キュビスム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/26 13:22 UTC 版)
時代区分
以下の時代区分は、ピカソとブラックのキュビスムについてであり、その他の作家たちについては必ずしもあてはまらない。またピカソやブラックと同時代に存在した区分ではなく、後世の批評家や美術史家が定めた区分である。
- プロトキュビスム(Proto Cubism)
- 『アヴィニョンの娘たち』以降、ピカソとブラックの作品は、人物、静物、風景のいかんに関わらず、立方体のような単純な形に還元されてゆく。この時期に描かれた絵(特に風景画)はセザンヌ的であるので、セザンヌ的キュビスムということがある。ちなみにこの時期を次の「分析的キュビスム」に含める考え方もある。
- 分析的キュビスム (Analytical Cubism)
- 1909年夏頃以降、対象の分析・解体が進み、作品は平面に近づく。何が描かれているか判別がつきにくいという意味では、最も難解な時期といえる。代表作としては、「ウーデの肖像」(1910年)、「カーンワイラーの肖像」(1910年)(いずれもピカソ)がある。
- 総合的キュビスム(Synthetic Cubism)
- 1912年春頃以降、形態の分析・解体が一段落し、代わりに平面的な部分を構築する技法が用いられ始める。この時期の特徴として挙げられるのはパピエ・コレ、文字の導入、シェイプト・キャンバス、色彩の復活である。
キュビスムと写真
キュビスムは写真に対しても大きな影響を与えているが、未来派、ダダ、シュルレアリスムのように、キュビストそのものが、キュビスム的な写真作品を残しているということはまずない。たとえば、ピカソが、写真作品を多く制作しているのは有名だが、キュビスムの写真作品と呼べるようなものではない。
一般に、「キュビスムの写真」と呼ばれるような作品は、キュビスムの影響を受けた作品のことで、人物、風景(自然のもの、人工的なものを問わず)等を撮影していながら、光と影の対比、幾何学的な形態(まる、三角、四角、水平線、垂直線、対角線など)の重視、対称の構成的な配置等に、強い特徴をもった作品であり、構成主義的な写真へと直結するような位置にある。キュビスムの写真への影響は、むしろ、ストレートフォトグラフィにおいて、顕著だといわれることが多いようであるが、実際にはそれにとどまらず、ピクトリアリスム、未来派、ダダ、シュルレアリスムそれぞれの写真作品にもその跡は見て取ることができ、いわゆる「バウハウスの写真」にも大きな影響を与えている。
この範疇に含まれる具体的な写真家としては、ヨーロッパでは、アンドレ・ケルテス、アレクサンドル・ロトチェンコ、フランティセック・ドルティコルなど、アメリカでは、ベレニス・アボット、イモージン・カニンガム、エドワード・ウェストン、ポール・アウターブリッジ・ジュニア、ポール・ストランドなど、日本では淵上白陽を中心としたいわゆる「構成派」の写真家たち(松尾才五郎、高田皆義、津坂淳、西亀久二など)が挙げられる。特に日本では、静物でも人物像でも、単なる影響にとどまらず、「キュビスムそのもの」というような作品すらあり、また、黒と白の効果的な使い方も顕著に見られる。
関連分野
- チュビスム(チュービズム)
- 1910年代前半のレジェのキュビスムの作品を、チュビスムと呼ぶことがある。特に人物画において、チューブ状の物体に解体された作品が多く、ルイ・ヴォークセルがレジェの作品を見て、それらの作品に「チューブ」のような形態を見出したことが、この呼び名の由来となっている。
- キュビスムの影響を受けて、1913年に、パリにおいて、スタントン・マクドナルド=ライト(1890年 - 1973年)とモーガン・ラッセル( 1886年 - 1953年)の2人のアメリカ人により主張された絵画形式。基本的にはキュビスムの影響により抽象性が増した作品だが、色彩豊かな作品で、オルフィスムに近い。抽象性が徹底している作品ばかりではなく、再現的な作品もあり、その点でも、オルフィスムに近い。短命であり、1918年ごろには、ほとんど具象作品に回帰した。やはりパリにいた、パトリック・ヘンリー・ブルース(1880年 - 1937年)の作品を含めて考える場合もある。また、シンクロミズム自体を、オルフィスムに含めてしまう考え方もある。
- ニール・コックス(田中正之訳)『キュビスム(岩波世界の美術)』(岩波書店、2003)ISBN 4000089714
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