佐伯氏强力の女大井子に遭ふ事
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「大井子」の記事における「佐伯氏强力の女大井子に遭ふ事」の解説
越前国の佐伯氏長という者が初めて相撲節会に召された時の事、都で開かれる節会に参加するべく近江国高島郡石橋を過ぎようとしたところ、川の水を桶に汲んで頭上に載せて運んでいる美しい女に出会った。氏長はこの女を見初めたので放っておく気がせず、馬から降りて桶を支えている女の腕に手を差し伸ばした。女は笑い声をあげてそのままにしていたので氏長は一層愛しくなって女の腕をしっかりと握ったが、その時に女は桶から片方の手を外して氏長の手を脇に挟んだ。氏長は趣きが深いと思ったが、女は少し時間が経っても氏長の手を脇に挟んだままであった。氏長が手を引き抜こうとしても女が強く挟むので全く引き抜くこともできず、力及ばずおめおめと女の家に連れてこられた。 家に着くと女は脇から氏長の手を放して笑い声をあげ、「それにしてもあなたは何者ですか。何故この様なことをなさるのですか。」と尋ねた。氏長は「我は越前国の者である。国々から力強き者が召される相撲の節が開かれるのでそれに参加するところだ。」と答えた。女は頷いて「危ないことでございます。王城は広いので世に優れた大力を持つ者も参るでしょう。あなたも全く取るに足らないわけではないけれども、それほどの大事にそぐなう器量では有りません。こうしてお目にかかったのも前世の御縁でしょう。節の開催まで日数が有るのであれば、ここに三七日(二十一日)逗留してくださいな。力が付く様、養って差し上げましょう。」と申し出たので、開催まで日数も有り氏長はここに留まることとなった。女はその日の夜から強飯の量を多くして氏長に食わせた。最初は女の握ったその飯を食い割ることは出来なかった。初めの7日間は全く食い割れずに過ぎ、次の7日間は次第に食い割れるようになり、最終日には見事に平らげた。この様に女は逗留中の氏長をとても労りつつ養って力を付けさせ、「さあ都へ上ってください。こうなればなんとかなるでしょう。」と告げて都へ上らせた。古今著聞集では「これは非常に珍しいことである。」と結ばれている。
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