古東スラヴ語 古東スラヴ語の概要

古東スラヴ語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/13 06:51 UTC 版)

古東スラヴ語
роусьскъ, rusĭskŭ
話される国 東ヨーロッパ
消滅時期 15世紀ごろ
その後東スラヴ語群の各言語に発展
言語系統
言語コード
ISO 639-2 sla
ISO 639-3 orv
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かつて現在の東ヨーロッパウクライナベラルーシロシアポーランドの県の一部で話されており、今日のウクライナ語ベラルーシ語ロシア語などに発展した[3]とされる(否定説もある[4])。古いロシア文学のモニュメントのほとんどは、古東スラヴ語で書かれている。

呼称

この言語は、すべての東スラヴ人にとって各々の国の歴史の一部であることから、以下のように称されることもある[# 1]

なお、それぞれの訳語の「古」については、「古期」「古代」とも訳すこともある。

概説

古東スラヴ語は、スラヴ祖語から発展しその特徴を多く引き継いでいる。この言語の進化において特筆すべき現象は、いわゆる充音又は母音重複(pleophony、Полногласие ポルノグラーシエ:古代スラヴ語の-ра-, -ла-, -ре-, -ле-の形に対して東スラヴ諸語において-оро-, -оло-, -ере-, -ело-となった現象 [7])とよばれ、他のスラヴ語群にはない東スラヴ諸語の特徴である。充音の例として、スラヴ祖語の*gordъ(街、居住地)は古東スラヴ語ではgorodъに、スラヴ祖語の*melko(牛乳、milk)は古東スラヴ語ではmoloko、スラヴ祖語の*korva(牛、cow)は古東スラヴ語ではkorovaとなる。

現存する文書記録がわずかであることから、言語としてどの程度まで統一されていたのかを判断するのは難しいが、キエフ・ルーシを構成していた部族・氏族の数を考慮した場合、古東スラヴ語にはおそらく多数の方言が存在していたものと考えられる。そのため、今日の説は現存している記録だけを元にした断定的な意見の可能性があり、又こうした記録は、解釈の仕方は複数あるものの、歴史的記録が始まった時点で既に地域的な分化を示している。

時がたつにつれて、分化はさらに進み、現代のウクライナ語ベラルーシ語ルシン語ロシア語などの祖先となっていったという説が最もよく知られている。ただし、これらの言語の分岐時期については諸説あり、スラヴ基語から直接的に分岐し6世紀には別言語になっていたというシェヴェリョフ英語版の説、キエフ・ルーシの成立した9世紀には分岐していたというストルミンスキーの説などがある[4]。ロシアとウクライナ、ベラルーシは元々ひとつであったと主張したソ連では、ルーシの地が分裂した13世紀から14世紀以降に言語も分離していき、元来は同一の言語であったとする説が主流であった[4]。いずれにせよ、これらの言語はそれぞれ古東スラヴ語の文法と語彙を多く受け継いでいる。

タタールのくびきを脱し、以前のキエフ・ルーシの領土がリトアニア大公国モスクワ大公国に二分され、それぞれの国で、南および南西部のルーシ語および北および北東部の中期ロシア語という別々の文語として発展した。

特徴

  • 西スラヴ諸語と南スラヴ諸語と異なり、母音重複が見られる。例えば、
    西スラブ語:/mleko/ 東スラブ語:/moloko/ (牛乳)
    教会スラブ語:/Vladimir/ 東スラブ語:/Volodymir/ (ウラジミル)
    南スラブ語:/grad/ 東スラブ語:/gorod/ (都市)
  • アクセントのない о は、ウクライナ語のように[о]と読む。ベラルーシ語とロシア語のように[а]と読まない。例えば、
    東スラブ語:/koróva/ [korova](牛)
    ウクライナ語:/koróva/ [korova](牛)
    ロシア語:/koróva/ [karova](牛);但し、ロシア語の北方方言にはウクライナ語と同様な発音が見られる。
  • гкхは、常に硬音であり、口蓋化しない。例えば、
    東スラブ語:/кыъвъ/か/кыѢвъ/ [jevъ]か[jivъ](キエフ)
  • фは、ギリシア系の外来語に文語しか用いられず、/hw/, /h/, /p/として発音する。
    ΕφραίμはОхрѣмъか Ехрѣмъ
    ΦιλίπποςはПилипъ

地域の特徴

古東スラヴ語には、キエフチェルニーヒウを中心とした南方諸語と、ウラジーミルノヴゴロドを中心とした北方諸語が区別される。前者はウクライナ語ベラルーシ語に、後者はロシア語に受け継がれていった。


注釈

  1. ^ 英語表記では、英語: Old Ruthenian Language(便宜上の訳語: 古ルテニア語)と呼称されることもある。

出典

  1. ^ ブリタニカ国際大百科事典 19 ティビーエス・ブリタニカ p.513 『ロシア語』の項
  2. ^ 中沢 (2011), pp17-18
  3. ^ 亀井『言語学大辞典』pp.529-530
  4. ^ a b c 中井「ウクライナ語小史」p.157
  5. ^ 国民史観にとらわれない中立的な呼称として用いられる。Henryk Paszkiewicz. The making of the Russian nation, 1977. p.138,158. Andriĭ Danylenko. Slavica et Islamica: Ukrainian in context, 2006. p.38.
  6. ^ 亀井『言語学辞典』 p.529
  7. ^ 東郷『研究社露和辞典』 Полногла́сие の項より
  8. ^ Иванова Т. А. Старославянский язык. М.: Высшая школа, 1997. — с. 56.
  9. ^ 除村『ロシヤ年代記』856頁
  10. ^ 除村『ロシヤ年代記』3頁より引用
  11. ^ 森安『イーゴリ遠征物語』 165頁より引用
  12. ^ 和田『ロシア史』38頁
  13. ^ 除村『ロシヤ年代記』857頁





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