弁論家についてとは? わかりやすく解説

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弁論家について

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/05 18:09 UTC 版)

ルネサンス期の装飾写本

弁論家について』(べんろんかについて、ラテン語: De oratore、『弁論家論』とも[1])は、古代ローマキケロの著作。前55年成立[2]前91年クラッススアントニウスを主役とする対話篇の形で、弁論術修辞学)や弁論家の理想像について論じる。

内容

舞台は前91年秋のローマ祭の祝日英語版トゥスクルムにあったクラッススの別荘(ウィラ[2]。登場人物は以下の弁論家たち[3]

全3巻からなる。第1,2巻は、プラトンパイドロス』に似た優雅な対話が描かれる[8]。一方で第3巻英語版は、対話の後に待ち受ける悲劇(コッタとスカエウォラ以外「内乱の世紀」の渦中で死亡)を仄めかす沈鬱な雰囲気で描かれる[8]

プラトン対話篇のような問答形式でなく、アリストテレスの散逸した対話篇に倣ったとされる主要話者の長文形式をとる[9]

話題は多岐にわたり、

などをあつかう。

背景

本作は、献呈相手である弟クィントゥスの依頼により書かれた[16]

弁論術は古代ギリシアで生まれ、古代ローマラテン語弁論への移植がクラッススの時代から試みられていた[17]。本作はその試みの系譜に属する[16]。キケロは本作以外にも『発想論英語版』などの弁論術書を著している[16]

キケロ自身、彼らと同じく「内乱の世紀」の渦中にいた弁論家であり、とくに閥族派の先達でもあるクラッススを「心の師」として私淑していた[18]

本作は、プラトン『ゴルギアス』『パイドロス』の弁論術批判や「哲学と弁論術の峻別」への反論として書かれた[18][19]。その理論的支柱として、アリストテレスイソクラテスの影響を受けていた[20][10][21]。ただし、プラトンが問題視した弁論家の倫理の問題については、キケロ『義務について』に持ち越される[22]

後世の受容

帝政期クインティリアヌス弁論家の教育』は、本書の後継的著作に位置付けられる[21]

15世紀ルネサンス期に写本が再発見され[21]活版印刷黎明期に重版された書物の一つとなった[23]。弁論術書ながら、ペトラルカ以来文芸論書として読まれた[24]。「人文主義」(フマニスムス)の形成に決定的な影響を与えた[21]

日本語訳

  • 大西英文 訳「弁論家について」『キケロー選集7 修辞学II : 弁論家について』岩波書店、1999年。ISBN 9784000922579
  • 大西英文 訳『弁論家について 上』岩波書店〈岩波文庫〉、2005a。ISBN 978-4003361146 
  • 大西英文 訳『弁論家について 下』岩波書店〈岩波文庫〉、2005b。 ISBN 978-4003361153 

脚注

  1. ^ 弁論家論』 - コトバンク
  2. ^ a b 大西 2005b, p. 335.
  3. ^ a b c 大西 2005b, p. 8.
  4. ^ a b 大西 2005b, p. 344.
  5. ^ a b 大西 2005b, p. 346.
  6. ^ 大西 2005b, p. 338.
  7. ^ 大西 2005b, p. 337.
  8. ^ a b 大西 2005b, p. 336.
  9. ^ 大西 2005b, p. 348.
  10. ^ a b 大西 2005b, p. 358.
  11. ^ 鈴木円「セネカの書簡88におけるリベラル・アーツ批判」『昭和女子大学現代教育研究所紀要』第5号、昭和女子大学現代教育研究所、2019年http://id.nii.ac.jp/1203/00006573/  CRID 1050848249737553152。35頁。
  12. ^ 大西 2005b, p. 376.
  13. ^ a b 大西 2005b, p. 371.
  14. ^ a b 大西 2005b, p. 377.
  15. ^ 大西 2005b, p. 362.
  16. ^ a b c 大西 2005b, p. 361.
  17. ^ 大西 2005b, p. 359.
  18. ^ a b 大西 2005b, p. 345.
  19. ^ 大西 2005b, p. 353.
  20. ^ 縁者・友人宛書簡集英語版』1.9.23
  21. ^ a b c d 大西 2005b, p. 378.
  22. ^ 大西 2005b, p. 372.
  23. ^ De oratore(『弁論家について』) | コレクション | 印刷博物館 Printing Museum, Tokyo”. www.printing-museum.org. 2025年3月1日閲覧。
  24. ^ 藤巻光浩キケローの『弁論家について』に公正であること : 「真実らしさ」と共和主義」『フェリス女学院大学文学部紀要』58、2023年。 CRID 1050014491973746560。95頁。



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