国際化領域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 06:16 UTC 版)
「国際化領域」(les zones internationalisées)とは、国際的地位を与えられ、国際的管理の下におかれている領域をいう。古くからは国際河川(ライン川、ムーズ川など)、国際運河(スエズ運河、パナマ運河、キール運河など)があるが、ここでは、その特徴が最も現れている、南極、深海底、宇宙を扱う。これら三つは全て、全人類の利益の追求、領域権原取得の禁止、平和的利用の原則(非軍事化)という特徴を有する。 南極(Antarctica)は、現在、1959年の「南極条約」によって規律されている。2008年6月現在、当初、南極地域における領土権を主張していた国(イギリス、ニュージーランド、フランス、ノルウェー、オーストラリア、チリ、アルゼンチンの7か国; 「クレイマント」)も含めて、締約国数は46か国である。その第一の目的は、「南極地域は、平和的利用のみに利用する」(1条)にある。南極地域における軍事基地や軍事演習は禁止される。また、同条約は、科学的調査の自由(2条)とそれについての国際的協力(3条)を規定する。そして、いかなる国による領土権・請求権の凍結が定められている(4条)。また、南極地域は、「非核化」されており、核爆発と放射性廃棄物の処分は禁止される(5条)。南極地域の管理に関して、国際組織が存在するわけではないが、これを国際的に管理する制度として、「南極条約協議国会議」(Antarctic Treaty Consultative Meetings; ATCMs)が置かれ、それは「勧告」を行う(9条)。また査察制度も置かれており、締約国は、この条約の遵守を確保するために、協議国会議に出席できる「監視員」(observers)を指名する権利を有する(7条)。また、近年、ますます重要になっているのが、南極地域における「生物資源の保護」(9条(f))である。第四回協議国会議の結果を経て、1980年に「南極の海洋生物資源の保存に関する条約」が成立した。また、1991年には「環境保護に関する南極議定書」が成立した。 「南極条約体制」が「客観的制度」(objective régime)として、条約の第三国も拘束するという主張がしばしばなされる。その根拠は、「南極条約」の「この機構は国連加盟国でない国が、国際の平和及び安全の維持に必要な限り、これらの原則に従って行動することを確保しなければならない」(5条1項)、「南極の海洋生物資源の保存に関する条約」22条および「環境保護に関する南極議定書」13条2項の、「各締約国は、いかなる者もこの議定書に反する活動を行わないようにするため、国際連合憲章に従った適当な努力をする」という規定にあると考えられる。これについては学説上争いがあり、仮に南極条約締約国が南極地域における排他的管轄権を有しているとしても、条約の第三国に対する効力は、いわゆる「第三国効力」ではなく、合法的に創設された法的状況を尊重する一般的義務があるにすぎないとする見解もある。 深海底は、国連海洋法条約133条から191条で規定されており、国家管轄権の外にあり、「人類の共同遺産」(common heritage of mankind; CHM)制度が適用される地域である。すなわち、「深海底及びその資源は、人類の共同遺産」(136条)であり、「いずれの国も深海底又はその資源のいかなる部分についても主権又は主権的権利を主張又は行使してはならず」(137条)、深海底における活動は「人類全体の利益のために行う」(140条)。また、「深海底は…全ての国による専ら平和的目的のための利用に開放する」(141条)とする。国際管理のための制度的メカニズムとしては、「深海底機構」(The Authority)が置かれる。「機構」は、総会、理事会、事務局を有し、「決定」(decisions)を下すことができる。総会は三分の二の多数決で「決定」を行うことができる(159条)と当初されていたが、しかし、1994年の「第十一部実施協定」で、「原則として、機構の意思決定は、コンセンサス方式によって行うべきである」(3節2項)と規定され、かつ理事会は、運営、予算、財政に関するあらゆる事項についての決定を妨げることができるようになっている(4項)。 宇宙は、1966年の「宇宙条約」(「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」)を宇宙基本法とする法体系の下にある。まず、その1条は、「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用は、全ての国の利益のために…全人類に認められる活動分野である」とし、「国際法に従って自由に探査し及び利用することができる」とする。2条では、いかなる国によっても領有権の主張は禁止され、4条では、大量破壊兵器の打ち上げを禁止し、宇宙は専ら平和的目的のために利用されるものとする、と規定する。また、この宇宙基本法を基礎として、「宇宙救助返還協定」、「宇宙損害責任条約」、「宇宙物体登録条約」、「月協定」が成立している。「月協定」11条によれば、「月及びその天然資源は、人類の共同遺産である」とされている。また、同条約7条で、月環境の保全が定められていることも、注目に値する。これにより、「環境」という概念が、宇宙空間まで拡張されたことを意味する。また、1963年の「部分的核実験禁止条約」により、宇宙空間も「非核化」されている。国家責任制度については、無過失責任が採用されている(前記「宇宙損害賠償責任条約」2条)。宇宙空間の国際的管理の制度に関しては、国連の下につくられた「宇宙空間平和利用委員会」が活動している。衛星など技術的な側面については「国際電気通信連合」にゆだねられている。 「宇宙法」も参照
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