エコー2型原子力潜水艦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/10 02:01 UTC 版)
675型潜水艦 (エコーII型) | |
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基本情報 | |
艦種 | 巡航ミサイル原子力潜水艦 (SSGN) |
就役期間 | 1962年 - 1994年 |
前級 | 659型 (エコーI型) |
次級 | 670型 (チャーリーI型) |
要目 | |
排水量 | 水上: 4,450t 水中: 5,650t |
全長 | 115.4 m |
最大幅 | 9.3 m |
吃水 | 7.9 m |
原子炉 | VM-A加圧水型原子炉×2基 |
主機 | 蒸気タービン×2基 |
推進 | 可変ピッチプロペラ×2軸 |
出力 | 17,500馬力×2基 |
電力 | ディーゼル発電機×2基 |
速力 | 水上14kt、水中23kt |
航海日数 | 連続航海90日 |
潜航深度 | 安全: 300m 最大: 370m |
乗員 | 104名 |
兵装 | ・533mm魚雷発射管×4門 (4発) ・400mm魚雷発射管×2門 (6発) ・P-6 SLCM×8発 |
エコーII型原子力潜水艦(英語: Echo II class submarine)は、ソビエト連邦海軍・ロシア海軍が運用していた巡航ミサイル潜水艦の艦級に対して付与されたNATOコードネーム。ソ連海軍での正式名は675型潜水艦(ロシア語: Подводные лодки проекта 675)であった[1]。艦種記号上は潜水巡洋艦である。
対地巡航ミサイルを主兵装とする659型(エコーI型)をもとに、対艦巡航ミサイルを装備するよう改設計したものであり、ソ連海軍の巡航ミサイル原潜(SSGN)としては初めて対水上攻撃を主任務としていた。静粛性に欠け、またミサイルも浮上して発射せざるを得ないなど性能には制約が多かったが、貴重な対水上打撃力として29隻が建造された。
来歴
本型は、先行する659型(エコーI型)をもとに、その主兵装をP-6(SS-N-3A/B「シャドック」)対艦ミサイルに転換したものである。659型は、627型(ノヴェンバー型)攻撃型原子力潜水艦をもとにP-5対地巡航ミサイルを搭載するよう改設計したものであり、1960年代初頭には弾道ミサイル搭載潜水艦(SSBN)を補完する対地火力として、ソヴィエト連邦の核戦略の一翼を担っていた[2]。しかしその後、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の配備進展に伴って、対地巡航ミサイルの価値は相対的に低下する一方、仮想敵となるアメリカ海軍空母機動部隊においては、E-2A早期警戒機およびF-4艦上戦闘機の配備によって制圧範囲が拡大しており、従来の魚雷を主兵装とする在来型潜水艦よりも強力な対艦攻撃戦力が求められていた。このことから、1956年、以前P-5を開発した第52設計局は、これをもとにした対艦ミサイルの開発に着手した。そして同年8月、以前659型を設計したルービン設計局(OKB-18)は、これを主兵装とした対艦任務の巡航ミサイル原潜の設計を開始した。これによって開発されたのが本型である[1]。
設計

上記の経緯から、本型の設計は、おおむね659型のそれを踏襲している。しかし一方で、659型がP-5を6発搭載していたのに対し、本型では8発搭載するよう要求されたことから、排水量は20パーセント増大した。一方で、主機関は627型以来のVM-A加圧水型原子炉2基による2軸推進とされていたことから、速力は10パーセント低下している。
船体素材が低磁性鋼であったことから、気泡や腐食の問題が多く発生し、また原子炉の問題と推進器の高回転数のために水中放射雑音は比較的大きかった。なお水中放射雑音については、同系統の主機を搭載した627型においては、5-200Hzにおける離散周波数騒音は170dB、1kHzにおいては150dBとされていた[3]。
また本型の主兵装となるP-6(SS-N-3A/B「シャドック」)対艦ミサイルは、450kmという当時としては長大な射程を誇っていたものの、発射時にはP-5と同様に浮上する必要があり、浮上後にコンテナに15度の仰角をつけるため、発射準備時間は3分を要した。また発射後も、ミサイル本体のシーカーで目標を追尾できる距離に接近するまでは、艦上のオペレータが誘導する必要があり、その間、艦は潜航できず、非常に脆弱な態勢を強いられた[1]。
比較
世代 | 第4世代 | 第3世代 | 第2世代 | |||
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NATOコードネーム | ヤーセン型 | オスカー型 | パパ型 | |||
計画番号 | 885M型 | 855型 | 949A型 | 949型 | 661型 | |
船体 | 水上排水量 | 9500 | 16,500 | 12,500 | 5,280 | |
水中排水量 | 13800 | 19,500 | 14,700 | 7,100 | ||
全長 | 139 | 155 | 144 | 106.9 | ||
全幅 | 12~15 | 18.2 | 18.2 | 11.6 | ||
吃水 | 不明 | 9.2 | 8 | |||
設計局 | 143 | 18 | ||||
造船所 | セヴマシュ | 199、402 | 402 | |||
主機 | 機関 | 加圧水型原子炉+蒸気タービン | ||||
方式 | GT | |||||
原子炉システム | KPM-6[注 1] | OK-650V | OK-650B | VM-5 | ||
熱出力 | 190-200 MWth | 190 MWth | 177 MWth | |||
水中速力 | 31 | 32 | 44 | |||
兵装 | 発射管 | 533mm魚雷発射管×10門 (魚雷・ミサイル30本)[注 2]、巡航ミサイル用VLS×8セル | 650mm魚雷発射管×2門 (魚雷8本)、533mm魚雷発射管×4門 (魚雷16本) | 533mm魚雷発射管×6門 (魚雷12本) | ||
巡航ミサイル | 巡航ミサイル用VLS×10セルに3M-54 カリブル×40~、または、P-800オニクスまたは3M22 ツィルコン×32~ | 巡航ミサイル用VLS×8セルに3M-54 カリブル×40、または、P-800オニクスまたは3M22 ツィルコン×32 | P-700(SS-N-19)×24[注 3] | P-70(SS-N-7)×10 | ||
同型艦数 | 1 | 4+(建造中) | 12(1隻喪失) | 2 (退役) |
1(退役) |
世代 | 第2世代 | 第1世代 | |||
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NATOコードネーム | チャーリー型 | エコー型 | |||
計画番号 | 670M | 670 | 675 | 659 | |
船体 | 水上排水量 | 4300 | 3574 | 4450 | 3730 |
水中排水量 | 5350 | 4560 | 5650 | 4920 | |
全長 | 104.5 | 95.5 | 115.4 | 111.2 | |
全幅 | 10.0 | 9.9 | 9.3 | 9.2 | |
吃水 | 6.9 | 7.5 | 7.9 | 7.1 | |
設計局 | 143 | ||||
造船所 | 112、194、199 | 194 | |||
主機 | 機関 | 加圧水型原子炉+蒸気タービン | |||
方式 | GT | ||||
原子炉システム | OK-350(VM-4-1×1) | VM-4(VM-4A×2) | |||
熱出力 | 89 | 70 | |||
水中速力 | 24 | 26 | 23 | 26 | |
兵装 | 兵装 | 533mm魚雷発射管×6門(533mm魚雷・ミサイル×18) | 533mm魚雷発射管×6門 (魚雷×18) |
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巡航ミサイル | P-120(SS-N-9)×8 | P-70(SS-N-7)×8 | P-6(SS-N-3A/B)対艦×8 | P-5(SS-N-3C)対地×6 | |
同型艦数 | 11隻 (24隻退役) |
11隻 (退役) |
29隻 (退役) |
5隻 (退役) |
配備
上記のような制約にもかかわらず、本型はソ連海軍が外洋に展開できる最有力の対水上打撃力であったこともあって、1962年から1967年までに29隻が竣工し、ソ連海軍原潜史上で最多数のSSGNとなった。このように多数が運用されたこともあり、本型からは多くの派生型が生まれている。
- 675MK型 - 対艦ミサイルをP-500「バザーリト」(SS-N-12「サンドボックス」)に換装したもの。1976年から1984年にかけて9隻が改装。
- 675MKV型 - 対艦ミサイルをP-1000「ヴルカーン」(SS-N-12「サンドボックス」)に換装したもの。1981年から1990年にかけて4隻が改装。
- 675N型 - 工作員の輸送を主任務とする特殊作戦型。K-170の1隻のみが改装。
- 675K型 - SLCMの測的のため、カセトカ型海軍衛星偵察・誘導装置を搭載した型。K-47など。
- 675MU型 - 675K型の発展型として、カセトカB型海軍衛星偵察・誘導装置およびウスペフU型空軍衛星偵察・誘導装置を搭載した型。K-28など。
これらの改装型も含めて、1994年までに全艦が退役し、運用を終了した。
脚注
注釈
- ^ 885M型1番艦は就役時点では855型とおなじくOK-650V原子炉システムを搭載しており、第4世代原子炉システムであるKPM-6は今後建造される艦から順次搭載される見込み
- ^ 諸説あり。650mm魚雷発射管を含む説や混在する組み合わせについても複数説あり
- ^ 近代化改装により3M-54 カリブルないしP-800へ換装されると見られる
出典
- ^ a b c Polutov Andrey V.「ソ連/ロシア原潜建造史(10)」『世界の艦船』第614号、海人社、2003年8月、114-119頁、NAID 40005855331。
- ^ Polutov Andrey V.「ソ連/ロシア原潜建造史(9)」『世界の艦船』第612号、海人社、2003年7月、96-101頁、 NAID 40005825474。
- ^ Polutov Andrey V.「ソ連/ロシア原潜建造史(7)」『世界の艦船』第610号、海人社、2003年5月、148-153頁、 NAID 80015828438。
関連項目
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