漁船
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/08 03:59 UTC 版)
漁船の設備
漁業設備
漁船を最も特徴づけるものが漁業設備である。一般には建造時に設備するが、後に増設や撤去等を行うこともある。漁業種類と漁業設備の対応例を以下に挙げる。
上記の設備、とくにいか釣り漁業やサンマ棒受け網漁業に用いられる集魚灯などについては大量の電源供給を要することから、推進機関とは別に発電機を設備している漁船も見られる。 発光ダイオードを使ったLED集魚灯の場合、従来の集魚灯よりも重油使用量が10-20%程度で済むという。
一つの漁船で複数種類の漁業を季節に合わせて行う場合、上記の漁業設備を季節ごとに撤去又は設備する例も多く見られる。中には上甲板上の設備を大きく変えるため、毎回総トン数を変更する漁船もある。
冷凍・冷蔵設備
過去に行われた母船式遠洋漁業や、遠洋かつお・まぐろ漁業では冷凍設備を有するが、沿岸漁業ではそのような設備はほとんど見られなかった。しかし近年の高鮮度による付加価値志向により、滅菌海水による水氷の積載や冷蔵設備を有する沿岸・沖合漁船も増加している。
漁船の船体
船体設計の特徴
旅客船や貨物船との大きな違いとして、漁船は一定した航路を走らず複雑な航跡を示すことから、複雑な動きに適した構造で設計される。また、揚網作業などでバランスを崩しやすいことから、復原性が重視される傾向にあり、台風多発海域での操業を前提とした船は船体が特に強靭に作られている。各漁業の形態によりその最適とされる構造は異なるため、漁船であれば全ての漁業に用いられるものではなく、例えば定置漁業であれば、揚網を行い易いように平たくブルワークの低い形態の船体を、かつお釣漁業では大きな船体を用いる傾向にある。しかし一隻で複数の漁業を兼業することも多い。
内水面漁業の場合、海面漁業における3級船相当の漁船を用いることが多いが、広い湖では5トン級の漁船も用いられている。
材質
- 木材
- 世界的に見ると、特に小型の漁船を中心に今も広く使われている。(当記事の最初に掲載したイングランド・ヨークシャーの小型ボート状の漁船も木造船であり)、特にアフリカやポリネシアや東アジア(の開発途上国)などでは、今も漁船のほとんどが木造船である。(一方、日本では昭和期から次第に使われなくなり、今ではほぼ使われなくなった。だが日本でも今も造られることはあり、特に、伝統的な祭などではこだわってFRPではなく木造漁船が使われる場合がある。)木材という素材の強度を考慮するとある程度の厚さが必要なのでどうしても船体が重くなる傾向がある。利点は、重めなので揺れ方がゆったりしていること、きちんと手入れをしてやれば20年以上持ち見栄えもよいこと、廃船にする際も木材はリサイクル方法や活用法が多々あり立派な資源であり、その結果、処分が安く済むことなどである。欠点は、まめな手入れが必要なこと、重めで水面下の部分が増えるので同じトン数だとFRP船に比べて速度が出ないことである。[3]
- FRP
- FRPは小型漁船の製造に向いており、日本では5トン未満の、とくに船外機を用いる小さな漁船の大部分はFRP製である。型を用いて同一形状の船を効率的に大量に製作できるので、低価格で販売されている。長所は、船体が軽いことや、多少の傷や穴ならポリエステル樹脂などで簡単に補修できることである。短所は、プラスチック製であるため火災に非常に弱く、一体設計であるため製造後の加工が困難であること、さらに廃船時にはリサイクルが非常に困難なFRPゴミが大量に生じるという問題があり船体を大型破砕機などで機械的に解体処理する必要があり処理費用もかかることである。
- 軽合金
- アルミのような軽合金船は鋼船に比べて軽く、FRP船よりも剛健であることが特長である。造船技術、設計方法は金属であるため鋼船に近く、過去の技術資産が生かせる。また金属であることから、廃船時にはリサイクル可能であるため、近年はFRPから軽合金に移行する漁業者も増加している。
- 鋼
- 鋼船は重量が重く価格も高くなるため、現在は小型漁船ではあまり用いられない。しかし鋼の剛性を超えるFRPや軽合金はないことから、大型の底びき網漁船や遠洋漁業にはもっぱら鋼船が用いられる。また、漁業取締船などもその業務上、鋼船が用いられる。
漁船の動力
もともとは漁船の動力は、手漕ぎであったり、帆(風の力)であったりした。
戦後直後の日本近海の漁船では焼玉機関が主に用いられていた(現在は存在しない)。
近年の漁船の推進機関(機関)は主に以下の3種類に分類される。
- 船外機
- 漁船の外側に付ける、取り外しが可能な、舵と一体化している小型機関。主に3トン以下のFRP船で使われる。長所は、低価格なこと、保守が容易で取り外して修理に出すこともできること、載せ替え(機種変更)が簡単なことなどである。短所は、船内機に比べると寿命が短いことや、(今どきは)盗まれてしまうことがあることである。電気点火式ガソリン機関が主流である。以前は2ストローク機関が主流だったが、最近は環境や燃費を考慮した4ストローク機関が主流である。
- 船内機
- 船内に設置された大型機関。主流はディーゼル機関である。プロペラシャフトによりプロペラを回転させ、舵は別に付けられる。5トン以上はほとんどが船内機を使用している。
- 船内外機
- 船内機、船外機の折衷型。機関は船内機関室にあるが、舵が機関と一体になっており、ドライブユニットと呼ばれる装置を船外に出すことで動力をプロペラに伝達する。3~5トン程度の漁船で使用されている。ディーゼルが主流である。
漁船は旅客船や貨物船と異なり細かい動作が多く、網を引いたりするため負荷に強い機関でなければならない。近年は一部で電気推進機関の利用も試みられている。
- ^ Global Note
- ^ 船と海の研究会編 『海洋船舶の科学』 日刊工業新聞社 2008年4月30日初版第1刷発行 ISBN 9784526060533
- ^ [1]
- ^ 情報通信審議会諮問第50号 「海上無線通信設備の技術的条件」のうち「簡易型 AIS 及び小型船舶救急連絡 装置等の無線設備に関する技術的条件」(案) 別紙3 27-28頁 総務省
- ^ “積丹が生んだ「巨匠」造形家 竹谷隆之”. NHK北海道. 2024年1月8日閲覧。
- ^ “漁船の化粧板”. khirin-a.rekihaku.ac.jp(国立歴史民俗博物館). 2024年1月8日閲覧。
- ^ a b 諸外国(EU、米国、ノルウェー)の漁業と漁業政策の概要 水産庁
- ^ a b c d e “ノルウェーの漁業及び漁業管理について”. 水産庁. 2021年9月26日閲覧。
漁船と同じ種類の言葉
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