決号作戦 基地と防衛陣地の建設

決号作戦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/01 04:59 UTC 版)

基地と防衛陣地の建設

1945年6月に沖縄の日本軍が全滅(沖縄戦)し連合国軍に占領されて以来、南九州の鹿屋(海軍)、知覧(陸軍)、万世(陸軍)、また瀬戸内海徳山沖の大津島(海軍)などの特攻基地は出撃が少なくなっていたが、本土決戦の動きが活発化すると、これらの基地が再び重視され、さらに発進基地確保のため全国にと号用の秘匿飛行場が整備され、連合国軍上陸阻止の役割を担うようになっていった。

本土決戦に備える軍の施設も各地に建設された。防衛施設は連合国軍上陸を予想して海岸地域に設営されていき、軍の沿岸防衛施設には新編成部隊約150万人が動員されていた。この大規模な防衛施設の建設は、昭和19年の秋から始められ、地上作戦のための陣地、航空基地、舟艇基地、後方の兵站施設、交通通信施設など広範囲にわたった。

作戦のための陣地構築には、強力な防御戦闘を行うために、水際陣地を充実させ、空爆と艦砲射撃に耐える洞窟式地下陣地を設営することが考慮された。また主陣地は水際から適度に後退した場所に設置され、人員的には中隊大隊連隊で編成され、火砲や機関銃が置かれていた。例として、内之浦臨時要塞松代大本営等がある。

戦術

上陸船団に対しては、特別攻撃隊を主体とする海上、海中および空からの攻撃が予定された。まず、船団を支援する敵機動部隊に対して、航空機による昼夜を問わない特別攻撃隊と夜間雷爆撃を中心とした通常攻撃隊を出撃させ、船団護衛を妨害する。瀬戸内海周辺に潜伏していた日本海軍の残存駆逐艦も、水上特攻隊として出撃、敵機が空襲してこない夜間に移動を終え、そのまま敵艦隊または輸送船団に突入して砲雷戦を貫徹する。上陸部隊を乗せた輸送船団に対しては、300km以内に近づいたところで航空攻撃を加え、残存潜水艦や特殊潜航艇などによって敵戦力を削り、さらに沿岸部まで近づくと、回天震洋による特攻と、陣地からの砲撃等、あらゆる手段で対抗する。

着上陸してきた敵上陸部隊に対しては水際決戦戦術で対応する。敵軍が海岸から内陸部へ進撃するのと同時に、沿岸配備師団として予想接近経路上の攻撃陣地に待機していた師団および国民義勇戦闘隊が橋頭堡への逆襲を開始し、混戦状態に持ち込む。これは、敵味方が入り乱れた状況を作り出すことで、敵に艦砲射撃や空襲をためらわせ、敵の圧倒的な火力を封じるためである。その機に乗じて、内陸部の陣地に隠匿していた決戦師団(機動打撃師団)を戦場に投入し、さらなる逆襲を加えて反撃から追撃に移行し、敵を殲滅する計画であった。敵上陸部隊の橋頭堡および陣地線に対しては、砲撃と同時に攻撃前進、浸透戦術を行う。日本軍の野戦砲は撃てば位置が暴露し、早期に無力化される公算が高いことから、ひとたび射撃を決心したならば、敵と味方が混戦状態になってもお構いなしに、同士討ちを承知で最大発射速度での射撃を続け、敵のカウンターバッテリーを受けて無力化させられる前に一発でも多くの砲弾を発射しなければならない。

真っ先に突撃し、味方からも砲弾を撃ち込まれながら敵軍を拘束する任務を負った沿岸配備師団は生還を期待されておらず、装備も人員も極めて貧弱で、「はりつけ師団」「かかし兵団」と揶揄された。一方、決戦の主力部隊となる機動打撃師団は(あくまでも、他の日本軍部隊と比較して)充実した装備と人員が与えられていた。野戦砲を多く配備して火力重視の編成としていたほか、敵が制空権を握る中で機動力を確保するために20mm高射機関砲(四式基筒双連二十粍高射機関砲)が配備されていることも特徴である。

これに加え、各種の「斬り込み隊」による浸透戦術を昼夜の別なく繰り出し敵部隊に損害を強要する。当時の敵が最も重視していたのは人的資源であることから、大本営では、できるだけ多くの兵を殺傷して敵の厭戦気分が高めれば無条件降伏を回避することができ、いわゆる「国体」が護持されるものと期待していたのである。

上陸予想地点を守備する第12方面軍などでの戦闘指導は、攻撃陣地は築城するが防御陣地の築城は行わない方針で、硫黄島の戦い沖縄戦で実績のある、敵を内陸に引き込んでの持久戦ではなく、サイパンの戦いのような水際決戦戦術が採られていた。これは、浸透戦術や野戦砲の陣地転換を急速に反復するなどの高度な戦技を持たない粗製乱造の部隊が多い現状では、仮に持久戦を挑んでも決戦師団の到着まで戦線を維持できないと想定され、強力な防御を行うためには、もはや一か八かの玉砕戦法以外に取り得る防御戦術がないと判断された結果である。

本土決戦での戦闘教令としては、大本営陸軍部が1945年4月に示達した『国土決戦教令』がある。この教令は決戦間には傷病者の後送を行わないことを原則とする、戦闘中の部隊の後退を禁ずる、全部隊、全兵種を戦闘部隊とし、補給、衛生などを担う支援部隊であっても命令があれば突撃に参加する、敵が住民を盾にして前進してきた場合には躊躇無く敵を攻撃する(盾となっている住民の犠牲は考慮しない)など、全軍特攻の精神を持った極めて攻撃的な内容であった。

敵航空機への対処については、要撃機を完璧に隠匿して空襲から防御し、好機をみてボーイングB-29コンソリデーテッドB-32コンヴェアB-36アブロ・ランカスターPe-8等の大型爆撃機のみを集中攻撃、小型機は原則無視する方針だった。

作戦の戦闘序列

陸軍

各決号作戦のうち、連合国軍が上陸する可能性が最も高かったのは決三号(関東)と決六号(九州)で、『決号作戦準備要綱』の中でも「…主戦面は太平洋及東支那海正面とし、戦備の重点を関東地方及び九州地方に保持す」とされ、関東と九州の2方面に重点が置かれた。また、「決号作戦」として、本土決戦における最終挙軍特攻作戦も準備された。

地上部隊
航空部隊

海軍

本土決戦は本土での陸上戦が主体になると考えられていたため、海軍の作戦は敵上陸船団を攻撃目標として本土に襲来する連合国上陸部隊の戦力の低下および減滅を狙ったものとされた。

海軍総司令長官
連合艦隊司令長官海上護衛司令長官も兼任
海軍総隊直率
艦隊
航空部隊
各鎮守府及び警備府
特殊警備艦
燃料不足などで横須賀・呉などに碇泊する外洋行動不能の大型艦艇。

  1. ^ 戦史叢書『本土決戦準備<1>関東防衛,防衛庁防衛研修所戦史室著・朝雲新聞社
  2. ^ 防衛庁防衛研修所戦史室『戦史叢書93 大本営海軍部・聯合艦隊〈7〉―戦争最終期―』朝雲新聞社
  3. ^ 狩野信行『検証 大東亜戦争史 下巻』2005年、ISBN 4-8295-0360-2


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