バラモン・施眼
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昔、シビという高徳の王がいた。彼は毎日のように多くの布施をしたが、そのうち常識的な布施では満足できなくなり、ついに自分自身を布施として人に与えたいと考えた。サッカ(帝釈天)は王の意向を知ると盲目の老バラモンに変身し、「あなたは二つの眼を持っているから一つを私にください。」と願い出た。王は心から喜んで二つ与えると言い、シーヴァカという名医を呼んで、眼を取り出すよう命じた。都中から人が集まり、思いとどまらせようとしたが王の決心は変わらなかった。シーヴァカは「眼を与えるというのは大変なことです。よくお考えください」と諌めた。王は言った。「余はすでによく考えたのだ。ぐずぐずするな。もう話すことはない。」シーヴァカが薬を王の右眼に塗ると、王の眼はまわりきりきりと痛んだ。シーヴァカは言った。「よくお考えください。今なら元通りにできます。」王は言った。「ぐずぐずするな。」シーヴァカが再び薬を塗ると、王の眼は眼窩から外れ、より強い痛みが走った。シーヴァカは言った。「よくお考えください。今なら元通りにできます。」王は言った。「ぐずぐずするな。」シーヴァカは三度目に薬を塗ると、王の眼は眼窩から飛び出し、筋によってかろうじてぶら下がっている状態になった。シーヴァカは言った。「よくお考えください。今なら元通りにできます。」王は言った。「ぐずぐずするな。」王の眼から血が流れ出て、王の衣服が血まみれになった。王は激痛をこらえ「ぐずぐずするな。」と言った。シーヴァカは小刀で筋を切り取り、眼を取って王の手に置いた。王は苦痛をこらえてバラモンを呼び、「一切を知る智慧の眼は、肉眼の百倍も千倍も好ましい。」と言いながら、その眼をバラモンに与えた。バラモンはその眼を自分の眼窩に嵌め込んだ。同じようにして、左眼もバラモンに与えると、バラモンは天上界に帰って行った。間もなく王の傷は治癒し、苦痛もやんだ。「眼の見えないものにとって王国が何になろう。王国を大臣たちにまかせて出家しよう。」と考え、御苑に行き、蓮池のほとりで結跏趺坐して自らの行った布施について瞑想していた。するとサッカがやってきて、王の見事な布施の果報として、彼の両眼を生じさせた。しかもその眼は「真実の完成の眼」という超人的な能力を備えた眼であった。王に両眼が生じると大勢の人々が集まってきた。サッカは人々の前で王を称賛し、天上界に去って行った。王は国中の人々に、布施の優れた功徳を説いて聞かせた。それ以後、多くの人々が布施を行うようになり、死後にこぞって天上界に行ったので、天上界の人口過密になった。(『ジャータカ』No.499、『ジャータカマーラー』 2章)
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