軌道近くから他の天体を排除とは? わかりやすく解説

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軌道近くから他の天体を排除

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/12 23:44 UTC 版)

太陽系の天体の分類
恒星太陽
太陽の
周りを
回る
天体
惑星 地球型惑星
木星型惑星
天王星型惑星
準惑星
小惑星帯にあるもの
ケレスのみ)
冥王星型天体
太陽系
小天体
冥王星型天体以外の
太陽系外縁天体
小惑星
彗星
惑星間塵
太陽以外の
天体の周りを
回る天体
衛星(未定義)
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軌道近くから他の天体を排除[1][2][3] (きどうちかくからほかのてんたいをはいじょ、: Clearing the neighbourhood around its orbit) とは、国際天文学連合 (IAU) が2006年に決定した太陽系の惑星の定義において、太陽系内の天体惑星とみなされるために満たしている必要がある3つの基準のうちの一つである[4]。残りの2つの基準は、「太陽の周りを回っていること」と、「ほぼ球形の重力平衡状態になるための十分な質量を持っていること」である[1][4]

惑星形成の最終段階において、惑星はその軌道領域から「他の天体を排除」、すなわちその領域において重力的に支配的な存在となる。その結果として、自身の衛星やその他の重力的な影響下に置いているもの、および一時的な軌道を持つものを除いて、同程度の大きさを持つ天体は軌道領域には他に存在しなくなる[2]。太陽系内の大きな天体のうち、惑星の定義のその他2つは満たしているが軌道近くから他の天体を排除していないものは、準惑星に分類される[4]冥王星がこの分類に含まれ、その軌道は海王星の重力の影響下にあり、なおかつ多数のエッジワース・カイパーベルトの天体と軌道領域を共有している。IAU の定義ではこの基準に対して明確な数値や方程式は与えられていないものの、IAU によって認定された惑星は全て、いかなる準惑星やその候補天体よりも遥かにその軌道周辺の天体を排除していると言える[2]。この「他の天体を排除している」という曖昧な条件を、物理量や数式を用いて定量的に厳密化しようという研究も行われている[5][6][7]

この表現は、惑星科学者のアラン・スターン英語版ハロルド・レビソン英語版によって2000年の IAU 総会に提出された論文に由来するものである。彼らは、恒星を公転する天体がその質量と軌道周期に基づいて微惑星を「軌道近くから他の天体を排除」する可能性が高いかどうかを判断するための理論的な基準を考案する際に、いくつかの似た表現を用いた[5]。一方で天文学者の Steven Soter は "dynamical dominance"[注 1] という表現を用いており[6]Jean-Luc Margot はこちらの表現の方が「天体を排除」という表現よりも誤解される余地が少ないだろうと指摘している[7]

2006年以前は、何十年にもわたって新しい惑星は発見されてこなかったため IAU は惑星の命名に関して明確な規則を持っていなかった[1][8]。その一方で、小惑星彗星といった多くの新しく発見された小天体に対しては確立された命名の規則が存在した。2005年に発見が報告されたエリスは、大きさが冥王星と同程度であったため命名のプロセスが発見報告後に滞り、正式な命名手続きを行うのは IAU 総会で惑星の定義についての投票結果が出た後とされた[9]

2015年には、この定義を観測によって決定することが容易な値に基づいて定量化できるような改良を行い、太陽系外惑星に拡張するための提案についての論文が発表された[7]

定量的な基準

このフレーズは、公転する天体 (惑星や原始惑星) が周囲にある小さい天体と重力的に相互作用することにより、時間とともにその軌道周辺の領域から他の天体を「一掃する」ことを指す。大きな天体は軌道を何周もする間に、小天体を自身に降着したり、他の軌道へと乱したり、あるいは衛星共鳴軌道への捕獲を行ったりする。その結果として、自身の衛星や重力的な影響下に置いているその他の天体を除くと、大きな天体はその軌道領域をその他の大きな天体と共有することはなくなる[5]。重力的な影響下に置いている天体というのは、軌道は交差する可能性があるものの軌道共鳴のため衝突する可能性が無いものを指し、例としては木星木星のトロヤ群天体、地球クルースン海王星冥王星族の天体が挙げられる[5][注 2]。軌道から他の天体を排除する必要な度合いに関しては、Jean-Luc Margot は「重力と放射による力によって小惑星と彗星の軌道は惑星と交差する軌道へと乱され続けるため、惑星がその軌道領域を完全に排除することは決して無い」と強調した上で、IAU は軌道領域からの完全な排除という不可能な基準を意図したわけではなかったと述べている[7]

IAU が太陽系の惑星の定義を行う前から現在に至るまで、大きな天体がその軌道近くから他の天体を排除することに関して定量的に評価する試みが行われてきた。ここではそれらの基準について概説する。

スターンとレビソンによる Λ

アラン・スターンとハロルド・レビソンによる2002年の論文では、惑星がその周辺の領域を支配しているかどうかを決定するためのアルゴリズムの探索が行われた[5]。彼らは、ある天体が宇宙の年齢 (ハッブル時間) と同じ期間の間にその軌道領域から小天体を散乱する能力を表す指標として、

エッジワース・カイパーベルトにある天体の、おおまかな距離と軌道傾斜角を示したグラフ。赤色で示された天体は海王星と軌道共鳴を起こしており、冥王星 (最も大きな赤い丸) は 2:3 共鳴にある冥王星族天体の「スパイク」状の分布の中に位置している。

NASA の冥王星探査機ニュー・ホライズンズ計画を率いるアラン・スターンは、軌道近くから他の天体を排除できていないことに基づいて冥王星を再分類することには同意しないとの意見を表明している[13]。スターンの主張によると、国際天文学連合の定義の言い回しは曖昧なものであり、また冥王星と同様に、地球や火星、木星、海王星もその軌道の周辺の天体を排除していない[14]。実際、地球の軌道領域には10000個もの地球近傍小惑星が存在しており、木星はその軌道上に10万個ものトロヤ群小惑星を持っている[14]。またスターンは「もし海王星がその領域を排除したならば、冥王星はそこに存在しなかっただろう」とも述べている[15]

なおスターン自身も、天体が他の天体を排除しているかどうかの定量的な基準をレビソンと共に考案している (上記の

太陽
太陽圏
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関連項目



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