TMSとrTMSの研究への応用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 13:50 UTC 版)
「経頭蓋磁気刺激法」の記事における「TMSとrTMSの研究への応用」の解説
認知心理学や認知神経科学においてTMSが重要である理由の一つとして、TMSは因果関係を示せるという点がある。非侵襲的なマッピング法であるfMRIなどによって、被験者が特定の課題を行っている際に、どの脳領域が活動しているかが分かる。しかし、このことはその脳領域が実際にその課題を遂行するために使われているという証拠とはならない。何故なら、このことはその脳領域がその課題と関連しているということを示したに過ぎないからである。しかし一方、その領域の活動をTMSによって抑制(つまり“ノックアウト”)した結果、被験者によるその課題の成績が低下したのであれば、その脳領域がその課題に実際に使われているという強い証拠になる。 例えば、被験者にある数字列を記憶してもらい復唱させる課題において、前頭前皮質 (PFC) の活動がfMRIによって観測された場合、短期記憶におけるこの領域の役割が示唆される。このときさらに、実験者が TMS によって PFC に干渉すれば、被験者の数字列を記憶する能力が低下し、PFC が短期記憶に重要な役割を持つという証拠が得られる。何故なら被験者の PFC の能力の低下が短期記憶の減少を引き起こしたからである。 この“ノックアウト”法(または仮想障害法 (virtual lesioning))は2種類の方法で行われる。 オンラインTMS (Online TMS) 被験者が課題を行っている際に、課題内の特定の(おおよそ1-200msのオーダーの)時間帯においてTMSパルス刺激を脳の特定の領域に行う方法。この刺激により、課題の成績が特異的に変化する。これにより、刺激した脳領域が課題内の特定の時間帯において、その課題に関係していることが示される。この方法の利点は、実験の結果から特定の脳領域がその課題をいつ、どのように処理しているのかという情報を得ることが出来るほか、プラセボ効果や他の脳領域による機能の補填による効果が起きる時間を無くすことが出来る点がある。一方、この方法の欠点としては、刺激を行う位置に加えて、問題となる脳領域がその課題に関係するおおよその時間帯を、被験者があらかじめ知っていなければならないため、刺激による効果が起きないことが決定的な証拠とはならない点がある。 オフライン rTMS (Offline repetitive TMS) 事前に被験者の課題の成績を計測しておき、次に rTMS を数分間行い、その後にもう一度課題の成績を計測する方法。この方法の利点は脳処理の時間スケールに関する知識を必要としない点である。しかし、プラセボ効果に対するドーパミンの寄与により、オフライン rTMS はプラセボ効果の影響を非常に受けやすいという欠点がある。加えて、オフライン rTMS の効果は被験者間や同一被験者内でも一定ではない。この方法の派生として、反復刺激法により課題成績を上げる“強化”法があるが、“ノックアウト”法よりさらに困難である。
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