小田急2000形電車 車両概説

小田急2000形電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/04 15:10 UTC 版)

車両概説

本節では登場当時の仕様を基本として、改造等による変更点は沿革の節で後述する。

全長20m級の車両による8両固定編成が製造された[1]。基本設計は10両編成であり[1]、中間の2両(M3車とT3車[12] )を除いた編成形態になっている[1]。形式は先頭車が制御車のクハ2050形で、中間車は電動車のデハ2000形と付随車のサハ2050形である。車両番号は、巻末の編成表を参照のこと。

車体

1000形の側面。扉幅は1300mm
2000形の側面。扉幅は1600mmが基本

先頭車は車体長19,650mm・全長20,150mm、中間車は車体長19,500mm・全長20,000mmで、車体幅は当時の帝都高速度交通営団(営団地下鉄)千代田線への乗り入れを考慮して[11]、1000形と同じ2,860mmとした[11]。車体は1000形と同様にステンレス鋼製としたオールステンレス車両[9]、ステンレスの輝きを和らげるために表面をダルフィニッシュ(梨地)仕上げとしている[9]。車体断面形状や構成部材も1000形と同様にしたが、先頭車については後述する車椅子スペースを設置したことにより、全長が150mm長くなっている[9]。側腰板と側梁の接続部分には化粧板としてステンレス板を貼っている[11]。また、小田急では初めて転落防止幌を車体側面の連結面間に設置した[13]。車体は千代田線乗り入れ用機器の搭載ができるよう配線等が準備工事されている[12]

前面は中央に貫通扉を配した貫通型で、1000形と共通の繊維強化プラスチック (FRP) 製成型品を使用した[11]ため1000形とほぼ同じである[14]が、車両番号の位置と色が異なる、正面窓下部が裏側から補強されている[注 1]など細部が異なる。側面客用扉は各車両とも4箇所で、乗務員室(運転室)に隣接する箇所のみ1,300mm幅[11]、それ以外の箇所は全て1,600mm幅の両開き扉である[9]。扉はそれまでの骨組み構造からペーパーハニカム構造に変更して軽量化を図った[9]ほか、扉のガラスは指挟み防止対策として、二重構造(複層ガラス)とすることによって扉本体との段差を解消した[15]。乗務員室の扉には、車庫内での開閉を容易にするために扉下部に手掛けを設けた[15]。車体側面を滴る雨水落下の防止対策として、側面の客用扉・乗務員室扉とも上部には雨樋を設けた[9][15]。車両間の貫通路は800mm幅[4]で、妻面の窓は固定窓とした。

側面窓の配置は、客用扉間には戸袋窓と2枚1組の一段下降窓を配し、車端部には戸袋窓のみが配置されている。下降窓にはスパイラルバランサーを内蔵し[15]、開閉を容易にすると同時に保守の軽減を図っている[15]。前面・側面とも種別・行先表示器LED式を採用した。登場時は、3色LEDであったが、2009年からフルカラーLEDに交換され、現在は全編成がフルカラーLEDとなっている。


内装

座席はすべてロングシートで、客用扉間に7人がけ、客用扉と連結面の間には3人がけの座席が配置される。小田急の通勤車両では初めてバケットシートを採用し[15]、着席位置を明確にすることによって定員乗車の促進を図った[15]。座席の表地は通常の座席は赤系統の抽象柄[15]優先席(シルバーシート)は青系統の抽象柄とした[15]。内装は「さわやかさと暖かみ」のあるものとし[16]、淡いピンク色を基調とした化粧板で構成している[12]。床面は中央部が薄い青緑系の縞模様[15]、通路両側にあたる部分では石目模様とした[15]。扉脇の手すりについては、それまで手すり下端の高さが床から800mmだったものを400mmに延長し[15]幼児の戸袋への引き込み事故防止を図った[15]。各車両の客用扉上部には、LEDフリーパターン式案内表示装置を千鳥配置に設置した[15](路線図案内式表示器は、2051×8と2052×8にのみ設置されたが停車駅変更の為廃止された)。放送装置は自動放送を主体とし[4]、車内のどの位置でも最適な音量・音質となるように改良し[4]、スピーカーを5個から9個に増設した[4]

先頭車の車端部[注 2]には小田急の通勤車両では初めて車椅子スペースを設け[15]、乗務員と対話が可能な非常通報装置も設置された[13]。対話式非常通報装置は先頭車両以外にも設置されている[17]。袖仕切りは、登場時、小型であったが、2010年頃から大型の物に交換された。袖仕切りの色は2種類あり淡い青緑色の編成と淡いピンク色の編成がある。

製造年を示す銘板はプレート式で、和暦での表記がなされている。

主要機器

運転台は、後述するように全電気指令式ブレーキを採用したことからデスクタイプとなった[18]主幹制御器ブレーキ設定器とも力行4ノッチ、常用8ステップ、非常ステップの水平回転式2ハンドル仕様である[18]速度計は千代田線の乗り入れに対応した車内信号対応タイプのものである[12]。計器盤には光電タッチ入力式のモニタ装置を組み込んだ[18]が、このモニタ装置は1000形の同装置に大幅な機能向上を加えたもので[16]、主要機器のモニタリング機能に加えて検修機能も有している[13]。検修機能は出庫整備の容易化を図るもので、集電装置の上昇や電動空気圧縮機・前照灯・蓄電池の充電状態の把握[13]のほか、インバータ制御装置やブレーキ装置については動作試験も可能である[13]。また、試運転時の加減速測定機能や停車駅予告機能も組み込まれた[4]。さらに、空調装置や車内外の案内表示、自動放送の集中管理を行う[13]とともに、乗車率や温度・湿度の表示も可能である[4]警笛は空気笛と共に電子笛が採用され[15]、八幡電気産業製のYA-95033型が搭載された[19]

主電動機は出力175kWかご形三相誘導電動機である三菱電機製のMB-5061-A形を採用した[4]制御装置IGBT素子3レベル方式のVVVFインバータ制御装置[15]である三菱電機製MAP-178-15V49形(1700V/400A)を採用し、デハ2100番台とデハ2400番台の車両に設置した[13]。インバータ1基で主電動機4台を制御する (1C4M) ユニットを1群とし、1台の装置の中に2群のインバータを収めている[15]。駆動方式はWNドライブで、歯数比は99:14=7.07に設定した[13]起動加速度は当初 2.7 km/h/sであったが[5]、1998年(平成10年)のダイヤ改正時に 3.3 km/h/sに引き上げられた[5]制動装置(ブレーキ)は小田急の通勤車両では初めての採用となる回生制動併用全電気指令式電磁直通制動 (MBSA-R) [17]で、ブレーキの応答性を高めるために台車中継弁を設置している[15]

電動台車 SS143
付随台車 SS043

台車は小田急では初めてボルスタレス台車を採用した[15]。電動台車が住友金属工業製SS143、付随台車は住友金属工業製SS043で、いずれも車輪径860mmで牽引装置をZリンクとした[17]モノリンク式軸箱支持形である[15]。防音リング付車輪とすることで走行音の低減を図った[15]ほか、準備工事としてヨーダンパ取り付け座を設けている[15]。基礎制動装置はシングル式(片押し式)である[17]集電装置東洋電機製造PT-4212菱枠パンタグラフをデハ2100番台・デハ2300番台・デハ2400番台の車両に1台ずつ設置した[4]

冷房装置については、11,500kcal/h(13.37kW)の能力を有し、オーバーヘッドヒーターを内蔵するCU-195E形集約分散式冷房装置を1両あたり4台搭載した[18](1両あたり46,000kcal/h(53.49kW)[16])。補助送風装置としてラインデリアを装備し、首振り角度を拡大した[4]上、風速を2段に切り替え可能な機能を持たせた[4]。補助電源装置は、200kVAの自動受給電装置付のIGBT素子式静止形インバータ (SIV) をデハ2000番台・デハ2300番台の車両に搭載した[4]電動空気圧縮機 (CP) はC-2000LA形をデハ2000番台・サハ2250番台・デハ2300番台の車両に搭載した[15]


注釈

  1. ^ 正面窓については1000形リニューアル車も同一形態となった。
  2. ^ クハ2050番台では海側、クハ2450番台では山側。
  3. ^ なお、小田急では1994年10月より甲種車両輸送の授受駅を小田原駅から新松田駅に変更しているが、2000形は初めて新松田駅から搬入された車両である。
  4. ^ 2600形の8両編成化の過程で、余剰となった付随車を活用して、2000形と同型の主電動機と制御装置を使用してVVVFインバータ制御車としていた編成。
  5. ^ 2051×8 - 2053×8は両先頭車(制御車)と付随車、2054×8以降は付随車のみ設置。
  6. ^ マンセル記号「5B 4/6」[26]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k 『鉄道ピクトリアル』通巻679号 p.216
  2. ^ a b c d e f g h 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.313
  3. ^ PHP研究所「小田急電鉄のひみつ」34頁
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 『鉄道ジャーナル』通巻342号 p.88
  5. ^ a b c d 日本鉄道車両機械技術協会「ROLLINGSTOCK&MACHINERY」2017年4月号研究と開発「2000形PS・MS刃形スイッチ動作不良防止について」22-25P内の25Pに記載。
  6. ^ 『鉄道ダイヤ情報』通巻145号 p.15
  7. ^ a b c 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.258
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.260
  9. ^ a b c d e f g h i j k 『鉄道ジャーナル』通巻342号 p.86
  10. ^ “Gマークに5車種、2施設”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 3. (1995年10月16日) 
  11. ^ a b c d e f g 大幡 (2002) p.48
  12. ^ a b c d e f 交通新聞社「鉄道ダイヤ情報」2007年6月号21-23頁
  13. ^ a b c d e f g h 『鉄道ピクトリアル』通巻679号 p.217
  14. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.259
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x 『鉄道ジャーナル』通巻342号 p.87
  16. ^ a b c d 鉄道図書刊行会「鉄道ピクトリアル」1995年10月臨時増刊号新車年鑑1995年版記事
  17. ^ a b c d 大幡 (2002) p.50
  18. ^ a b c d 大幡 (2002) p.51
  19. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.190
  20. ^ a b c 『鉄道ピクトリアル』通巻679号 p.218
  21. ^ a b c d e f g 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.261
  22. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.199
  23. ^ a b c 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.57
  24. ^ 鉄道図書刊行会「鉄道ピクトリアル」2010年7月号103頁Topic Photos「小田急2054編成の袖仕切を変更」
  25. ^ 鉄道図書刊行会「鉄道ピクトリアル」2012年7月号105頁「小田急2000形青帯に変化」記事
  26. ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻829号 p.191





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