正文間での訳文の齟齬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 01:42 UTC 版)
「日露和親条約」の記事における「正文間での訳文の齟齬」の解説
条約交渉はオランダ語で行われ、オランダ語・ロシア語条文から日本語・中国語条文が翻訳された。このうちロシア語とオランダ語の条文は一致しているが、日本語条文には、第二条のクリル列島の部分に異なる箇所がある。ただし、ロシア語・オランダ語・中国語・日本語共に有効な条約である。 (オランダ語)Van nu af zal de grens tusschen de eilanden Itoroep(Iedorop) en Oeroep zyn. Het geheel eiland Itoroef behoort aan Japan en het geheel eiland Oerop, met de overige Koerilsche eilanden, ten noorden, behoren tot Russische bezittingen. Wat het eiland Krafto(Saghalien) aangaat, zoo blyft het ongedeeld tusschen Rusland en Japan, zoo als het tot nu toe geweest.(これから後、境界はイトルプ(イェドロプ)島とウロプ島の間にあるべし。イトルプ全島は日本に属しそしてウロプ全島は残りの、北のほうの、クリル諸島とともに、ロシアの所有に属する。カラフト(サハリン)島について言えば、従来どおりロシアと日本との間に不分割のままにとどまる) (日本語)今より後日本国と魯西亜国との境 ヱトロプ島と ウルップ島との間に在るへし ヱトロプ全島は日本に属し ウルップ全島夫より北の方クリル諸島は魯西亜に属す カラフト島に至りては日本国と魯西亜国との間に於て界を分たす 是まて仕来の通たるへし この正文間の文言の相違は、日露和親条約の時点ではなんら問題のないものであり、国境線は択捉島と得撫島との間に確定されていることが双方の正文により明示されているが、サンフランシスコ会議のさい日本が放棄することとした「クリル諸島」の解釈についての文理解釈のさいに取り上げられ論点とされている。 ロシア語・オランダ語では「残りの、北のほうの、クリル諸島」と書かれているが、日本語では「夫より北の方のクリル諸島」と書かれており、日本語では「残りの」が抜けている。このため、日本語の条文を見るかぎりクリル諸島の地理的呼称とは得撫島よりも北であるかのように読めるが、ロシア語・オランダ語ではクリル諸島の地理的呼称は得撫島以北に限定することはできないとする。 これについて木村汎は「残りの北のほうクリル諸島」の残りは、択捉島の残りとも得撫島の残りとも解釈できるので、これまでの日本政府の解釈でも間違いとはいえないと説明している。しかし、「クリル列島とは得撫島よりも北である」との解釈以外の解釈が成り立つことは認めている。 この条文の該当部分は「de eiland Oerop(ウルップ島), met de overige Koerilsche eilanden(他・残り のクリル諸島と合わせて), ten noorden(北のほう)」である。
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