トカ・テムル家説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/07 07:16 UTC 版)
日本のジョチ・ウルス史研究者、赤坂恒明が近年提唱した説。赤坂は従来の「サシ・ブカ=オルダ家出身説」、そしてこれを元にした「オロス・ハン=オルダ家出身説」は他の史料の裏付のない論拠の弱いものであると批判し、『高貴系譜(ムイッズル・アンサーブ)』や『勝利の書なる選ばれたる諸史』といった系譜史料を活用すべきと主張した。赤坂はシャーミーの『ザファル・ナーマ(勝利の書)』でキプチャク草原の第16番目の統治者として「サシ・ノカイ(sāsī nūqāy)」なる人物が挙げられていることに注目し、nūqāy(نوقاى)はしばしばnūqā(نوقا)と省略されること、nūqā(نوقا)とbūqā(بوقا)は字形が酷似していることから、「サシ・ノカイ」と「サシ・ブカ」は同一人物ではないかと推測した。 その上で、『高貴系譜』や『勝利の書なる選ばれたる諸史』にはトカ・テムルの曾孫にサシ(sāsī)、その息子としてノカイ(nūqāy)という人名が記されることを紹介し、「サシ・ノカイ(=サシ・ノカイ)」とは「(トカテムル家の)サシの子ノカイ」を意味する名称であって、オルダ家ではなくトカ・テムル家の出身とするのが正しい、と論じた。更に、『高貴系譜』等には「サシの子ノカイ」の従兄弟に「ムバーラク・ホージャ」という名前が挙げられるが、この人物は『ムイーン史選』がサシ・ブカ、エレゼン父子の後にオルダ・ウルス当主になったと記す「ムバーラク・ホージャ・ハン」に比定され、「サシ・ブカ=トカテムル家出身説」裏付ける傍証となる。 とはいえ、この説も推測に頼る部分の多い論拠の弱さがあり、赤坂自身も「(サシ・ブカとその子孫をオルダ家出身とすることは)再考の余地があるのではないかと思われる」と述べるに留まっている。 赤坂説に基づいて系譜を作ると、以下のようになる。 ジョチ(Jöči >朮赤/zhúchì,جوچى خان/jūchī khān)トカ・テムル(Tosa temür >توقا تیمور/tūqā tīmūr)バイムル(Bayimur >بایمور/bāyimūr)トガンチャル(Toγančal >توغانجار/tūghānjār)サシ(Sasi >ساسی/sāsī)ノカイ(Noγai >نوقاى/nūqāy)エレゼン(Erezen >یرزن/īrazan)
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