メコン川 水位・流量

メコン川

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/16 05:54 UTC 版)

水位・流量

メコン流域は季節風の影響を受けるため、その水位や流量は、雨期である5月末〜10月にかけて最高を記録し、乾季の末の5月頃には最低を記録する。メコンデルタ地方は、数千年に亘ってメコン川が運搬した土砂によりできた堆積平野であるために標高差がほとんどなく、流量の少ない乾季の末には南シナ海の潮汐の影響が顕著に現れる。満潮時と干潮時では、河口近くのヴァムケーンでは3 m、河口から約100 kmのミートゥアン橋付近では2〜2.5 m、約200 kmのチャウドックでも1 m程度の水位の変化が潮汐のために見られ[12]感潮河川としての特色も強い。

 

パークセーの観測所で計測された月ごとの平均の流量 (m3/s)
(13年間の平均は9000 m3/s)

メコンデルタ

メコンはカンボジアの首都プノンペンの南でトンレサップと合流し、本流とバサック川の2つの流れに分かれてベトナムへと流れる(雨季の間はトンレサップへも流れる)。メコン本流とバサック川は更に分岐と合流を繰り返し、農業、特にコメの栽培に欠かせない非常に肥沃なデルタを形成する。ベトナム語ではこれらの流れをまとめてソン・クー・ロン、すなわち九龍川と呼ぶが、これはメコンが9つの流れ、9匹の龍になって南シナ海に注ぎ込むと考えられていたからであった。実際には、19世紀の初めには、デルタを構成する大きな流れは4本であることが知られていた。また現代のベトナムでは地方区分名として「メコンデルタ地方(ベトナム語Đồng bằng sông Cửu Long / 垌平瀧九龍)」が存在する。

メコンデルタは、55000 km2の面積に1800万人の人口を抱える。ベトナムのメコンデルタ地方には、アンザン省(Tỉnh An Giang)、ドンタップ省(Tỉnh Đồng Tháp)、カントー中央直轄市(Thành phố trực thuộc trung ương Cần Thơ)、ヴィンロン省(Tỉnh Vĩnh Long)、ハウザン省(Tỉnh Hậu Giang)、ティエンザン省(Tỉnh Tiền Giang)、ベンチェ省(Tỉnh Bến Tre)、チャーヴィン省(Tỉnh Trà Vinh)、ソクチャン省(Tỉnh Sóc Trăng)、ロンアン省(Tỉnh Long An)、キエンザン省(Tỉnh Kiên Giang)、バクリエウ省(Tỉnh Bạc Liêu)、カマウ省(Tỉnh Cà Mau)が含まれ、前者1市8省がメコン川の流域内である。なお、人工の水路を含めれば、さらに他の省も水路で接続されている。

カンボジアのメコン流域の水位は、河口沖合の南シナ海の満潮時の潮位より低い。このため、満潮時にはメコンの流れはベトナムからプノンペンまで、海から逆流する。その結果、ベトナムの非常に平坦なメコンデルタ領域、特にカンボジア国境に近いアンザンドンタップでは氾濫しやすい。

歴史

メコンに関する最も古い文明の痕跡は紀元前2100年まで遡り、鉄器時代の文化がバーンチエン遺跡に残されている。外部の文明との交流の最も古い記録としては、クメール文明の扶南国の遺跡があり、ベトナムのアンザン省オケオの遺跡では1世紀頃のローマ帝国のコインが発見されている。

最初にメコンに遭遇したヨーロッパ人は、1540年のポルトガルのアントニオ・デ・ファイラであった。1563年のヨーロッパの地図にはメコンについての記述が現れるが、ヨーロッパの関心は希薄だった。後になって、スペインとポルトガルはキリスト教宣教師を送り込み、布教と貿易のための探検隊を組織した。1641年から1642年には、オランダのゲリット・ファン・ウィストフが遠征を行い、ビエンチャンに達した。

フランスは、19世紀中頃にこの地域への関心を強めた。1861年にサイゴンを支配下に置き、1863年にカンボジアを保護国にした。フランスのメコン探検隊がエルネスト・ドゥダール・デ・ラグレとフランソワ・ガルニエによって組織され、初めて系統的な探検が始まった。この探検は1866年から1868年にかけて行われ、ガルニエは河口から雲南まで遡上した。水源は、ロシア人探検家ピョートル・コズロフによって1900年に明らかにされた。

1893年から、フランスは川の支配域をラオスに広げ、20世紀の最初の10年間でフランス領インドシナを設置した。日本軍の仏印進駐太平洋戦争を経て、第一次インドシナ戦争に敗れたフランスの支配は終わったが、以降、この領域にアメリカ合衆国が深く関わった。ベトナム戦争後、アメリカ合衆国が支持するタイ政府と、その他の国における新しい共産主義政権の間に緊張が続き、メコンの利用については協力関係を築けない状態が続いた。しかし、1957年には、流域諸国が集まって協議するメコン川委員会が創設された。

この他に1995年には、ミャンマー以外の東南アジアの流域4カ国でメコン流域コミッション(メコン川委員会[1]、MRC)が創設され、アメリカ合衆国の他にヨーロッパ諸国や日本も支援してきた。さらにアメリカ合衆国は、メコン下流域開発(LMI)を通じた協力を2009年に開始し、2020年9月11日にはメコン-アメリカ・パートナーシップの初会合を開いた。これに対して中国は2015年に東南アジア5カ国と澜沧江-メコン川協力(LMC)を発足させ。2016年には他の流域5カ国とメコン川協力首脳会議を開催[1]した。こうした国際枠組みは流域の開発、治水水力発電、農漁業のための水資源についての協力・対立という面だけでなく、東南アジアにおけるアメリカ合衆国と中国との影響力争いという側面もある[2]アメリカ合衆国国務省は2020年12月、中国領内のダムを衛星写真で監視する計画を公表した[1]


  1. ^ a b c d e f g 「メコン川流量激減/東南ア 農漁業被害/中国のダム建設影響か」「新たな米中攻防の舞台」読売新聞』朝刊2021年2月26日(国際面)※本文閲覧は要会員登録。
  2. ^ a b c メコン流域国 米中が綱引き/河川管理、中国主導に米反発」『日本経済新聞』朝刊2020年9月9日(国際面)2020年10月4日閲覧
  3. ^ メコン川流域で163種の新種を発見!最新報告を発表”. WWFジャパン. 2017年8月17日閲覧。
  4. ^ a b ダム建設に揺れるメコン川」『ナショナルジオグラフィック日本版』2015年5月号(2020年10月4日閲覧)
  5. ^ a b c Tram Chim National Park | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2012年2月2日). 2023年4月6日閲覧。
  6. ^ Beung Kiat Ngong Wetlands | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2010年6月16日). 2023年4月6日閲覧。
  7. ^ Lower Songkhram River | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2020年4月23日). 2023年4月6日閲覧。
  8. ^ Xe Champhone Wetlands | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2010年6月26日). 2023年4月6日閲覧。
  9. ^ a b Middle Stretches of Mekong River North of Stoeng Treng | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2012年1月1日). 2023年4月6日閲覧。
  10. ^ Nong Bong Kai Non-Hunting Area | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2001年7月5日). 2023年4月6日閲覧。
  11. ^ Lang Sen Wetland Reserve | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2015年5月22日). 2023年4月6日閲覧。
  12. ^ ベトナム・メコン河下流域における水位変動特性” (PDF). 上原克人. 2015年3月24日閲覧。
  13. ^ Probe International 30.06.2006 The Hydrolancang cascade Archived 2009年5月29日, at the Wayback Machine.
  14. ^ 【ASEAN50年】メコン川流域 中国主導の「水運開発」岩礁爆破に住民反発”. 『毎日新聞』朝刊2017年8月4日(国際面). 2017年8月18日閲覧。
  15. ^ メコン川に大異変、世紀の低水位を記録、深刻な食料危機の恐れも 水が澄む「ハングリーウォーター」現象も発生、6000万人が頼る大河が岐路に ナショナルジオグラフィック(2020年2月29日)2020年10月4日閲覧






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