ブロードキャストストーム
ブロードキャストストーム
ブロードキャストストームとは、ネットワーク全体に情報を送信するブロードキャストパケットがいっせいにネットワークに送り出されることで、ネットワーク上が嵐(stoem)に遭ったようにいっぱいになって使用不能となることである。
ブロードキャストはネットワークにつながっている不特定多数の相手に向かってデータを送信することである。ブロードキャストを用いてデータが配信されるとネットワーク上には、それぞれの相手に向けた多量のデータがいっせいに送り出されることになる。ここでネットワークが終端を持たずに循環するような構造だったりすると、ブロードキャストで発信されたデータが同じネットワークを同じ経路で回り続ける。そうするとブロードキャストのデータで通信域が占領されてしまい、通信を行うことができなくなる。
ブロードキャストストーム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/27 15:23 UTC 版)

ブロードキャストストームとは、ローカルエリア・ネットワーク (LAN) 上でブロードキャスト用のデータや信号が際限なく転送され続ける現象である[1][2]。通信経路でループが形成された際に発生する[3]。
原因
レイヤ2スイッチ (L2スイッチ) はブロードキャストフレームを受け取ると、それを全てのポートから送信するが、この時に通信経路でループが生じていると、ブロードキャストフレームがレイヤ2スイッチに戻ってきてしまい、それを受けてレイヤ2スイッチが再び全てのポートからブロードキャストフレームを送信してしまう[4][5]。これによりネットワークを流れるフレーム量が増大し、通信が妨げられる[4]。
ブロードキャストストームは、LANケーブルをリング状に接続した際のみならず、無線LANを使用した状態でも生じる[4][6]。例えば、無線LANアクセスポイントから電波を受信している無線LAN中継機の有線LANポートに、LANケーブルを挿してしまった場合などがあげられる[6]。
対策
スパニングツリープロトコル
スパニングツリープロトコル (STP) を使用すると、LANスイッチがループの生じるポートを無効にし、ブロードキャストストームを防止する[3][7]。また、もし使用しているルートが故障した場合、無効にしたポートを有効にし、通信を再開することもできる[7]。STPは、ネットワークの冗長化を担保しつつ、ブロードキャストストームが発生しないようにする方法の1つといえる[7]。
ただし、三上信男と豊増佳宏はSTPのデメリットとして「メーカーごとに初期設定が異なる」「設計手順が煩雑」「STPを設定したスイッチのハードウェア障害などが原因でブロードキャストストームが起きるリスクがある」という3点を挙げている[8]。また、『日経NETWORK』に掲載された2016年の記事では、STPのデメリットが以下とおり指摘されている[9]。
標準でSTPに対応しているスイッチは多いため、導入自体の障壁は低い。ところがSTPは設定が複雑なため設定ミスによるトラブルが起こりやすい。また、STPを使うと通信できない経路が発生してしまうため、通信の効率も悪くなる。それに加え、機器の故障などでネットワークトポロジーが変化した場合、STPでは経路の再計算に1分程度かかってしまう。(略)こうした理由から、実際には現在の企業ネットワークではSTPはほとんど使われなくなってきているという[9]。
スイッチのスタッキング
複数のスイッチをスタック(積み上げ)して1台のスイッチのように見せ、それぞれからのケーブルを子スイッチにつなぎ、両方を束ねて使用するスタッキングも、ブロードキャストストーム対策としてあげられる[7]。この構成ではループが生じないため、スパニングツリープロトコルが不要で、かつネットワークの冗長化が可能となる[7]。上掲の『日経NETWORK』に掲載された2016年の記事では、スパニングツリープロトコルに代わりスタックがスイッチの冗長化によく用いられるようになっていると指摘されている[9]。
ストームコントロール
スイッチ本体でブロードキャストの流量を制限するストームコントロール機能も、ブロードキャストストーム対策の1つとしてあげられる[10]。スイッチにあらかじめ閾値が設定され、それを超えるとループ接続によるブロードキャストストームが生じたとみなされる[10]。ループ接続が発生したと判定されると、閾値を超えた分のフレームがドロップされたり、該当するポートがシャットダウンされたりするが、どのような処理を行うかはスイッチの設定で選択できる[10]。
VLAN
1つのローカルエリア・ネットワーク (LAN) を複数のLANに分けるバーチャル・ローカルエリア・ネットワーク (VLAN) により、ブロードキャストストームの影響範囲を限定することも対策としてあげられる[11][12]。
ポートを塞ぐ
鈴木慶太はブロードキャストストーム対策の1つとして「ポートを塞いでLANケーブルを挿せなくする」ことを挙げている[13]。これについて鈴木は「ネットワークのトラブルを防止するだけでなく、空きポートの無断使用を防ぎセキュリティの強化にもつながる」と指摘している[13]。
ループ検出機能の限界
2022年の論稿にて安藤正芳は「最近では、ループ接続を検出する機能を搭載したルーターやスイッチが安価に販売されている。検出の仕組みはベンダーや機種によって異なる。MACアドレスを利用する方法や、専用の監視フレームを使う方法、しきい値を定める方法などがある。しかしループ検出機能は万能ではない」と指摘し[6]、ブロードキャストストームの発生に伴う輻輳により監視フレームが廃棄される例などを挙げている[14]。
事故
2020年3月24日、気象庁が運営するサイトで生じた、気象データの更新が停止した事例の原因について同庁予報部業務課は「故障したコアスイッチが停止せず、異常なパケット処理を続けたことでブロードキャストストームを発生させた可能性がある」とコメントしている[15]。また、2022年2月7日には、国立国会図書館で配線ミスに起因するブロードキャストストームが生じ、東京本館と関西館の双方でシステム障害が発生[16]。利用者カードを用いた入退館や、館内のコンピュータを用いた資料の閲覧等に支障が生じた[16]。
2024年4月1日に沖縄県那覇市の市役所全体で生じたネットワーク障害も、ブロードキャストストームが原因とされる[17]。なお、当該ブロードキャストストームが発生した原因について『日本経済新聞』は以下のように論じている[17]。
那覇市役所の職員が使うパソコンは、有線接続と無線接続のものが入り交じっている。有線接続でパソコンを使っていた職員が席替えの際にパソコンから抜いたLANケーブルをその場に置いて移動。その周辺に引っ越してきた職員などが、放置されているLANケーブルと、ポートが空いているエッジスイッチを見て、誤ってつないでしまった──。そんな想定が成り立つ。那覇市役所のトラブルは、スイッチにループ検知機能が備わっていても、思わぬ原因によって作動しないという事実を教えてくれる[17]。
脚注
- ^ “ブロードキャストストームとは - IT用語辞典”. IT用語辞典 e-Words. 2025年3月23日閲覧。
- ^ 網野衛二「ネスぺ試験で学ぶ ネットワーク技術のキホン 第3回VRRP」『日経NETWORK』第266号、日経BP、2022年6月、47頁、国立国会図書館書誌ID:000000400155。
- ^ a b 「Part2 基本となるSTP ループを防いで冗長構成に」『日経NETWORK』第291号、日経BP、2024年7月、24頁、国立国会図書館書誌ID: 000000400155。
- ^ a b c 安藤 2022, p. 55.
- ^ 「Part2 分析 Wiresharkを使って異常なパケットを検出」『日経NETWORK』第263号、日経BP、2022年3月、29頁、国立国会図書館書誌ID: 000000400155。
- ^ a b c 安藤 2022, p. 56.
- ^ a b c d e 福永勇二『この一冊で全部わかるネットワークの基本 : 実務で生かせる知識が、確実に身につく 第2版』SBクリエイティブ、2023年、188頁。 ISBN 978-4-8156-1767-7。
- ^ 三上、豊増 2014, p. 60.
- ^ a b c 「中規模 端末数200-500台 スタックによる冗長化が主流に」『日経NETWORK』第197号、日経BP、2016年9月、46-47頁、国立国会図書館書誌ID: 000000400155。
- ^ a b c 三上、豊増 2014, p. 58.
- ^ 「Part1 なぜVLANを使うのか LAN分割に3つのメリット」『日経NETWORK』第291号、日経BP、2024年7月、26頁、国立国会図書館書誌ID: 000000400155。
- ^ 鈴木 2015, p. 38.
- ^ a b 鈴木 2015, p. 39.
- ^ 安藤 2022, p. 58.
- ^ 玄忠雄「気象データ更新が8時間停止 故障に作業ミス重なる」『日本経済新聞』2020年6月19日。
- ^ a b 伊神賢人「国立国会図書館 配線ミスによる通信障害で入退館に支障 資料の閲覧や複写申請も手作業に」『日経コンピュータ』第1065号、日経BP、2022年3月31日、100-101頁、国立国会図書館書誌ID: 000000035670。
- ^ a b c 貴島逸斗「那覇市役所を襲った通信障害 原因は1本のLANケーブル」『日本経済新聞』2024年7月2日。
参考文献
- 安藤正芳「当事者が語る! トラブルからの脱出 今回の犯人 ループ 無線LANでもループは生じる 防止機能への過信は禁物」『日経NETWORK』第265号、日経BP、2022年5月、54-59頁、国立国会図書館書誌ID: 000000400155。
- 鈴木慶太「現場のプロが教える 設計+作業 ノウハウ18」『日経NETWORK』第185号、日経BP、2015年8月、38-46頁、国立国会図書館書誌ID: 000000400155。
- 三上信男、豊増佳宏「現場で使える企業ネット構築最新テクニック 最終回 新しいブロードキャストストーム対策 トラフィック量でループを検知」『日経NETWORK』第173号、日経BP、2014年9月、58-63頁、国立国会図書館書誌ID: 000000400155。
- ブロードキャストストームのページへのリンク