酵素ドリンク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/12 03:29 UTC 版)
作り方
酵素(発酵)ドリンクは、通常は生の野菜や果物、穀物などを酵母や細菌、カビなどの微生物に含まれる酵素の働きによって発酵させる[3][4][5]。
手作り酵素ドリンクのレシピには、手に付いている常在菌で発酵させるものが多い[9]。常在菌は食品の発酵とは無関係の細菌の集まりで、中には黄色ブドウ球菌のように潜在的な病原菌も含まれている[9]。得体のしれない雑菌やカビが繁殖すると、発酵ではなく腐敗が起こる[9]。
リスクが指摘されたもの
紅茶キノコ
紅茶キノコ(コンブチャ)は、砂糖を加えた紅茶に、細菌と酵母の共生発酵物(SCOBY)を加えて発酵させたものである[21]。多くの健康効果が得られると主張されているが、これらの主張を裏付ける証拠はほとんどない[22][23][24]。家庭で作ることが一般的なため、汚染などにより、まれに深刻な副作用が起きている[25][26][27][28]。2003年のシステマティック・レビューは、「販売する人の利益にしかならない治療法」であり、使用を推奨すべきではないと結論づけた[23]。アメリカがん協会(ACS)は「コンブチャには重篤な副作用や死亡例がある」と述べている[26]。
米のとぎ汁乳酸菌
米のとぎ汁乳酸菌は、米のとぎ汁に砂糖や塩などを加えて発酵させたものであり、これを飲んだり、点眼したり、霧吹きで肺に吸い込むと、体内から放射能が排出できると主張されている[29][30][31]。しかし、科学的根拠はなく、むしろ雑菌が繁殖して食中毒や結膜炎、肺炎になる恐れがあり、多くの医師からも警告が出されている[29][30][31][32]。中には「下痢」「目やにが大量に出て目が真っ赤」などの体調不良を訴える声もあるが、デトックス効果の現れ、好転反応だと受け取る人もいる[30][31]。「好転反応」は、医学用語ではなく、健康食品や各種医療法によって体調不良が現れた場合に使われる偽医学用語である[33][3]。この症状は「健康法が効果を表し、毒素が体内から排泄される過程で起きる一時的な現象」と説明されるが、多くは心理的・肉体的な危険信号である[3][34]。厚生労働省は、「『好転反応』という健康表現自体が薬事法違反にあたる」「科学的根拠はないので、注意するように」と注意喚起を行っている[35]。
EM飲料
EM飲料とは、糖蜜や米のとぎ汁などを様々な微生物で発酵させた液体であり、飲むことで体内の放射性物質の排出を促して内部被曝を抑えたり、がんやパーキンソン病などの治療ができると主張されている[3][2][36]。飲料の効能は、波動測定器やO-リングテストというオカルト的な方法で測定されており、科学的な根拠はない[2][29][37]。EMの概念や構成する微生物は不明瞭であり、飲むことで体調を崩し、好転反応と認識している人が多い[2][37][38]。
ジリージュース
ジリージュースは、酵素(発酵)ドリンクの形をした偽医薬品である[39]。ドリンクにより体内からカンジダ(酵母)を除去することで、がんや自閉症を含む様々な症状を治すことができ、さらには失った手足の再生、老化現象の逆転、同性愛の「治癒」などができると誤って主張されている[40][41]。しかし、これらの主張は研究によって証明されておらず、アメリカ食品医薬品局(FDA)もこのレシピを認めていない[40][42][43]。このドリンクは、水、塩、発酵させたキャベツやケールのみで作られ、下痢を引き起こすことで、カンジダや寄生虫を体外に排出できると主張している(支持者は、この下痢の発作を「滝」と呼ぶ)[40][44]。ジリージュースは、医学的・科学的背景を持たないJillian Mai Thi Epperlyによって考案された[40]。Epperlyは、体内にカンジダが大量に存在すると、有害な細菌が増殖して腸に穴が開き、食物由来の毒素が血液中に入り込むようになると考え、このプロセスを「リーキーガット症候群」と呼んでいる[45]。コロンビア大学医療センターのDavid Seresは、ジリージュース推進者の主張は「完全に危険なたわごと」であると述べている[40][46]。Epperlyの信者は「うんこカルト」のメンバーと呼ばれ、2017年には58,000人以上のメンバーで構成されるFacebookグループを形成していた[40]。この治療法は効果がないだけでなく、極度の脱水症状や高ナトリウム血症(食塩中毒)、高血圧など、致命的な副作用を引き起こす可能性がある [40][42][43][46]。2017年には、1ヶ月間飲んでいた男性が死亡したが、Epperlyは製薬会社が彼の死に関与した可能性を指摘している[40][47]。2018年、連邦取引委員会(FTC)はEpperlyに対し、科学的裏付けなしに製品の健康効果を宣伝することは法律違反であると警告した[44][46]。
手の常在菌を使った発酵飲料
- 2012年、日経ウーマンオンラインが、手についている常在菌で発酵させる酵素ジュースの作り方を公開し、ネット上の指摘をうけて一部表現が訂正された[13][48]。
- 2015年、消費者庁が、クックパッドに素手でかき混ぜて作る酵素ジュースのレシピを公開したが、批判が集中して削除した[9][13][49][50][51]。レシピでは、「素手でかき混ぜるのは、手に付いた常在菌が発酵を進めるから」と「かき混ぜる」プロセスの重要性を強調していた[13][49][51]。
- 2018年、豆乳を赤ちゃんの手でかき混ぜて放置する「赤子ヨーグルト」が話題になった[16]。これは、赤ちゃんの手の乳酸菌で発酵するというものだが、皮膚に乳酸菌はほぼおらず、雑菌が繁殖したり、赤ちゃんの手に傷があると赤ちゃんが食品アレルギーを発症する可能性もある[16]。
- 2023年4月、テレビ番組で静岡県沼津市のホテルが、デトックス効果が得られるとして、手の常在菌を使ってかき混ぜた酵素(発酵)ドリンクを提供していると紹介し、SNSで「デトックスではなく食中毒なのでは」など衛生面が話題になった[52][53]。これを受けてホテルは自家製発酵ドリンクの提供をやめて、ホームページで謝罪した[52]。
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