パースペクティブ・焦点化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/19 09:42 UTC 版)
伝統的に「視点」の問題として扱われてきた。物語世界の情報を把握するために誰の視点を採用するか(あるいは採用しないか)ということを扱う領域である。「視点」(viewpoint, point of view)という用語には「目で見る」という視覚に限られるニュアンスが強いので、"focalisation"(焦点化)という用語が提案されている。焦点化には大きく分けて3つの種類がある。 焦点化ゼロ、非焦点化 - 伝統的に「神の視点」や「全知の語り手」と呼ばれてきたもの。カメラの絞り解放に譬えている。潜在的にはあらゆる時間・空間、あらゆる登場人物の内面に至るまで把握することが可能である。 内的焦点化 - ある登場人物を「視点人物」として、その人物によって知覚された事柄のみが描かれるもの。 外的焦点化 - ある対象(特に登場人物)を描く際に外面のみを描くもの。思考や感情は窺い知れない。例えばダシール・ハメットの推理小説やヘミングウェイの「殺し屋」「白象に似た山々」などが例に挙げられる。例えば「カメラ・アイ」と呼ばれる手法に見られる。 登場人物Aの知覚によって別の登場人物Bの外面を描く場合、Aにとっては内的焦点化であり、Bにとっては外的焦点化となる。 一つの物語の中で焦点化が変化することがある。内的焦点化をさらに分類すれば、「固定焦点化」が一貫して一人の登場人物の視点を用いるのに対して、フローベールの『ボヴァリー夫人』において視点人物がシャルル→エンマ→シャルルと変遷するように、視点人物を次々に変えながら語り進めるのは「不定焦点化」と呼ばれる。さらに、同一の出来事を複数の視点から語り直すのは「多元焦点化」と呼ばれ、これは書簡体小説や黒澤明の映画『羅生門』が例に挙げられる。また、異なった焦点化を一時的に用いることがあり、「変調」と呼ばれる。変調には、基調となる焦点化を用いれば当然語られるはずの事柄が語られない「黙説法」、逆に語られないはずの事柄が語られる「冗説法」がある。
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