伝導帯と価電子帯の重なり
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:00 UTC 版)
「半金属 (バンド理論)」の記事における「伝導帯と価電子帯の重なり」の解説
ビスマスやヒ素、アンチモンはヒ素型結晶構造と呼ばれる、わずかに歪んだ菱面体の単位胞を持つ層状構造の結晶を形成する。この結晶構造のわずかな歪みに起因して、これらの金属結晶のブリュアンゾーンは、歪みのない体心立方格子を取る金属結晶のブリュアンゾーンと比較して、z軸方向に圧縮された形を取る。このブリュアンゾーンの歪みに起因して、z軸方向の面上に位置する価電子帯はフェルミ準位より高い準位を取り、一方でy軸方向の面上に位置する伝導帯はフェルミ準位より低い準位を取るため、フェルミ準位をまたいで価電子帯と伝導帯のわずかな重なりが生じる。半金属の価電子帯と伝導帯の重なりはわずかであり、例えばビスマスにおける価電子帯と伝導帯の重なりの実測値は38.5 meVという値が得られている。 一方でグラファイトは、sp2混成軌道による3本のσ結合によって平面方向に広がる網目状の格子が形成され、それに対して垂直方向にπ電子が立っているような構造を取るが、単層のグラファイト(グラフェン)はπ電子からなるバンドの伝導帯および価電子帯がフェルミ準位において完全に一致してバンドギャップがゼロとなるような特殊なバンド構造を形成する(ゼロギャップ半導体)。しかしながら、実際のグラファイトは層状に重なり合っており、上下の層による相互作用を受けて伝導帯と価電子帯がわずかに重なり合うため、半金属のバンド構造が形成される。このようなゼロギャップ半導体はアンチモンを添加したビスマスにおいても見られる。ビスマスに対するアンチモンの添加量を増加させることで価電子帯のエネルギー準位が低くなり、伝導帯のエネルギー準位は高くなるため、アンチモンの添加量がある時点でバンドの重なりが消失してゼロギャップ半導体となり、さらにアンチモンの添加量を増加させるとバンドギャップが形成されて半導体に変化することが知られている(半金属-半導体転移)。このような半金属-半導体転移は、量子力学において薄膜のエネルギー準位はその膜厚に応じて量子サイズ効果の影響により変化するという理論を用いたサンドミェルスキによる理論計算によって、半金属薄膜の膜厚をナノスケールにまで薄くすることで半金属-半導体転移が起こることが示されたが、これは2009年現在まだ実証されていない。
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