ラッツェルの環境決定論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 08:52 UTC 版)
「環境決定論」の記事における「ラッツェルの環境決定論」の解説
ラッツェルは『人類地理学』において「すべての有機的生命に対する大気の作用はきわめて深く多様であって、人間の環境を構成するほかの自然物(Naturkörper)と比較にならぬほどの影響を及ぼしている。」と述べ、環境の中でも特に気候が人間に与える影響が大きいとした。これ自体は真新しい主張ではないが、ラッツェルは「気候の影響を証明することのできる大気の主要特性、つまり暖かさと寒さや湿潤と乾燥の、さまざまな混合と配合においてのみ」検討することで、従来の人間への未知なる影響をすべて気候に求めるという乱暴な説と一線を画したのである。ここからラッツェルは、北方的な民族性と南方的な民族性に差異が見られることを発見した。そして「往々にして征服者や国家の創設者が北部から現れ、南部の地方を支配下に置くのは偶然であろうか」という問いが浮かんだ。ラッツェルはこれを必然と考え、ゲルマン民族の大移動、ドイツとイタリアの関係、満州民族による漢民族の支配、温帯に住むカフィール族の熱帯への侵入を例として挙げ、北方の冷涼な気候が有利に働いていると解釈した。 一方でラッツェルは影響の間接性を強調した。これはラッツェルが高度の精神生活への自然の影響が、経済的・社会的関係を媒介し、内的なものと相互に結び付くことを分かっていたからである。また進化論の影響から、諸民族が可変性(変異性)の下に置かれているとし、「諸民族がその土地の反映である」という論は誇張だとしている。 ラッツェルの主張は、生涯一貫していたわけではない。初期にはどんな意志の強い人間でさえ、巨大な機械の1本のピンに過ぎない、と考えたが、次第に自然環境に対抗する意志の強さによって環境のもたらす影響の度合いに変化が生じるという考えに変化した。
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