比較優位 単純化された例

比較優位

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/05 23:38 UTC 版)

単純化された例

ポール・サミュエルソンは、比較優位を「弁護士と秘書」の例で以下のように説明している[2]

有能な弁護士Aは、弁護士の仕事だけでなく、タイプを打つ仕事も得意だったとする。秘書は、弁護士・タイプの仕事において、弁護士Aより不得意である。更に、秘書はタイプはそこそこできるが弁護士の仕事はほとんどできない。しかし相対的な比較として各自の弁護士の仕事の能力を基準にすれば、秘書のタイピング能力は弁護士Aより優位であると見ることができる。このような場合、弁護士Aは弁護士の仕事に特化し、秘書にタイプの仕事を任せる。それが、弁護士・タイプの仕事が最も効率よくできるからである。

弁護士がタイプを打つと、弁護士報酬という機会費用を捨てることになる。弁護士がタイプを打つのは、恐ろしい機会費用がかかっていることになる。秘書がタイプを打っても、機会費用は低い。無駄な事をしない=何がトクかを常に考える(時間でも費用でも)ことが、「比較優位」を実践していることになる。

具体例

比較優位の提唱者であるデヴィッド・リカードのメシュエン条約の引用例に従って、グレートブリテン王国(以降「イギリス」)とポルトガル王国(以降「ポルトガル」)の2国及び毛織物ワインの2財をモデルにする。

今、イギリスの全労働者が1単位時間分だけ働いた場合の生産量を、毛織物なら単位とし、ワインなら単位とする。一方で、ポルトガルの全労働者が同じだけ働いた場合の生産量を、毛織物なら単位とし、ワインなら単位とする。

この時、

であるならば、ポルトガルはワインに関してイギリスに絶対優位であると言う。

又、

であるならば、ポルトガルはワインに関して(毛織物と比べた場合に)イギリスに比較優位であると言う。

ここで、具体例として、次の表の場合を考える。

1単位時間分だけ働いた場合の生産量
毛織物 ワイン
イギリス
ポルトガル

ポルトガルは、ワインと毛織物の双方に関して、イギリスに対し絶対優位である。しかし、毛織物に関してはイギリスの方が比較優位であり、ワインに関してはポルトガルの方が比較優位である。なお、逆の言い方をすれば、毛織物に関してはポルトガルの方が比較劣位で、ワインに関してはイギリスの方が比較劣位である、と言える。

イギリスの絶対優位性と比較優位性とは無関係であるということが、この具体例からも示される。

効果

各国の労働力人口と労働投入係数が、次の表で与えられる通り、簡略化の為に、失業者が居ない場合を想定している場合を考える。

労働力と労働投入係数
労働力 労働投入係数
合計 毛織物 ワイン
イギリス
ポルトガル

両国の生産可能性辺境線は、貿易を行う事で、自給自足状態における状態より大きくなる。要するに、自給自足状態である場合に比べて、両国とも生産可能性領域が増える。

これは、各国の国際分業によって全体的な労働生産性が増大することを示し、さらに、自由貿易を前提とした場合には両国が共に消費を増大させられることを示している。すなわち、比較優位にある財を輸出すると共に比較劣位にある財を輸入すれば、絶対優位に関係なく貿易で利益を享受できるということを意味する。

もし、どちらの国も生産可能性辺境線上に在る(労働力が逼迫している)場合、一方の財を増産する為にはもう一方の財を減産しなければならない。

例えば、毛織物単位を増産する為には、イギリスではワインを単位減産せねばならないが、ポルトガルではワインを単位減産するだけで済む。逆に考えれば、毛織物を単位減産する場合に、ポルトガルではワインを単位しか増産させられないのに対して、イギリスではワインを単位増産させられる。

これは、比較優位に立つ側は相手側よりも少ない機会費用で生産できる、ということを示している。

仮定

現代において、世界各国は、グローバルな貿易ネットワークに大なり小なりつながっており、貿易を行っている。輸出財は国内需要よりも多く生産しているということであるので、特化が進んでいることになる。

国内には複数の産業があり、それぞれが他国へ輸出を試みたとすると、より高値で販売できる順に序列ができる。

  • 固定相場制をとる国家または共通通貨制下の国々では、輸出で利益を得た産業は生産を拡大し、より多くの利益を得ようとする。この際に、最も高い利益を得た産業が、より多く資源(設備や労働力)の購買力を得て、資源を需要するので、各資源の価格は次第に上昇する。
  • 変動相場制をとる国家では、輸出で得た外貨は、自国通貨へ両替されることになる。このとき、より高い利益を得た産業がより多くの自国通貨を得る。比較優位な産業はより高い利益を得て、生産を拡大し、より多くの利益を得ようとする。この際に、輸出拡張で自国通貨高が進む。

これによって、比較劣位な産業は、収益が悪化し解散するなどして、資源を解放することになる。この結果、比較優位な産業へ資源が集中して、特化が進み、一人当たりの実質GDP成長をうながす。

比較優位の一般化

比較優位の概念は、労働力のみが生産要素の場合には、2国多数財(あるいは2財多数国)の場合にまで容易に拡張させられる。

国と国の間で貿易を行う状況下において、財と財とが有り、それぞれの労働投入係数をそれぞれ及び及びとすれば、

が成り立つとき、国は国に対して、財に比較優位性を持ち、財に比較劣位性を持つ、と言う。

国から国へ財が輸出されて財が輸入されるとは限らない。別の財が国から国へ輸出され、I財とJ財は共に国から国へ輸出され得る[3][4][要ページ番号]。このように、2国多数財のケースでは、比較優位は、それのみでは貿易の方向を決定しない。

貿易論では、3国3財以上の場合は、2国2財あるいは2国多数財の場合とは、様相が大きく異なる。そこで、3国以上の場合を多数国、3財以上の場合を多数財という。以下はR.ジョーンズが1961年の論文に載せた数値例である[5]

ジョーンズの数値例
A: 米国 B: 英国 C: 欧州
1: 小麦  10 10 10
2: リネン 5 7 3
3: 服地  4 3 2

このとき、比較優位の単純な比較はできない。2国2財のどのような組合せを取ろうと、特化パタンは正しく定めることはできない。ジョーンズは、このような場合にも、置換積を最小化する特化パタンを求めればよいことを示した[6]。置換積とは、労働投入係数に対し
    a1σ(1) a2σ(2) ・・・aNσ(N)
という形の積をいう。ここで、σは、{1, 2, ... , N}の置換である。3国3財の場合、置換の数は全部で6個ある。上記ジョーンズの数値例では、A→1、B→3、C→2という特化パタンが唯一実現可能な完全特化パタンである。

労働のみが投入される経済では、ジョーンズの条件により特化パタンが定まるが、投入財が貿易される場合、比較優位の概念は定義ができない。ディアドルフは、いくつもの定義を与えているが、どれも完全なものではない[7]

これは、きわめて不充分な理論状況である。イギリスの産業革命は綿花の輸入によって可能になったし、日本は、幕末開国以来、加工貿易が基本であった。マッケンジーは1956年の論文[8]で、「特化に関する古典的扱いの基本的な誤謬は、... 中間財貿易を無視したことである」(同所、p.56)と指摘しているが、塩沢由典の研究に至るまで、大きな進展はなかった。R.ジョーンズ1961年論文でこの問題に取り組んでいるが、投入係数がどの国でも同一の場合しか定式化できなかった。

塩沢の貿易理論(国際価値論)は、多数国多数財で技術選択と中間財貿易が存在する場合にたいし、古典派価値論と同様の理論が成立することを示した[9]。『リカード貿易問題の最終解決』[10]は、2007年論文を概念的に整理し、正則領域における国際価値(各国の賃金率と世界共通の財の価格)が一義的に定まることを基本定理として示している。第4章では、リカードからポール・クルーグマンの新貿易論、マーク・メリッツの新々貿易論に至るまでの貿易論の歴史を詳しく解説している。







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