雪に柩積木のごとく重ねおく
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評 言 |
柩、これはいうまでもなく人間の死を納めた木製の箱で、然るべき儀式をもって葬られることになる。現在では多くが火葬に付される。その柩が、積木のごとく重ねられているとは、そこに多くの人々の死が存在し、何か異様な仮定外の事態のなかにあることがわかる。恐らく白布もかけられてはいないだろう。 雪が降り、少し雪のいろが風景に入ってくるが、その白は輝くどころか、薄墨いろを秘めているようで、白布の代りにはならず、寂寥として重苦しい。平成七年一月十七日の、阪神淡路大震災十句の一句。「なにもかも倒れて真冬深みたる」の作もある。 地上に真直に立っていた物すべてが、倒れ砕けたなかに、柩のみが積み重ねられ、死の光景だけがひろがっていく。災害・破壊・不意に剥ぎ取られた人間の生命。想像を絶する環境の渦に、作者の眼は、少しもたじろがず、深い悲しみに満ちている五体が、その悲しみを超えようとして、現実を凝視しているように思われる。人間の存在を喪失してしまわないように、惨状を描写しているとも。 「積木のごとく」には、地道に築きあげてきた各々の個のある人生が、瞬時に乱され、不本意に終結してしまったことへの、口惜しさが、強く込められている。あたかも、積木が崩れるように、尊いものが毀れてしまったのである。 さらに、重ねられて、少しの時間かとは思われるが、尊厳な死という姿が、生きている人間の視野から離れて置かれていることへの想い。沈思をともなって、非常時が美しく示されている。 |
評 者 |
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備 考 |
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