千の手の一つを真似る月明かり
作 者 |
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季 語 |
月 |
季 節 |
秋 |
出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
『王国』(昭和五十三年 牧神社)所収。 『王国』は鈴木六林男の第六句集で、『国境』以後の昭和四十五年夏から、昭和五十年夏までの作品が収録されている。 掲出句は無季俳句の書き手であった六林男が意図的に編んだ句集の中の一句で、季語は「月明かり」。季節は秋。古来より月は「花鳥風月」「雪月花」などと自然を代表するものの一つとして日本人に愛されてきた。 『王国』の後記には次のような文章が添えられている。 〈この句集は、季のない俳句もまじっているが、 句意は千の慈手・慈眼をそなえて、生きとし生けるものすべてを悟りの境地に導く千手観音の一つの手の動きを月明かりの下で真似てみたというものだ。幻想的でどこか官能的なかおりが漂うように感じるのは観音立像の衣の襞の曲線や唇や指先の表情、「両性具有の美」を思うからだろうか。 太平洋戦争に従軍し、負傷、帰還した経験を持つ六林男の俳句には〈水あれば飲み敵あれば射ち戦死せり〉のように時に激しく、また〈月の出や死んだ者らと汽車を待つ〉のように静かに「戦争」が描かれているが、〈千の手の〉の句にあるのは、さまざまな思いを内に秘めて祈る作者の姿のようにわたしには感じられた。 |
評 者 |
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備 考 |
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