ミューラーの数理モデル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 07:19 UTC 版)
「ミューラー型擬態」の記事における「ミューラーの数理モデル」の解説
1879年にミューラーはこの擬態様式の特徴について数学的な説明を試みたが、これは進化生態学における最古の数理モデルのひとつであり、また頻度依存選択を正確に記述した最初のモデルである。進化生物学者・昆虫学者のJames Malletは、ミューラーがモデルを組み立てるにあたって設定した数学的仮定は「面白いほどシンプル」だと評している。ミューラーは、捕食者が不味な(または危険な)獲物の警戒色を学習するためには、ある時期にその獲物を捕食(または攻撃)する必要があると仮定した。そして、不味な獲物2種(種1と種2)の総個体数をそれぞれa1、a2とし、その2種が全く似ていない時はそれぞれn個体が捕食されるとした。この時、もしその2種が似ていて捕食者に同じ種とみなされれば、両種を合わせてn個体捕食すれば学習が完了すると考えられるので、 種1は.mw-parser-output .sfrac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .sfrac.tion,.mw-parser-output .sfrac .tion{display:inline-block;vertical-align:-0.5em;font-size:85%;text-align:center}.mw-parser-output .sfrac .num,.mw-parser-output .sfrac .den{display:block;line-height:1em;margin:0 0.1em}.mw-parser-output .sfrac .den{border-top:1px solid}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}a1n/a1+a2個体を失い、種2はa2n/a1+a2個体を失うと考えることができる。 したがって、お互いの外見を似せることによって殺されずに済んだ個体が、種1ではn-a1n/a1+a2 = a2n/a1+a2個体、種2ではa1n/a1+a2個体生じることになる。 殺されずに済んだ個体数を各種の総個体数で割ると、種1でg1 = a2n/a1(a1+a2)、そして種2でg2 = a1n/a2(a1+a2)となる。これで、擬態によって得られた1個体あたりの適応度の上昇gが各種について求められたことになる。 ここでg1とg2の比はg1 : g2 = a2/a1 : a1/a2 = a22:a12となる。これよりミューラーは、個体数の少ない種が擬態によって得る利益は、個体数の多い種が得る利益よりもきわめて大きい、と結論づけた。(例えばa1>a2の時、a22≪a12なので、種2が得る利益g2の方がきわめて大きい。) このモデルは近似的なもので、両種の有害性も同程度であることが仮定されている。もし片方の種がより不味であれば結果は変わり、不味でない方の種類が擬態によって(個体数の場合と同様、相対的な不味さの2乗に比例して)大きな適応度の上昇を得ることになる。この場合は毒の弱い擬態者が一方的に利益を得るため、ベイツ型擬態との中間的な段階の擬態様式とみなせる。後年の研究ではより複雑なモデルが提唱されている。例えばミューラーのモデルでは捕食される総個体数がnで常に一定だが、これは後年のモデルでは疑問視され改良されている。また、ミューラーのモデルは効率的に問題を扱うため単純な離散的な振る舞い(階段関数)を仮定しているが、実際の現象は連続的な関数によるモデリングによってより良く近似できる。
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