擬態の信憑性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/02 14:27 UTC 版)
いろんな生物を見たときに、擬態ではないかと思われる例は数多い。しかし、この問題が見かけでわかりやすく、面白くて取っつきやすいために、安易な判断がなされている場合も多い。本当にそれが擬態として作用しているのかどうかには、しっかりした観察に基づく慎重な論議が必要である。この点は、保護色や警告色などについても同様であり、これまでに、後に誤りであったと判断された説は数多い。 たとえば、トリノフンダマシという、排泄されたばかりの鳥の糞に見えるクモがいる。このクモは、20世紀半ばまで、糞だと判断してよってきた昆虫を食べる、攻撃的擬態であると判断されていた。しかし、現在では、このクモは夜間に網を張ることが知られている。それでも糞に擬態している可能性は残るわけだが、実はこのクモは、多くの場合葉の裏側に止まるのである。 同じくクモ類であるが、アリグモは、ハエトリグモ類でありながら、肉眼的にはアリにしか見えないくらい、アリによく似ている。このクモも、20世紀前半までは攻撃的擬態の代表例になっていた。アリが仲間だと思って挨拶するところを捕まえる、というのである。さらに、アリの巣に侵入してアリの蛹を担いで出るという話すら、専門書に記されていた。ところが、その後の観察から、このような話の信憑性が問題になり、むしろ、現在では野外に於いてはアリは攻撃的で強い昆虫であるので、その姿でいることで安全を図っている、つまりベイツ型擬態であるとの判断になっている。それどころか、アリが近づくと逃げる、との観察もあり、現在のクモの本では、アリグモがアリを捕まえたという確実な観察例は存在しない、とまで書かれているものがある。しかし、この記述が正しいかどうかは、また別の問題でもある(なお、アリを捕食するハエトリグモとしてアオオビハエトリがいる。前脚をあげて触角に似せているかのようなポーズをとるが、アリグモほどアリに似ていない)。 このような擬態に関する誤解は、今後とも起こり得ることとして、慎重に判断する必要がある。
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