Market Prices," The Journal of Business, 38 (1965), 34-105.

[5] B. Mandelbrot, "The Variation of Certain Speculative Prices," The Journal of Business, 36 (1963), 394-419.

[6] D. B. Nelson, "Conditional Heteroskedasticity in Asset Returns: A New Approach," Econometrica, 59 (1991), 347-370.

[7] S. Taylor, Modelling Financial Time Series, John Wiley, 1986.

[8] 刈屋武昭, 佃良彦, 丸淳子編著, 『日本株価変動』, 東洋経済新報社, 1989.

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