イヌアミシダとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 生物 > 植物名 > イヌアミシダの意味・解説 

犬網羊歯

読み方:イヌアミシダ(inuamishida)

ワラビ科の園芸植物

学名 Hemionitis arifolia


イヌアミシダ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/31 18:41 UTC 版)

イヌアミシダ
イヌアミシダ Mickelopteris cordata
分類PPG I 2016, Fraser-Jenkins et al. (2016)
: 植物界 Plantae
: 維管束植物門 Tracheophyta
亜門 : 大葉植物亜門 Euphyllophytina
: 大葉シダ綱 Polypodiopsida
: ウラボシ目 Polypodiales
亜目 : イノモトソウ亜目 Pteridineae
: イノモトソウ科 Pteridaceae
亜科 : エビガラシダ亜科 Cheilanthoideae
: イヌアミシダ属 Mickelopteris
: イヌアミシダ M. cordata
学名
Mickelopteris cordata
(Roxb. ex Hook. & Grev.) Fraser-Jenk.
シノニム
  • Hemionitis cordata Roxb. ex Hook. & Grev. (1828)
  • Acrostichum ramentaceum Roxb. (1844)
  • Gymnogramma sagittata (Fée) Ettingsh. (1864)
  • Hemionitis cordata Roxb. ex Hook. & Grev. (1828)
  • Hemionitis cordifolia Roxb. ex Bedd. (1863)
  • Hemionitis cumingiana Fée (1865)
  • Hemionitis hastata R.Br. ex Wall. (1829)
  • Hemionitis intermedia Fée (1852)
  • Hemionitis sagittata Fée (1852)
  • Hemionitis toxotis Trevis. (1851)
  • Hemionitis trinervis Buch.-Ham. ex Dillwyn (1839)
  • Parahemionitis cordata (Roxb. ex Hook. & Grev.) Fraser-Jenk. (1997)

イヌアミシダ Mickelopteris cordataイノモトソウ科に属する薄嚢シダ類の1種である。葉の形から、ハートファーンバレンタインファーンとも俗称される[1]。1種でイヌアミシダ属[2] Mickelopteris を構成する[3][注釈 1]

学名には混乱があり、かつては Hemionitis arifoliaParahemionitis arifolia と呼ばれたこともあったが、そのタイプ標本が別種であるミミモチシダのものであることが明らかになり、現在では Mickelopteris cordata の学名が用いられる(#分類と学名を参照)。

形態

イヌアミシダの葉。

地上生[5]根茎は狭く黒っぽい鱗片に覆われ、短く直立する[5]中心柱網状[5]

はやや二形を持ち、束生する[5]葉柄は褐色か暗紫色で、根茎と同様に鱗片が密生する[5]。鱗片は褐色で、狭披針形[6]

胞子葉葉柄は普通葉身より長く[5]、6–18 cmセンチメートル、太さは約1 mm である[6]。特に、乾燥した灌木地ではほぼ等長であるが、密林の林床では2–3倍となる[6]葉身は葉柄に対し斜めに角度をなしてつく[6]。葉身は単葉で、卵形、長楕円状卵形、または矛形[6]。普通長さが3–6(–10) cm、幅は2–4(–6) cm で、顕著な心形の葉脚と円頭または鈍頭を持つ[6]。葉身の向軸側は無毛で緑色、背軸側には小さく錐状の茶色い鱗片が疎に生え、褐色である[5][6]。鱗片は主脈上でやや密[6]。葉脈は網状[5]

胞子嚢群は褐色で葉脈に沿い、成熟すると背軸側全面に広がる[6]包膜は欠く[5]胞子は球状四面体形で、表面は鶏冠状[5]

染色体基本数は x = 30[5]2n = 120[6]

分布と生育環境

熱帯アジアに産する。分布する地域は、中国南部(海南省雲南省)、台湾インドアーンドラ・プラデーシュ州アッサム州チャッティースガル州カルナータカ州ケララ州マディヤ・プラデーシュ州マハーラーシュトラ州マニプル州ミゾラム州ナガランド州オリッサ州タミル・ナードゥ州トリプラ州西ベンガル州)、スリランカバングラデシュミャンマータイ王国ラオスカンボジアベトナムマレー半島フィリピンジャワ島小スンダ列島スンバワ島)である[7]

密林にある沢の岩の隙間や湿った土壌に生育する[6]。乾燥した灌木地や斜面に生えることもある[6]。標高は 1000 m 以下[6]

分類と学名

ミミモチシダ。成熟した個体の姿は大きく異なる。

本種ははじめ、1828年にヘミオニティス属[1]の1種 Hemionitis cordata Roxb. ex Hook. & Grev. (1828) として記載された[3]

1859年にトーマス・ムーアは本種を、Asplenium arifolium Burm. f. (1768) としてニコラ・バーマンにより記載されていた種の異タイプ異名[注釈 2]とし、学名を Hemionitis arifolia (Burm.f.) T.Moore (1859) とした[3]

1974年、John Thomas Mickel はアメリカ大陸の Hemionitis とは形態や含有する化学物質(フラボノイド)が異なることから、本種を別属に移すべきだと指摘した[8]。なお、この見解は分子系統解析によっても支持されている。これを踏まえ、1993年に Gopinath Panigrahi により単型属 Parahemionitis が設立された[9][注釈 3]。Panigrahi はタイプ種を Asplenium arifolium Burm. f. (1768) としたため、本種は Parahemionitis arifolia (Burm.f.) Panigrahi とされた[3]。そのため、PPG I (2016) ではこの学名が用いられていた[10]

Morton (1974)ジュネーヴハーバリウムで、バーマンによるアノテーションのある腊葉標本を見つけ、これに"Typus"とラベルした[11]。つまり、これが Asplenium arifoliumタイプ標本であると考えられた[注釈 4]。しかし、この標本は Alston (1952) により、ミミモチシダ Acrostichum aureum の若い個体であると同定されていた[11][12]。そのため、Asplenium arifoliumHemionitis cordata のシノニムではなく、これをタイプとする属 Parahemionitis はミミモチシダに対して与えられてしまうこととなった[3][6]。ただし、バーマンによる Asplenium arifolium の判別文である「耳状突起のある、深波状縁卵形単葉 (simple ovate auriculate sinuous frond)」とは異なり、この標本には耳状部も深波状縁もなく、Mazumdar (2015) によるとこの標本がタイプと看做せないとされる。

この問題を解決するために、以下の3つの方法が取られている。

1997年に Christopher R. Fraser-Jenkins は Panigrahi (1992) の属名は有効であるが、種形容語は有効でないとして、この種を Parahemionitis cordata とした[13]。しかし、2016年に Fraser-Jenkins らはこの属を廃棄し、Hemionitis cordata Roxb. ex Hook. & Grev. (1828) をタイプ種として新属 Mickelopteris を設立した。そのため、本種は Mickelopteris cordata (Roxb. ex Hook. & Grev.) Fraser-Jenk. として扱われる[3]

また、分類学者によっては Hemionitis範囲を広くとり、Hemionitis cordata Roxb. ex Hook. & Grev. (1828) とする立場もある。

一方 Mazumdar (2015)Panigrahi (1992) の名付けた Parahemionitis arifolia を有効にするために、Rheede (1693:21) の図版を Asplenium arifoliumレクトタイプに、インドの西ベンガル州から採られた標本をエピタイプに指定した[11][12]。そしてこの学名とタイプの保存が提案されている[14]。これが認められれば、学名は Parahemionitis arifolia となる[7]

人間との関係

「ハートファーン」や「バレンタインファーン」として栽培される[1]

脚注

注釈

  1. ^ イヌアミシダを Hemionitis に含める立場では、Hemionitis がイヌアミシダ属と呼ばれる[4]。また、米倉 (2010) では Parahemionitis の和名とされた[2]
  2. ^ heterotypic synonym。動物学における新参異名(ジュニアシノニム)と同義。
  3. ^ Panigrahi は1933年7–9月の American Fern Journal にも"Parahemionitis, a New Genus of Pteridaceae" というタイトルで論文を発表しておりPPG I ではこれが引用されるが[10]、正式発表はそれに先んじて1933年1月31日に出版された Panigrahi (1992) Indian Fern J. 9 (1–2): 244 が早く、こちらに優先権があるとされる。この著作には1992年と印刷されているが、実際の出版年は1993年であった。また、これらに先んじて Panigrahi (1991) Abstr. & Souv. Nation. Symp. Curr. Trends Pterid. 4-6 : 13 が出版されているが、属は正式発表の要件を満たしていなかった。
  4. ^ Morton (1974) はレクトタイプ指定はしていない[11]

出典

  1. ^ a b c 大場 2009, p. 7.
  2. ^ a b 米倉 2010, p. 31.
  3. ^ a b c d e f Fraser-Jenkins et al. 2016, pp. 246–248.
  4. ^ 海老原 2016, p. 373.
  5. ^ a b c d e f g h i j k Zhang & Ranker 2013, Parahemionitis.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n Zhang & Ranker 2013, Parahemionitis cordata.
  7. ^ a b Hassler 2004–2024.
  8. ^ Mickel 1974, pp. 3–12.
  9. ^ Panigrahi 1992, p. 244.
  10. ^ a b PPG I 2016, p. 580.
  11. ^ a b c d Mazumdar 2015, pp. 91–94.
  12. ^ a b Mazumdar et al. 2019, pp. 93–109.
  13. ^ Fraser-Jenkins 1997.
  14. ^ Lindsay & Middleton 2021, pp. 1133–1134.

参考文献

外部リンク



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「イヌアミシダ」の関連用語

イヌアミシダのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



イヌアミシダのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのイヌアミシダ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS