クレーテーの牡牛


クレーテーの牡牛(英: Cretan Bull)は、ギリシア神話に登場する神秘的な牡牛である。ギリシア神話の有名な怪物ミーノータウロスの誕生と関係があり、またヘーラクレースは7番目の難業としてこの牡牛を捕らえたといわれる。
神話
アポロドーロス
アポロドーロスによると、クレーテーの牡牛はポセイドーンがクレーテー島の王ミーノースの王権を保証するために海中から送った牡牛で、ミーノースは自分が王位を継承することに反対する人々を納得させるため、ポセイドーンに犠牲を捧げ、王位継承権の証として海から牡牛が現ることを願った。そこでポセイドーンは海中から美しい牡牛を送ったが、ミーノースはこの牡牛をポセイドーンに捧げると誓っていたにもかかわらず、牡牛の美しさに惹かれて自分の家畜に加え、別の牡牛をポセイドーンに捧げた。ポセイドーンは怒って牡牛を凶暴にして暴れさせ[1][2]、またミーノースの妻パーシパエーに牡牛への異常な恋を芽ばえさせた。恋に苦しんだパーシパエーが工匠ダイダロスに相談すると、ダイダロスは内部が空洞になった牝牛の木像を制作したので、パーシパエーはその中に入って思いを遂げた。その結果、パーシパエーは牡牛との間に牛頭の子ミーノータウロスを生み、ミーノースはこの奇怪な子を隠すため、ダイダロスに迷宮ラビュリントスを建設させた[3]。
その後、ヘーラクレースはエウリュステウスにクレーテーの牡牛を捕らえることを命じられたので、ミーノースのところにやって来て協力を求めたが、ミーノースは1人でやれと言った。そこでヘーラクレースは牡牛と格闘して捕らえ、エウリュステウスのところに連れて行って見せた後、放逐した[1]。
その他の説
シケリアのディオドーロスによれば、ミーノースは毎年生まれた牛の中で最も良いものをポセイドーンに捧げていたが、ある年に生まれた牡牛は特に優れていたので、惜しくなったミーノースは別の劣った牡牛を捧げた。このためポセイドーンは怒って、パーシパエーを牡牛に恋させた[4]。その後、ヘーラクレースはミーノースと協力してこの牡牛を捕らえ、牡牛の背に乗って海を渡り、エウリュステウスのところに連れて行ったと述べている[5]。
ヒュギーヌスは、パーシパエーが恋し、ヘーラクレースに退治された牡牛はアプロディーテーの牡牛だったとしている[6]。アプロディーテーはパーシパエーが自分を崇めないので、牡牛への恋を起こさせたという[7]。
一方、アクーシラーオスはエウローペーをさらってクレーテー島に連れ去った牡牛だったとしている[8]。
牡牛のその後
放たれたクレーテーの牡牛は、アルカディアとラコーニアをさまよった後にアッティカのマラトーンに行って暴れ、人々を苦しめたが[1]、後にテーセウスによって退治された[9]。テーセウスは牡牛を捕らえて父であるアテーナイ王アイゲウスのところに連れて行き、アイゲウスは牡牛をアポローンに犠牲として捧げたといわれる[10]。
脚注
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- ディオドロス『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
関連項目
クレータの牡牛
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 08:32 UTC 版)
クレータ島の王ミーノースを罰するためにポセイドーンの送り込んだクレータの牡牛を生け捕りにした。この牡牛はミーノータウロスの父親であり、美しいが猛々しく、極めて凶暴であった。ヘーラクレースはミーノース王に協力を求めるが拒否され、結局素手で格闘してこの牡牛をおとなしくさせ、アルゴスまで連行した。
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