リスク尺度と曖昧さ回避
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/04 05:00 UTC 版)
「曖昧さ回避 (経済学)」の記事における「リスク尺度と曖昧さ回避」の解説
数理ファイナンスにおけるリスク尺度(英語版)(英: risk measure)、またはリスク測度の最小化問題と曖昧さ回避的な効用関数であるマクシミン期待効用関数の最大化問題は、リスク尺度がコヒーレントリスク尺度(英語版)(英: coherent risk measure)であるならば、数学的な構造が等しいために関係づけることが出来る。リスク尺度とはバリュー・アット・リスクや期待ショートフォールなどの投資などにおけるリスクの尺度のことである。 あるリスク尺度 π {\displaystyle \pi } がコヒーレントであるとは以下の条件を満たす時を言う。 単調性(英: monotonicity):確率変数 X , Y {\displaystyle X,Y} が X ≥ Y {\displaystyle X\geq Y} を満たすならば、 π ( X ) ≤ π ( Y ) {\displaystyle \pi (X)\leq \pi (Y)} を満たす。 平行移動に対する不変性(英: translation invariance):確率変数 X {\displaystyle X} と定数 a {\displaystyle a} について、 π ( X + a ) = π ( X ) − a {\displaystyle \pi (X+a)=\pi (X)-a} を満たす。 正同次性(英: positive homogeneity):確率変数 X {\displaystyle X} と定数 λ ≥ 0 {\displaystyle \lambda \geq 0} について、 π ( λ X ) = λ π ( X ) {\displaystyle \pi (\lambda X)=\lambda \pi (X)} を満たす。 劣加法性(英: subadditivity):確率変数 X , Y {\displaystyle X,Y} について、 π ( X + Y ) ≤ π ( X ) + π ( Y ) {\displaystyle \pi (X+Y)\leq \pi (X)+\pi (Y)} を満たす。 例えばバリュー・アット・リスクは確率変数に対して適当な仮定を置かない限りはコヒーレントリスク尺度ではない。期待ショートフォールは如何なるときもコヒーレントリスク尺度になる。コヒーレントリスク尺度について次の表現定理が成り立つ。 表現定理 π {\displaystyle \pi } がコヒーレントリスク尺度であり、Fatou property を満たすならば、ある閉凸集合である確率測度の集合 P {\displaystyle {\mathcal {P}}} が存在して π ( X ) = sup P ∈ P E P [ − X ] {\displaystyle \pi (X)=\sup _{\mathbb {P} \in {\mathcal {P}}}\operatorname {E} ^{\mathbb {P} }[-X]} が成り立つ。ただし、 E P {\displaystyle \operatorname {E} ^{\mathbb {P} }} は確率測度 P {\displaystyle \mathbb {P} } の下での期待値を表す。 Fatou property と呼ばれる性質は下連続性とも呼ばれ、ファトゥの補題とよく似た性質である。表現定理を用いることでコヒーレントリスク尺度を最小化する問題は次のように変形できる。 min X π ( X ) = − max X ( − π ( X ) ) = − max X ( − sup P ∈ P E P [ − X ] ) = − max X inf P ∈ P E P [ X ] {\displaystyle \min _{X}\pi (X)=-\max _{X}{\Big (}-\pi (X){\Big )}=-\max _{X}{\Big (}-\sup _{\mathbb {P} \in {\mathcal {P}}}\operatorname {E} ^{\mathbb {P} }[-X]{\Big )}=-\max _{X}\inf _{\mathbb {P} \in {\mathcal {P}}}\operatorname {E} ^{\mathbb {P} }[X]} 最右辺はマクシミン期待効用関数最大化問題にマイナスを掛けたものとなるので、コヒーレントリスク尺度最小化問題は一種の曖昧さ回避的な選好の最大化問題として解釈することが出来る。コヒーレントリスク尺度についての研究で、マクシミン期待効用関数最大化問題との関連を意識した研究もある。
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