ローヤルゼリー ローヤルゼリーの概要

ローヤルゼリー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/04 09:46 UTC 版)

ローヤルゼリーに囲まれた成長中の女王蜂の幼虫

ミツバチは、卵の段階では、働き蜂も女王蜂も同じメスである。ところが、孵化してから3日目までのみローヤルゼリー(厳密には、より栄養価の低い「ワーカーゼリー」)を食べ、4日目以降、蜂蜜と花粉を食べるメス蜂の幼虫は働き蜂となる。一方、女王蜂となるメス蜂は孵化してから生涯にわたり栄養価の高いローヤルゼリーを食べ続ける。女王蜂の生涯において唯一のエネルギー源でもある。

成虫となった女王蜂を働き蜂と比較すると、体の大きさは2〜3倍、寿命は30〜40倍になる。卵を産むことができない働き蜂に対して、女王蜂は毎日約1,500個もの卵を産み続けることができるなど、特徴や能力が大きく異なる。

日本語では、王乳とも称される。現在の日本においては、プロポリスと同様に健康食品や化粧品として販売されている。

蜂蜜と同じく蜂の巣から採れるが、蜂蜜とは異なり一般的には白いクリーム状で発酵食品のような特徴的な酸味を有する事から、市販品はソフトカプセル錠剤状にしたものがほとんどである。

概要

日本では「ローヤルゼリーの表示に関する公正競争規約」(昭和54年9月25日公正取引委員会告示第27号)によって、生ローヤルゼリー乾燥ローヤルゼリー調製ローヤルゼリーに分類されており、それぞれの表示について種類ごとに性状や組成などに応じた厳しい基準が設けられている。

生ローヤルゼリー
みつばちが女王蜂を育成するため、その咽頭腺等を通じて王台中に分泌したものであって、移虫後72時間以内に採取したもの[1]
乾燥ローヤルゼリー
生ローヤルゼリーを凍結乾燥その他の方法により乾燥処理したもの[2]
調製ローヤルゼリー
生ローヤルゼリー又は乾燥ローヤルゼリーに乳糖、はちみつ等の調整剤、添加物等を使用し、調製(錠剤、カプセルその他剤型品の調製は、品質保全のため必要な場合に限る)したものであって、使用した生ローヤルゼリーの重量が全重量の6分の1以上のもの[3]

成分

ローヤルゼリーは、ビタミンB(パントテン酸〔B5〕やピリドキシンB6〕)といった成分が含まれることから様々な健康効果を謳ってヒトに対するサプリメントとして集められ販売されている。全成分は水 67%、少量の様々なアミノ酸リジンメチオニンスレオニン[4])を含む粗タンパク質(ロイヤリシン、ロイヤラクチン、アピシン[5]) 12.5%、単糖 11%、比較的高い量の脂肪酸(デセン酸[5])5% である。また、多くのわずかなミネラル葉酸[4]植物ステロール[5]、ある種の酵素、抗菌・抗生物質、わずかな量のビタミンCも含まれているが[6]、脂溶性ビタミンであるADEKは含まれていない[7]

ロイヤラクチン

ある蜂が女王蜂へと発達する原因となるローヤルゼリーの成分は、ロイヤラクチンと呼ばれている単一のタンパク質といわれている。長期間に亘り貯蔵し不活性化させたゼリーにそれぞれの成分を添加し調べたところ、ロイヤラクチンを加えたゼリーのみが幼虫を女王蜂へとする活性を有していた[8]。ロイヤラクチンはキイロショウジョウバエ (Drosophila melanogaster) においても、体の大きさの増大と卵巣の発達を特徴とする同様の形態学的変化を誘導した。但し、この研究の再現性については議論がなされている(詳しくはロイヤラクチンの項目を参照)。

ローヤルゼリーのアミノ酸スコア(タンパク質の品質を示すスコアで、必須アミノ酸の含有バランスを示すもの)は100で、鶏卵と同スコアであり、良質なタンパク質を含有している。

このタンパク質の一部が原因となり、ごく稀に、喘息および食物アレルギーをもつ持つ人において、喘息蕁麻疹アナフィラキシーを含む重いアレルギー症状が引き起こされた例が報告されている[9][10][11][12][13][14]。現在、ローヤルゼリーを含む健康食品に、喘息や食物アレルギーを持つ人へ飲用を控える表示が徹底されるようになった。

一方、ローヤルゼリーのタンパク質をペプチドやアミノ酸に分解することによって、アレルギー症状の発症リスクが低くなることが報告されている[15][16]

ローヤルゼリーの歴史

ローヤルゼリーの研究は、ヨーロッパ各国で1900年代より本格的に行われるようになった。当時のローマ教皇が老衰による危篤状態に陥った際、主席侍医のバオルチー氏やパウロ・ニーハンス博士、ガレヤ・ジリシー博士らがローヤルゼリーを投与したところ、回復。1955年ローマで開催された国際医学会にて発表後、1958年、イタリア(ローマ)で開かれた第12回国際養蜂会議で、教皇自らミツバチを称えるスピーチを行った。

これをきっかけにローヤルゼリーが全世界に知れ渡ることとなるが、日本においては、1959年、週刊朝日に掲載された記事により、一般の人々の関心を集めることとなった[17]。また、同時期、「不老長寿の新薬」として輸入され始め、1960年、国内での計画生産が始まった[18]


  1. ^ 「ローヤルゼリーの表示に関する公正競争規約」(昭和54年9月25日公正取引委員会告示第27号)第2条(1)の定義
  2. ^ 「ローヤルゼリーの表示に関する公正競争規約」(昭和54年9月25日公正取引委員会告示第27号)第2条(2)の定義
  3. ^ 「ローヤルゼリーの表示に関する公正競争規約」(昭和54年9月25日公正取引委員会告示第27号)第2条(3)の定義
  4. ^ a b 西崎統(2003)、p.391
  5. ^ a b c 蒲原聖可(2004)、p.374
  6. ^ Graham, J. (ed.) (1992). The Hive and the Honey Bee (Revised Edition). Dadant & Sons 
  7. ^ Value-added products from beekeeping. Chapter 6.”. 2012年2月20日閲覧。
  8. ^ Kamakura, M. (2011). “Royalactin induces queen differentiation in honeybees~”. Nature 473 (7348): 478-483. doi:10.1038/nature10093. PMID 21516106. 
  9. ^ Bullock RJ, Rohan A, Straatmans JA (1994). “Fatal royal jelly-induced asthma”. Med. J. Aust. 160 (1): 44. PMID 8271989. 
  10. ^ Thien FC, Leung R, Baldo BA, Weiner JA, Plomley R, Czarny D (1996). “Asthma and anaphylaxis induced by royal jelly”. Clin. Exp. Allergy 26 (2): 216-222. PMID 8835130. 
  11. ^ Leung R, Ho A, Chan J, Choy D, Lai CK (1997). “Royal jelly consumption and hypersensitivity in the community”. Clin. Exp. Allergy 27 (3): 333-336. PMID 9088660. 
  12. ^ Takahama H, Shimazu T (2006). “Food-induced anaphylaxis caused by ingestion of royal jelly”. J. Dermatol. 33 (6): 424-426. 
  13. ^ Lombardi C, Senna GE, Gatti B, Feligioni M, Riva G, Bonadonna P, Dama AR, Canonica GW, Passalacqua G (1998). “Allergic reactions to honey and royal jelly and their relationship with sensitization to compositae”. Allergol. Immunopathol. (Madr) 26 (6): 288-290. 
  14. ^ Leung R, Thien FC, Baldo B, Czarny D (1995). “Royal jelly-induced asthma and anaphylaxis: clinical characteristics and immunologic correlations”. J. Allergy. Clin. Immunol. 96 (6 Pt 1): 1004-1007. 
  15. ^ 特許第3994120号
  16. ^ 柳原ら, 日本農芸化学会大会講演要旨集, p.161 (2008)
  17. ^ 鈴木 勲, “日本におけるローヤルゼリーの経緯について”,ミツバチ科学,7(3) : 105-108 (1986)
  18. ^ 小野保一,“ローヤル・ゼリーの生産について”,ミツバチ科学,3(1) : 11-14 (1982)
  19. ^ Erem C, Deger O, Ovali E, Barlak Y (2006). “The effects of royal jelly on autoimmunity in Graves' disease”. Endocrine 30 (2): 175-183. 
  20. ^ Hashimoto, M.; Kanda, M.; Ikeno, K.; Hayashi, Y.; Nakamura, T.; Ogawa, Y.; Fukumitsu, H.; Nomoto, H. et al. (April 2005). “Oral administration of royal jelly facilitates mRNA expression of glial cell line-derived neurotrophic factor and neurofilament H in the hippocampus of the adult mouse brain”. Biosci. Biotechnol. Biochem. 69 (4): 800-805. doi:10.1271/bbb.69.800. PMID 15849420. http://journals2005.pasteur.ac.ir/BBB/69%284%29/800-805.pdf. 
  21. ^ Hattori, N.; Nomoto, H.; Fukumitsu, H.; Mishima, S.; Furukawa, S. (October 2007). “Royal jelly and its unique fatty acid, 10-hydroxy-trans-2-decenoic acid, promote neurogenesis by neural stem/progenitor cells in vitro”. Biomedical Research (Tokyo, Japan) 28 (5): 261-266. PMID 18000339. 
  22. ^ PDR Health, Royal Jelly. available online
  23. ^ Izuta, Hiroshi; Yuichi Chikaraishi, Masamitsu Shimazawa, Satoshi Mishima and Hideaki Hara (2007年10月22日). “10-Hydroxy-2-decenoic Acid, a Major Fatty Acid from Royal Jelly, Inhibits VEGF-induced Angiogenesis in Human Umbilical Vein Endothelial Cells”. Oxford Journals. 2009年10月2日閲覧。
  24. ^ ABOU-HOZAIFA, B. M.; N. K. BADR EL-DIN (1995年). “Royal jelly, a possible agent to reduce the nicotine-induced atherogenic lipoprotein profile”. Saudi Medical Journal, Riyadh. 2011年2月25日閲覧。
  25. ^ サプリメントを考える 5
  26. ^ Benefits of Royal Jelly, Royal Jelly. available online
  27. ^ 山田典子、吉村裕之,“若年女性の冷え症に対するローヤルゼリー摂取の改善効果”,日本栄養・食糧学会誌, 63(6) p.271-278 (2010)
  28. ^ 立藤智基、浅間孝志、土井志真、菅野智子、橋本健,“肩こり症状に対するローヤルゼリー含有食品の改善作用-プラセボ対照二重盲検試験による検討―”,東方医学,26(1) p.55-64(2010)
  29. ^ 嶽 良博、奥野吉昭、沖原清司、橋本 健、榎本雅夫,“ローヤルゼリー含有食品による耳鳴症状の改善効果の検討試験”,応用薬理,75(5/6) p.109-116 (2008)
  30. ^ 梶本修身, 中妻章, 土井志真, 西村明, 梶本佳孝, 平田洋, “ローヤルゼリータンパク質加水分解物の正常高値血圧者および軽症高血圧者に対する降圧作用の検討”, 健康・栄養食品研究, 8(2) p.37-55 (2005)
  31. ^ Hidaka S, Okamoto Y, Uchiyama S, Nakatsuma A, Hashimoto K, Ohnishi ST, Yamaguchi M (2006). “Royal jelly prevents osteoporosis in rats: beneficial effects in ovariectomy model and in bone tissue culture model”. Evid. Based Complement. Alternat. Med. 3 (3): 339-348. PMC 1513150. PMID 16951718. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1513150/. 
  32. ^ Nomura M, Maruo N, Zamami Y, Takatori S, Doi S, Kawasaki H (2007). “Effect of long-term treatment with royal jelly on insulin resistance in Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF) rats”. Yakugaku Zasshi 127 (11): 1877-1882. doi:10.1248/yakushi.127.1877. PMID 17978564. 
  33. ^ Zamami Y, Takatori S, Goda M, Koyama T, Iwatani Y, Jin X, Takai-Doi S, Kawasaki H (2008). “Royal jelly ameliorates insulin resistance in fructose-drinking rats”. Biol. Pharm. Bull. 31 (11): 2103-2107. doi:10.1248/bpb.31.2103. PMID 18981581. 
  34. ^ 牛凱軍、郭輝、崔宇飛、小林順敏、永富良一. “ローヤルゼリーの高齢マウスの筋衛星細胞の機能と増殖能への影響”, 第65回 日本体力医学会大会抄録 (2010)
  35. ^ 高須靖夫, 太田喜昭, “内科領域におけるローヤルゼリー散の臨床効果”, 診断と新薬, 12 (8) 47-54 (1975)
  36. ^ Vittek J. (1995). “Effect of royal jelly on serum lipids in experimental animals and humans with atherosclerosis”. Experientia 51 (9-10): 927-935. PMID 7556573. 
  37. ^ Guo H, Saiga A, Sato M, Miyazawa I, Shibata M, Takahata Y, Morimatsu F (2007). “Royal jelly supplementation improves lipoprotein metabolism in humans”. J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo) 53 (4): 345-348. PMID 17934240. 
  38. ^ 池田勇五、鷲塚昌隆、古市浩康、福田陽一、桑原優, “ストレスとローヤルゼリー”, ミツバチ科学, 17(3): 103-110 (1996)
  39. ^ 八並一寿、越後多嘉志, “蜂蜜およびローヤル・ゼリーの抗菌作用”, ミツバチ科学, 5(3) : 125-130(1984)
  40. ^ 蒲原聖可(2004)、p.375


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