ボルスク・ウラムの定理とは? わかりやすく解説

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ボルスク・ウラムの定理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/30 09:19 UTC 版)

スタニスワフ・ウラム

ボルスク・ウラムの定理(ボルスク・ウラムのていり、: Borsuk–Ulam theorem)とは、スタニスワフ・ウラムが定式化し、カロル・ボルスク英語版ポーランド語版が最初に証明したトポロジーの定理の一つである。

定理

ボルスク・ウラムの定理の図示。球を平面に潰した際に、対心の位置にあって、同じ場所に潰されるような2点が存在することを示している。

ボルスク・ウラムの定理 ― n次元球面Snから n次元ユークリッド空間Rnへの任意の連続関数f: SnRnに対してあるxSnが存在して、f(x) = f(−x)となる[1][注釈 1]

n = 1の場合は地球を考えることで説明することができる。則ち地球の赤道上には正反対に位置していて気温が等しいようなある2点が存在している。同様の説明はどのような円周においても成立する。ただし空間において気温が連続的であることを仮定している[2]

n = 2の場合は連続写像として気温と気圧の組を採用して、地球上には正反対に位置していて気温と気圧の両方がそれぞれ一致するある2点が存在すると説明される。

同値な主張

奇写像

定義域の任意のxに対してg(−x) = −g(x)が成立する写像g奇写像[3]という。ボルスク・ウラムの定理は次の各命題と同値である[4]

  1. 連続な奇写像SnRn零点を持つ。
  2. SnSn − 1に対して連続な奇写像は存在しない。

命題1との同値性は次のようにして証明される。

(⇒)ボルスク・ウラムの定理が奇写像g(x)について成り立つとする。g(−x) = g(x)となるのはg(x) = 0となるときに限る。したがって任意の連続な奇写像は零点を持つ。

(⇐)任意の連続写像f : SnRnについて、写像g(x) = f(x) − f(−x)は連続な奇写像である。命題1より任意の奇写像は零点を持つのでg(x) = 0となるxが存在してf(x) = f(− x)

1と2の同値性の証明には奇写像的性質を持つ次の連続写像を考える。

  • 包含写像i : Sn − 1Rn\{0}
  • xx/|x|によって与えられる射影 p : Rn\{0} → Sn − 1

(1 ⇒ 2)連続な奇写像f : SnSn − 1が存在するならば、if : SnRn\{0}は零点を持たない連続な奇写像となる。対偶が真なのでもとの命題も真である。

(1 ⇐ 2) 同じく対偶を証明する。零点を持たない連続な奇写像f : SnRn\{0}が存在するならば、pf : SnSn − 1は連続な奇写像となる。

タッカーの補題

後述するようにタッカーの補題英語版を用いて定理を証明することができるが、その逆、つまりボルスク・ウラムの定理からタッカーの補題を導くこともできる。不動点定理には代数的位相幾何学組合せ論集合被覆論による同値な表現が存在するものがある。各形式で全く異なる証明ができる[5]

代数的位相幾何学 組合せ論 集合被覆論
ブラウワーの不動点定理 スペルナーの補題英語版 クナスター-クラトフスキ-マズルケヴィッチの補題英語版
ボルスク・ウラムの定理 タッカーの補題英語版 ルステルニク-シュニレルマンの定理英語版

証明

1次元

円周上でg(x) = f(x) − f(−x)として定義され、実数値をとる連続な奇写像gを考える。点xについて、g(x) = 0ならばそのまま定理が満たされる。そうでないならば、gが奇写像であることよりg(x) > 0としても一般性を失わず、このときg(x) > 0 > g(−x)中間値の定理よりあるyg(y) = 0

n = 2のときは被覆の理論を使うことで処理できる。

一般の場合

代数的位相幾何学的証明

n > 2の場合において、連続な奇写像h : SnSn − 1の存在を仮定する。対蹠点に写す作用の軌道を通じて、実射影空間英語版間における誘導された連続写像h' : RPnRPn − 1を得る。この写像は基本群上で同型写像を誘導する。フレヴィッチの定理より、二元体英語版F2を係数に持つコホモロジー上で、誘導された英語版環準同型写像

2人の泥棒が、2色の宝石のビーズでできたネックレス(赤が8個、緑が6個)を分け合う。このとき2回の切断でビーズを均等に分配できる。

ネックレスを奪う泥棒が二人いる。ネックレスは4つの種類の宝石のビーズで出来ている。各種類の宝石が偶数個あったとする。二人で均等に分けたい時、なるべくネックレスを少ない切断で均等に分けたい。4つの種類の宝石がある場合、それは最低で4つの切断で均等に分けることができる。そして、切った物を上と下に分けて泥棒1は上にある均等に分けられた宝石を、泥棒2は下の均等に分けられた宝石をもらう。ここで、n種類の宝石があり、n回の切断をしても公平に分けることができるのか。

これがネックレス問題英語版であるが、この節ではボルスク・ウラムの定理で証明する。ネックレス問題は離散的、ボルスク・ウラムの定理は連続的であるので、一見するとネックレス問題とボルスク・ウラムの定理には関係がないと思える。そのためにまずはネックレス問題の連続的なバージョンを考える。簡単のために2種類の宝石があるネックレスを考える。そしてそれらを長さ1の線分として考え、三つの切断で公平に分けられるとき、分けられた宝石群の1つ目をa、2つ目をb、3つ目をcとする場合、それらはを満たす正の数でなければならない。また、についてそれぞれ泥棒1と泥棒2のどちらの取り分になるかを選ばないといけない。ここで話を変え、単位球面にある点の座標を考える。平方根の正負と、泥棒1と泥棒2の取り分を対応させる。泥棒1が受け取る宝石の種類別の個数を出力する写像をfとする。ボルスク・ウラムの定理を使って、ある(a, b, c)f(a, b, c) = f(−a, −b, −c)となるはずなので、泥棒1と泥棒2の取り分を入れ替えても取り分の変わらない分け方が存在する。なので、公平に分ける方法は必ずあるということになる[10]

一般化

  • 元の定理では、写像fの領域はn次元単位球面(n次元球体の表面)であった。一般にfの領域がRnの原点を含む任意の境界付き対称部分集合の境界であっても成立する(ここで対称とは、部分集合の中にxが存在するとき、xも存在することを指す)[11]
  • より一般にMをコンパクトn次元リーマン多様体f : MRnを連続写像としたとき、f(x) = f(y)かつx, yが距離δ > 0δは任意に定められる)で結べるような2点x, yが存在する[12][13]
  • 点をその対蹠点に移すような写像A(x) = − xをとる。A(x) 対合A(A(x)) = x)のような性質を持つ。元の定理はf(A(x)) = f(x)となるような点xの存在を主張しているが、より一般に A(A(x)) = xを満たすAについて同様の定理が成立する[14]。一方で、A(A(x)) ≠ xのようなAでは成立しない[15]

歴史

Matoušek (2003, p. 25) によればボルスク・ウラムの定理の主張の最初の歴史的言及は Lyusternik & Shnirel'man (1930) で見られる。最初の証明は Karol Borsuk (1933) によってなされ、定理の定式化はスタニスワフ・ウラムに帰される。それ以来様々な別証明が発見され、Steinlein (1985) にまとめられている。

脚注

注釈

  1. ^ x = (x1, x2,...,xn + 1) ∈ Snに対してx = (−x1, −x2,...,−xn + 1)対心点英語版あるいは対蹠点という。

出典

  1. ^ トポロジー有名定理その3~ボルスク・ウラムの定理~”. 和から (2021年10月9日). 2025年8月26日閲覧。
  2. ^ Jha, Aditya; Campbell, Douglas; Montelle, Clemency; Wilson, Phillip L. (2023-07-30). “On the Continuum Fallacy: Is Temperature a Continuous Function?” (英語). Foundations of Physics 53 (4): 69. Bibcode2023FoPh...53...69J. doi:10.1007/s10701-023-00713-x. hdl:1721.1/152272. ISSN 1572-9516. 
  3. ^ 長崎, 生光 (2008). “等変HOPF型定理へ向けての一考察”. 数理解析研究所講究録 1612: 101-110. 
  4. ^ a b Prescott, Timothy (2002). Extensions of the Borsuk–Ulam Theorem (BS). Harvey Mudd College. CiteSeerX 10.1.1.124.4120.
  5. ^ Nyman, Kathryn L.; Su, Francis Edward (2013), “A Borsuk–Ulam equivalent that directly implies Sperner's lemma”, The American Mathematical Monthly 120 (4): 346–354, doi:10.4169/amer.math.monthly.120.04.346, JSTOR 10.4169/amer.math.monthly.120.04.346, MR 3035127, https://scholarship.claremont.edu/hmc_fac_pub/1150/ 
  6. ^ Joseph J. Rotman (1988). “12”. An Introduction to Algebraic Topology. Springer-Verlag. ISBN 0-387-96678-1 
  7. ^ Freund, Robert M.; Todd, Michael J. (1982). “A constructive proof of Tucker's combinatorial lemma”. Journal of Combinatorial Theory. Series A 30 (3): 321–325. doi:10.1016/0097-3165(81)90027-3. 
  8. ^ Simmons, Forest W.; Su, Francis Edward (2003). “Consensus-halving via theorems of Borsuk–Ulam and Tucker”. Mathematical Social Sciences 45: 15–25. doi:10.1016/s0165-4896(02)00087-2. hdl:10419/94656. https://scholarship.claremont.edu/hmc_fac_pub/677. 
  9. ^ Dougherty, Jackson (2017年9月25日). “Some applications of the Borsuk-Ulam Theorem” (英語). Math REU University of Chicago. pp. 4-5. 2025年8月30日閲覧。
  10. ^ 3Blue1BrownJapan (2022年5月20日). “「ボルスク・ウラムの定理とネックレス問題」”. YouTube. 2025年8月29日閲覧。
  11. ^ “Borsuk fixed-point theorem”, Encyclopedia of Mathematics, EMS Press, 2001 [1994]
  12. ^ Hopf, H. (1944). “Eine Verallgemeinerung bekannter Abbildungs-und Überdeckungssätze”. Portugaliae Mathematica. 
  13. ^ Malyutin, A. V.; Shirokov, I. M. (2023). “Hopf-type theorems for f-neighbors”. Sib. Èlektron. Mat. Izv 20 (1): 165–182. 
  14. ^ Yang, Chung-Tao (1954). “On Theorems of Borsuk-Ulam, Kakutani-Yamabe-Yujobo and Dyson, I”. Annals of Mathematics 60 (2): 262–282. doi:10.2307/1969632. JSTOR 1969632. 
  15. ^ Jens Reinhold, Faisal. “Generalization of Borsuk-Ulam”. Math Overflow. 2015年5月18日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク




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