ソーン連結
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/16 08:52 UTC 版)
「インド・ヨーロッパ祖語の音韻」の記事における「ソーン連結」の解説
ソーン連結(英: Thorn cluster、定訳を知らない)は歯破裂音が軟口蓋音に先行する全ての連結のことである。アナトリア語派とトカラ語派以外の印欧語の語派では、ソーン連結は音位転換を経験し、多くは、歯破裂音は歯擦音化する。例えば、名詞 *dʰéǵʰ-ōm、属格 *dʰǵʰ-m-és の場合、ヒッタイト語に tēkan, tagnās, dagān がありトカラ語Aに tkaṃ, tkan-があるが、これらの形態はサンスクリット語 kṣā́ḥ と古典ギリシア語 khthṓn として出現する。サンスクリット語は連結 *kt が kṣ になる歯擦音化を経験する一方で、ギリシア語は音位転換のみである。 以下の事例は一部の音位転換の可能な結果を例証する。 *h₂ŕ̥tḱos 「熊(bear)」> ヒッタイト語 ḫartaggas /ḫartkas/, しかしラテン語 ursus, 古代ギリシア語 árktos, サンスクリット語 ṛ́kṣas. *dʰgʷʰítis 「衰える、傾く、滅ぶ(decaying, decline, ruin)」> 古代ギリシア語 phthísis, サンスクリット語 kṣítis, もしかしたら ラテン語 sitis 音位転換された形も、音位転換されなかった形も語根 *dʰégʷʰ(「燃える(burn)」、英語 day もこれに由来。サンスクリット語 'dáhati'「燃やされている(is being burnt)」< *dʰégʷʰ-e-、 'kṣā́yat'「燃える.三人称(burns)」< *dʰgʷʰ-éh₁-)では異なる母音交替階梯で生き残っている。 ソーン連結はインド・イラン語派の舌背音を伴った連結における歯擦音が例外的に他の一部の語派(特にヘレニック諸語)での舌頂破裂音に対応する一部の同根語の集合の再構の問題を呈する。上述の「熊(Bear)」と「衰える(decaying)」は一例であり、サンスクリット語の tákṣan 「職人(artisan)」とギリシア語 téktōn 「大工(carpenter)」も一例である。喉音理論の場合においてそうであるように、これらの同根語の集合はアナトリア語派とトカラ語派がPIEに結び付けられる前に指摘され、早い段階の再構では子音の新たな系列をこの対応の説明のために仮定していた。ブルークマン(1897)は体系的な説明から、PIEの子音体系に舌背音に伴った子音連結においてのみ、(どこにも直截に例証されない)歯間音の系列(*kþ *kʰþʰ *gð *gʰðʰ)を加えた。文字ソーン(⟨þ⟩)の使用によってこのグループは「ソーン連結」と名付けられた。 すでに見たように、アナトリア語派とトカラ語派の証拠によってソーン連結の最初の形は、実際には *TK であって、そのためアナトリア語派とトカラ語派の外での発展が音位転換を伴っていたことが示唆される。従来的な *þ *ð *ðʰ の表記はこれらの音位転換された連結の二次的な要素としていまだ見いだされており、その上、Fortsonを含んで、この歯間摩擦音はPIEの同じ段階に想定される。ある代替的な解釈(例:Vennemann 1989, Schindler 1991 (非公式、未出版))ではこれらの分節音を歯茎破擦音と同定する。ある見解では、ソーン連結は TK > TsK > KTs のように発展した後、子孫言語で多様に変化したとされる。これは上述の、どの破裂音の前でも歯破裂音の破擦音化の適用がその後広がった、歯破裂音の歯擦音化の規則で第一の変化が同定できるという利点を持つ。Melchertは楔形文字ルウィ語の恐らく[ind͡zɡan]の「埋葬(inhumation)」は *h₁en dʰǵʰōm 「土の中で(in the earth)」この過程の中間段階を保存したものであると解釈している。
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