アルコール性肝疾患とは? わかりやすく解説

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アルコール性肝疾患【あるこーるせいかんしっかん】


アルコール性肝疾患

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/03 02:48 UTC 版)

アルコール性肝疾患
マロリー小体が見られる肝細胞
概要
診療科 消化器
分類および外部参照情報
ICD-10 K70
ICD-9-CM 571.1
MedlinePlus 000281
MeSH D008108

アルコール性肝疾患(アルコールせいかんしっかん、: Alcoholic liver disease)または、アルコール性肝障害とは、の常用飲用(アルコール依存)によって引き起こされる一連の肝臓疾患のこと。アルコール性肝炎の状態では、自覚症状はほとんど無い[1]。アルコール性肝硬変は、全肝硬変の20%程度と考えられている[2]

アルコール性脂肪肝

複脂肪酸生合成系
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脂肪酸生合成アセチルCoA(炭素数2)を出発物質として、ここにマロニルCoA(炭素数3)が脱炭酸的に結合していく経路である。すなわち、炭素数2個ずつ反応サイクルごとに増加し、任意の炭素鎖を持った脂肪酸が作成されることとなる(脂肪酸#生合成参照)[6]

アルコールを大量・持続飲用することで、上記の代謝経路によって分解が追いつかず、かつ、代謝・合成された脂肪酸の酸化障害と[2]、エタノールの代謝中間生成物のアセトアルデヒドの有する肝毒性[2]とエタノール自体の影響によって肝細胞に炎症や壊死を生じる。

診断

長期(通常 5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の主な原因と考えられる病態で、以下の条件を満たすもの

  1. 過剰の飲酒とは、1 日平均純エタノール 60 g 以上の飲酒(常習飲酒家)をいう。ただし女性や ALDH2 活性欠損者では、1 日 40 g 程度の飲酒でも AL 性肝障害を起こしうる。※60 gは絶対的な基準では無い。" 禁酒により、血清 AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)、ALT(アラニンアミノ基転移酵素) およびγ-GTP(γ-グルタミルトランスフェラーゼ) 値が明らかに改善する。
  2. 肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体がいずれも陰性である。

<附記>

  1. 肥満者
  2. 肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体の取り扱い

※谷合麻紀子(2018)、「アルコール性肝障害の現況」[2]より引用し改変。

病理

病理組織学的に以下へ進行していく

慢性の大酒家が更に過剰な飲酒をすることで発症する。

慢性のアルコール性肝硬変と急性アルコール性肝炎が合併した重症型アルコール性肝炎SAH(severe alcoholic hepatitis) を発症すると、断酒を行っても症状は改善せず肝臓の腫大も継続する。多くの症例では、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、消化管出血、エンドトキシン血症などを伴う。予後は極めて悪く、多臓器不全によって1ヶ月程度で死亡する[7]

臨床像

肝硬変に至るまでの期間は性差があり女性が有意に短く、且つ少量の飲酒で重症化しやすい[8]

針原(1998)らの報告によれば、発症までの飲酒歴や飲酒量と性差は[9]

  • 飲酒量:男性 29±13年、女性 14±11年
  • 肝硬変合併率:性差無し
  • (入院時)腎不全合併率:男性 44%、女性 0%

他の肝疾患と比較し、ビタミン、微量金属栄養の欠乏状態が顕著で[7]ビタミンB亜鉛の欠乏が合併症の発症と重症化に大きく関与している[10]

症状

基本的に肝硬変に至るまで目立った症状はない。またアルコール依存症である場合も多く、治療コンプライアンスが維持できないことも多い。なお、女性では月経異常や無月経[8]男性では睾丸萎縮と女性化乳房[8]が現れることがある。

肝障害特有の、黄疸、全身倦怠感、食欲低下、発熱。

血液検査

  • アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)・アラニンアミノ基転移酵素(ALT):AST優位の上昇を示すことが多い。
  • γ-GTP:上昇傾向を示す

治療

禁酒。

重症症例では、肝移植[11]、白血球除去[12][13]、血漿交換[13]、ステロイド投与が有効であったとする報告がある[12]、持続血液濾過透析[14]

アルコール性肝炎では、糖質、ビタミン、微量金属栄養素を重要視した高蛋白質・低脂肪な栄養管理[10]と伏臥安静により急速に改善する[7]

メチルプレドニゾロンの投与は長期的な生存率に影響を与えない[15]、また抗ヒトTNFモノクローナル抗体インフリキシマブ)の投与は、1カ月死亡率を低下させる[15]との報告がある。

脚注

  1. ^ アルコール性肝炎 慶應義塾大学病院 KOMPAS
  2. ^ a b c d e f g h 谷合麻紀子、「アルコール性肝障害の現況」 『肝臓』 2018年 59巻 7号 p.312-318, doi:10.2957/kanzo.59.312
  3. ^ a b c d e 池嶋健一、「アルコール性肝障害機序の最先端」 『肝臓』 2018年 59巻 7号 p.342-350, doi:10.2957/kanzo.59.342
  4. ^ Dugum M, McCullough A. Diagnosis and management of alcoholic liver disease. J Clin Transl Hepatol 2015; 3 (2): 109-116, doi:10.1038/ajg.2009.593
  5. ^ a b 松本博志、14.アルコールの基礎知識 日本アルコール関連問題学会 アルコール・薬物3学会合同飲酒運転対策プロジェクト報告書
  6. ^ 脂肪酸生合成
  7. ^ a b c 高田昭, 奥平雅彦, 太田康幸 ほか、「アルコール性肝障害に対する新しい診断基準試案の提案」 『肝臓』 1993年 34巻 11号 p.888-896, doi:10.2957/kanzo.34.888
  8. ^ a b c 西村正信, 野内俊彦, 小山恒 ほか、「女性大酒家肝障害の臨床病理学的研究」 『肝臓』 1984 年 25 巻 10 号 p. 1246-1252, doi:10.2957/kanzo.25.1246
  9. ^ 針原重義, 木岡清英, 福井博 ほか、「重症型アルコール性肝炎における性差および予後因子の検討」 『肝臓』 1998年 39巻 10号 p.720-724, doi:10.2957/kanzo.39.720
  10. ^ a b 堤幹宏, 高瀬修二郎、「重症アルコール性肝炎の治療」 『肝臓』 2002年 43巻 7号 p.305-308, doi:10.2957/kanzo.43.305
  11. ^ 内藤雅大, 堀池眞一郎, 岩佐元雄 ほか、「肝移植に至つた重症型アルコール性肝炎の本邦第1例」 『日本内科学会雑誌』 2005年 94巻 4号 p.753-755, doi:10.2169/naika.94.753
  12. ^ a b 麻興華, 長沼篤, 佐藤洋子 ほか、「白血球除去・血漿交換・ステロイド等の集学的治療にて救命し得た重症型アルコール性肝炎の1例」 『肝臓』 2013年 54巻 11号 p.765-773, doi:10.2957/kanzo.54.765
  13. ^ a b 成田竜一, 笹倉俊介, 横田昌樹 ほか、」血漿交換,白血球除去にて改善を認めた重症型アルコール性肝炎の1例」 『日本消化器病学会雑誌』 1998年 95巻 1号 p.51-55, doi:10.11405/nisshoshi1964.95.51
  14. ^ 倉持元, 大島和佳子, 村山正樹 ほか、「重症型アルコール性肝炎に対して持続性血液濾過透析+ステロイドホルモン併用療法が著効した1例とその文献的考察」 『日本農村医学会雑誌』 2007年 55巻 5号 p.465-471, doi:10.2185/jjrm.55.465
  15. ^ a b 岡応樹、重症型アルコール性肝炎を疑った一症例 徳之島徳洲会病院

関連項目

外部リンク


アルコール性肝疾患

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 17:12 UTC 版)

アルコール依存症」の記事における「アルコール性肝疾患」の解説

アルコール脂肪肝 - 肝臓脂肪蓄積され放置する肝硬変肝臓癌へと進む危険を持つ。自覚症状ほとんどない

※この「アルコール性肝疾患」の解説は、「アルコール依存症」の解説の一部です。
「アルコール性肝疾患」を含む「アルコール依存症」の記事については、「アルコール依存症」の概要を参照ください。

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