エネルギー源の特定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/05 00:56 UTC 版)
星生成過程から発せられる光と、AGNから発せられる光では、発生の仕組みが違うので輝線強度比を観測すれば容易に区別できる。しかし、これはAGNからの可視光線が直接観測できればそこにAGNが存在することがわかるというだけで、可視光線による分光観測でAGNの特徴が見られないからといって、そこにAGNが無いとは限らない。AGNがダストに埋もれていればAGNからの可視光線が観測できないので、AGNの特徴を示さないからである。特に超高光度赤外線銀河の場合はエネルギー源と目される核が大きく、しかもダストに隠されていることが多いので、そこで何が起こっているか特定するのは難しい。しかし、対象の赤外線銀河のエネルギー源は、放射されている赤外線のスペクトルや他の波長域の電磁波のスペクトルを調べることによって推測することができる。例えば、次のような方法がある。 それは星間に存在するPAH(芳香族炭化水素)からの放射を利用する方法である。通常の星生成領域では、星からの紫外線によりPAHが励起され、いくつかの特定の波長の赤外線を放射する。その中でも、特に波長3.3μmの赤外線は星間ダストの中をよく通過するので、この波長を観測することにより星の生成が起こっているらしいことが分かる。一方でAGNの場合、そこでは紫外線も放射されているが、強力なX線も放射されているので、X線によりPAHが破壊されてしまう。AGNから離れたところではX線が到達しないが、その領域では紫外線も到達ないためPAHが励起しない。つまりAGNの周りではPAHが励起する機会が無く、そのため特定の赤外線を放射していない。波長3.3μmで観測した場合、この波長でピークが観察できれば、それは星生成が行われていることが推測され、このピークがなければAGNがエネルギー源となっていることが推測される。 ただし、例えば、シリケイト系星間ダストは波長9.7μmをよく吸収するが、この吸収が顕著に現れた場合、波長3.3μmあたりの部分が取り残されてピークのように見える場合がある。このようになると、星生成が起こっているのか、AGNが活動しているか紛らわしい。このような場合もあるので、波長3.3μmの観測によるだけで確実に決定できるわけではない。赤外線の他の波長域、あるいはX線や電波など、他の波長域の観測結果も合わせて検証される。
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