フィデリオの萌芽
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/17 08:06 UTC 版)
1804年、『ヴェスタの火』を放棄した後、ベートーヴェンは『レオノーレ』と題した別のオペラに着手する。これは最終的に『フィデリオ』として完成し、現在も基本的レパートリーとなっている。ロックウッドはなぜ『ヴェスタの火』のリブレットにはない全てものもが、『レオノーレ』のリブレットに備わっていたのかを解説している。 2か月取り組んでシカネーダーの下らないリブレットを放棄し、ベートーヴェンは有難くある劇へと向き直った。そこには真剣に取り組むことができる、登場人物と彼らの行動があった。レオノーレ、フロレスタン、ピツァロ、ロッコ、そして苦しめられる政治的収監者たちの深く感動的な合唱、彼らはピツァロの地下牢に押し込められ、自由を象徴する光に憧れているのである。最後に情け深い大臣ドン・フェルナンドが現れ、全ての問題を解決する。オペラの筋書きや陰謀を遥かに超えた意味を持つ、これら全ての人物たちは真の人間的問題を体現しており、その表出のされ方はベートーヴェンがオペラの慣習を自分自身の道徳観と統合できるような形となっていたのである。 作曲し終えていた『ヴェスタの火』の1場面は上演の見込みがなかったため、ベートーヴェンはその音楽を他の目的のために自由に転用した。特に、ヴォリヴィアとサルタゴネスが2人の愛を祝す(ここにヴォリヴィアの父ポルスの祝福も加わる)最後の三重唱は、「O namenlose Freude」の二重唱の草稿初版に聞くことが出来る。これは『フィデリオ』の筋書きの中でクライマックスとなる部分で、再会したレオノーラとフロレスタンによって歌われる。ロックウッドは『ヴェスタの火』での版について、「[同じ場面の中でベートーヴェンが書いていた]先立つ全てのものより遥かに高いレベル」であると述べている。 ベートーヴェンは第2の場面へのスケッチも書いていたが、これはどうやら作曲し終えられることはなかったようである。音楽学者のアラン・ゴスマンはこれらのスケッチの中に「『フィデリオ』で合唱付きピツァロのアリア『Ha! Welch’ ein Augenblick!』として(中略)再利用された(中略)マーロの独唱アリア」が含まれていると指摘している。いずれの人物も悪役である。
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