グリーン‐アンモニア【green ammonia】
グリーンアンモニア
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/05 23:50 UTC 版)
グリーンアンモニア(英: Green Ammonia)とは生成過程で二酸化炭素を排出しないアンモニアを指す[1][2][3]。
具体的には、再生可能エネルギーによって発電した電力を用いて水を電気分解して水素を製造し、その水素と空気中の窒素を合成させ、アンモニアを生成する。従来のアンモニア製造(グレーアンモニア)では天然ガスなどの化石燃料を使用し、二酸化炭素が大量に排出されるのに対し、グリーンアンモニアはCO₂を排出しない、または極めて少ない持続可能な方法で製造されるため、脱炭素社会の実現に貢献する重要な技術とされている[1][4]。
また、それに似たものとしてブルーアンモニア(英: Blue Ammonia)も存在する[1]。それについても後述する。
概要
アンモニアを生成するためには、水素と窒素を用意しなければならない。しかし従来のアンモニアの生成方法は化石燃料から水素を取り出すため、大量の二酸化炭素を排出してしまう[5]。
一方、グリーンアンモニアの生成方法では、再生可能エネルギー発電設備で水を電気分解し、水素と酸素に分解する。電気分解によって取り出した水素は、ハーバー・ボッシュ法によって窒素と反応させる。そうすると、化石燃料なしにアンモニアを合成できるため、一連の過程における二酸化炭素の排出を0gにすることができる[6]。地球温暖化が進む中でこの方法は二酸化炭素排出量の削減効果を期待されている[7]。
生成工程
グリーンアンモニアの生成では主に水素化学反応とハーバーボッシュ法を使う。理屈自体は従来のアンモニアと同様だが、原料とエネルギー源がクリーンである点が異なる。
水素化学反応
アンモニアは、水素と窒素から合成されるが、水素の由来によって「グリーンアンモニア」や「ブルーアンモニア」、「グレーアンモニア」に分類される[1]。
グレーアンモニア(従来の方法)(水蒸気改質、水性ガスシフト反応)
原料:天然ガス(メタン CH4)、化石燃料
反応:
日本は、グリーンアンモニアの安定供給を確保するため、再エネ資源の豊富な国々(オーストラリア、サウジアラビア、UAEなど)との協力を推進しており、将来的には、アンモニアを用いた国際的な水素サプライチェーンの構築が期待されている[18]。経済産業省が策定したグリーン成長戦略において、アンモニアが水素エネルギーと並ぶ重要な次世代燃料とされ、火力発電での混焼実験が行われている[4][12]。2023年には日本政府が主導するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)において、アンモニアの供給網整備が主要テーマとして扱われ、域内での標準化やインフラ整備の促進が議論された[26]。
国家水素戦略を策定し、国内再生可能エネルギー水素製造能力の目標を設定[27][28]。国内の水素技術の市場創出に70億ユーロ、国際パートナーシップ構築に20億ユーロの助成を予定。 水の電気分解による水素製造設備事業での再エネ負担金を免除。加えて、再エネ由来水素等の大規模輸入に向けたサプライチェーン構築事業を実施予定[29]。アンモニアをエネルギーキャリアとした水素パイプラインや水素輸入ターミナルの整備も進められている[28]。
ベトナムは豊富な再生可能エネルギー資源を有し、グリーン水素およびグリーンアンモニア産業における主要なプレーヤーとしての地位を確立している。豊富な再エネ資源を活かして、グリーンアンモニアの発電・利用が進められている[30]。
太陽光や風力の豊富な地域では、グリーンアンモニアの大規模生産・輸出拠点の整備が進められている[31][32]。
- チリ
チリでは、設備利用率が高く安価な再生可能エネルギーを利用してグリーンアンモニアを製造し、バックアップ電源として活用するためのサプライチェーンの実現可能性についての調査が行われている。[15]。
主要な国際的プロジェクト
- ネオム(NEOM)(サウジアラビア)
- 未来型都市構想「ネオム」プロジェクトの一環として、世界最大規模となるグリーン水素・グリーンアンモニア製造プラントの建設が進められている[31]。この施設では、太陽光発電および風力発電によって得た電力を利用し、水の電気分解によって生成された水素をもとにグリーンアンモニアを生産する予定であり、完成後は年間120万トンのグリーンアンモニアの生産を目指している[33]。
- Asian Renewable Energy Hub(オーストラリア)
- オーストラリアでは、Asian Renewable Energy Hub(AREH)と呼ばれる大規模再生可能エネルギープロジェクトが進行しており、その一環として、日本および韓国市場向けにグリーン水素およびグリーンアンモニアを供給する計画が立てられている[34]。本プロジェクトでは、西オーストラリア州の広大な土地において大規模な太陽光および風力発電施設を建設し、得られた電力を用いて水の電気分解を行い、アジア地域へのエネルギー輸出を実現することを目指している。
- RePowerEU計画(EU)
- 欧州連合(EU)は、2022年にRePowerEU計画を策定し、エネルギーの自立と脱ロシア依存を目指す中で、グリーンアンモニアを含む再生可能エネルギー由来燃料の普及促進を重要施策の一つと位置づけた[35][36]。本計画では、EUでの再生可能エネルギー生産拡大に加え、北アフリカ、中東などの再エネ資源国からのグリーン水素やグリーンアンモニアの輸入網を構築する方針が示されている。
- Hydrohen Shotイニシアティブ(アメリカ合衆国)
- アメリカ合衆国では、エネルギー省(DOE)が主導するHydrogen Shotイニシアティブにおいて、グリーン水素のコストを2030年までに1米ドル/kgまで削減する目標を掲げている[37]。この中で、グリーンアンモニアは水素キャリアとしての役割が期待されており、国内製造拠点の整備やサプライチェーン強化に向けた公的支援策が打ち出されている。さらに、国家クリーン水素戦略・ロードマップにおいても、アンモニアを利用した水素輸送・貯蔵技術の重要性が強調されている[38]。
日本と関係のあるプロジェクトだと、マレーシア、UAE、ノルウェー、シンガポール、南アフリカなどと民間企業が協力して開発した例がある[39][40]。
社会受容性と安全性
社会受容性
アンモニアは一般に「肥料原料」として知られているが、燃料としての使用にはまだ社会的認知が十分ではない[12]。特に以下のような点で社会的受容性が問われる。
安全性
アンモニアは可燃性は低いが毒性と腐食性を持つため[19]、以下のような安全対策が不可欠である。
- 漏洩検知装置の設置、万一の拡散シミュレーション
- 耐腐食性パイプやタンクの使用
- 作業者への専門的な訓練
日本では、消防法や化学物質取扱規制の下で、燃料アンモニアの導入に向けた法整備とガイドライン策定が進められている[23]。
各種アンモニアの比較
比較項目 | グレーアンモニア | ブルーアンモニア | グリーンアンモニア |
---|---|---|---|
原料 | 天然ガス | 天然ガス(CCS付き) | 水(H₂O)+再生可能エネルギー |
水素製造方法 | 水蒸気改質(SMR) | 水蒸気改質+CO₂回収・貯留(CCS) | 電気分解(Electrolysis) |
CO₂排出量(生産時) | 高い(2.5〜3 t-CO₂/トン-NH₃) | 中程度(回収後は0.3〜0.5 t-CO₂/トン-NH₃) | 実質ゼロ |
水素製造コスト(目安) | 約 1〜2 米ドル/kg-H₂ | 約 2〜3 米ドル/kg-H₂ | 約 4〜6 米ドル/kg-H₂ |
アンモニア製造コスト(目安) | 約 200〜300 米ドル/トン-NH₃ | 約 300〜400 米ドル/トン-NH₃ | 約 500〜700 米ドル/トン-NH₃ |
使用する電力源 | 化石燃料 | 化石燃料+CO₂回収技術 | 再生可能エネルギー |
コスト低下の見通し | あまりない(石油燃料価格次第) | CCS普及で若干低下 | 再エネ・電解装置価格低下で大幅低下可能 |
主な課題 | CO₂排出量が多く脱炭素時代に不適合 | CCSのコスト・信頼性 | 再エネ安定供給、電解技術コスト |
目標価格(2030年頃予測) | 現状維持か炭素税影響でコスト増 | 約 250〜300 米ドル/トン-NH₃ | 約 300〜400 米ドル/トン-NH₃ |
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d “グリーンアンモニアとは?”. エコでんち. 2025年4月22日閲覧。
- ^ “再エネ由来のCO2フリー燃料「グリーンアンモニア」を知っていますか?”. 大阪ガス. 2025年4月26日閲覧。
- ^ a b c d e “グリーンアンモニアとは?次世代エネルギーとして注目!”. wajo-holdings.jp (2023年1月21日). 2025年5月5日閲覧。
- ^ a b “グリーン戦略水素・燃料アンモニア産業”. 経済産業省. 2025年4月21日閲覧。
- ^ “アンモニアを燃料としてカーボンニュートラルの実現に貢献!”. NEDO. 2025年4月26日閲覧。
- ^ “アンモニア発電とは 仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説”. ELEMINIST. 2025年4月26日閲覧。
- ^ a b c “Executive Summary – Ammonia Technology Roadmap – Analysis” (英語). IEA. 2025年4月22日閲覧。
- ^ “知っておきたいエネルギー用語:CCUS”. 経済産業省資源エネルギー庁. 2025年4月25日閲覧。
- ^ “アンモニアが“燃料”になる?!(前編)~身近だけど実は知らないアンモニアの利用先”. 経済産業省資源エネルギー庁. 2025年5月1日閲覧。
- ^ 『アンモニア合成』(PDF)数研出版 。
- ^ “アンモニア・ブーム到来か? クリーンエネルギーや水素キャリアとしての期待:プラ業界の「環境との共存」”. plabase.com. 2025年4月21日閲覧。
- ^ a b c d “令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)第2節 燃料アンモニアの導入拡大に向けた取組”. 経済産業省資源エネルギー庁. 2025年4月25日閲覧。
- ^ a b “火力発電の「いま」と「これから」、アンモニア発電への期待と現実”. REKOBOSHI (2024年10月23日). 2025年5月5日閲覧。
- ^ “グリーンアンモニアとは?”. IDEAS FOR GOOD. 2025年5月3日閲覧。
- ^ a b 『チリ・グリーンアンモニアサプライチェーンの実現可能性に関する予備的な調査』(PDF)IEEJ、2023年、1頁 。2025年5月3日閲覧。
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- ^ “世界最大4GWのP2Gプロジェクト、再エネ由来アンモニアを製造 - 水素 - メガソーラービジネス : 日経BP”. メガソーラービジネス. 2025年4月26日閲覧。
- ^ “Massive Asian Renewable Energy Hub grows to 26GW of wind and solar” (英語). RenewEconomy (2020年10月16日). 2025年4月26日閲覧。
- ^ “REPowerEU: A plan to rapidly reduce dependence on Russian fossil fuels and fast forward the green transition*”. European Commission - European Commission. 2025年4月26日閲覧。
- ^ (英語) COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE EUROPEAN COUNCIL, THE COUNCIL, THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND THE COMMITTEE OF THE REGIONS REPowerEU Plan, (2022) 2025年4月26日閲覧。
- ^ “Hydrogen Shot”. U.S. Department of Energy. 2025年4月26日閲覧。
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- ^ 『今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理(案)』(PDF)経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギーシステム課 水素・燃料電池戦略室、2021年3月22日、46頁 。2025年5月4日閲覧。
- ^ “【日本・南アの共同研究開発】グリーンアンモニア製造: 地理学的特性と技術のベストマッチによるCO2排出ゼロへ向けて”. サステナビリティ ハブ. 2025年5月5日閲覧。
- ^ “Green hydrogen cost reduction” (英語). www.irena.org (2020年12月17日). 2025年4月26日閲覧。
関連項目
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