あじさい (人工衛星)
(あじさい_(衛星) から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/07 17:00 UTC 版)
測地実験衛星 「あじさい(EGS)」 |
|
---|---|
所属 | 宇宙開発事業団(NASDA) (現宇宙航空研究開発機構(JAXA)) 国土地理院 海上保安庁海洋情報部 |
主製造業者 | 川崎重工業 |
公式ページ | 測地実験衛星「あじさい(EGS)」 |
国際標識番号 | 1986-061A |
カタログ番号 | 16908 |
状態 | 運用中 |
目的 | H-Iロケット試験機の性能確認 国内測地三角点の規正 離島位置の決定 日本測地原点の確立 |
設計寿命 | 5年以上 |
打上げ機 | H-Iロケット 1号機 |
打上げ日時 | 1986年8月13日 5時45分(JST) |
軌道投入日 | 1986年8月13日 6時44分21秒(JST) |
物理的特長 | |
本体寸法 | 直径約2.15m |
質量 | 685.2kg |
発生電力 | なし |
主な推進器 | なし |
姿勢制御方式 | スピン安定方式 40.3rpm(初期実測値)[1] 28.5rpm(2010年時点)[1] |
軌道要素 | |
周回対象 | 地球 |
軌道 | 円軌道 |
高度 (h) | 約1500km |
軌道傾斜角 (i) | 50.0度 |
軌道周期 (P) | 約116分 |
ミッション機器 | |
太陽光反射系 | Al蒸着鏡面×318枚 |
レーザ反射系 | レーザ反射体×120組 |
あじさい(AJISAI)は、日本の測地実験衛星(EGS、Experimental Geodetic Satellite)である。直径2mあまりのミラーボールのような[1]人工衛星としては特異な多面体形状で、太陽光の反射と地上からのレーザ光の反射をするための2種類の鏡で表面が覆われる一方、通信や姿勢制御など能動的な機能を持たない、完全にパッシブな人工衛星である[1]。1986年8月13日にH-Iロケット試験機1号機により打ち上げられた。軌道投入から30年以上経過しても所期の機能を失っておらず運用中扱いとなっている。
主に測地のために使用され、地上における既知の座標の観測点と未知の座標の観測点からあじさいの軌道軌跡の撮影と距離を同時に観測測定することによって、地上観測点間の相対的な位置関係が計算できる。国内測地三角網の規正、離島位置の決定(海洋測地網の整備)、日本測地原点の確立を目的としたほか、H-Iロケットの性能確認、離島の座標決定や、経緯度原点の異なる日本(原点は東京)と大陸(原点は満州国長春)との相対関係の規正[1]などに貢献した。あじさいを利用した測量で和歌山県の基準点から父島までの距離が937.665087km・誤差0.5cmと測定され、当時の測量技術における最高精度をもたらした[2]。
川崎重工が開発を担当した初めての人工衛星である[2]。構想開始当初は軌道上で直径10m程度に膨らむアルミ箔[3]の気球型として検討[4]されていた。
運用史
計画
- 1968年(昭和43年)5月 - COSPAR東京総会で、既に運用されていたアメリカの測地衛星エコーが墜落するため、打ち上げ能力のある国に対して2.5等以上の明るさの測地衛星を打ち上げるよう勧告される[5]。
- 1970年(昭和45年) - 建設省 国土地理院と海上保安庁 水路部(現・海洋情報部)の要望により、測地学審議会で気球型測地衛星の開発が決定[3]。
- 1977年(昭和52年) - 宇宙開発事業団が川崎重工業と気球型の測地衛星1号(GS-1、Geodetic Satellite)[6]として研究開発を開始(1981年まで)。この頃の計画では1982年(昭和57年)にN-Iロケットで打ち上げる想定だった[7][4]。
- 1980年(昭和55年)頃 - H-Iロケット試験機1号機に搭載することが確定[1]。
- 1982年(昭和57年) - 剛体型の測地実験用ペイロードとして研究開発・EMの基本設計を開始[7]。
- 1985年(昭和60年)12月 - 開発完了[2]。
運用

日時は日本時間。
- 1986年(昭和61年)
- 8月13日
- 5:45 - H-Iロケット試験機1号機により種子島宇宙センターから打ち上げられた。これは日本初のピギーバック(衛星相乗り)打ち上げであり、本衛星を主衛星として、他に日本初のアマチュア衛星のふじ[注釈 1]と、磁気軸受フライホイール実験装置を搭載した構体ペイロードじんだい[注釈 2]が搭載された。
- 6:44:21 -スピンテーブルにより回転を与えられた後に 南米上空において分離・軌道投入された。ロケットの性能確認ペイロードとしての測地実験機能部(EGP、Experimental Geodetic Payload)から、測地実験衛星(EGS)に変更され、あじさいと命名された[8]。投入された軌道は高度約1,500km、軌道傾斜角約50度、周期約116分の円軌道であった[2]。
- 20:34(第8周) - 日本が夜に入ってあじさいを観測可能になり、8周から12周にかけて初期追尾観測が実施され、9周以降レーザ観測にも成功した[8]。
- 10月7日 - 初期運用を終了し、定常運用に移行[2]。
- 8月13日
特徴
外形形状はロケットのフェアリング内径に収まる大きさで直径約2.15mの球に内接する多面体である。本体は構体系、レーザ反射系および太陽光反射系の3つの系で構成され質量は685.2kgである。
スピン
姿勢制御はスピン安定方式で、地球赤道面と垂直になる方向を軸とし、スピンレートは軌道投入時で40.3rpm[2]。電力を要する機器およびスラスタなどの姿勢制御装置は搭載しておらず、ロケットから分離される前にスピンテーブルにより与えられた回転(角運動量)を慣性によって保ち、無制御状態で回転し続ける。このスピンレートは長い期間をかけて漸減しており、これは地球を周回する間、地球磁場(地磁気)と人工衛星に使われる素材の導電性とが相互作用して衛星素材内にうず電流が生じて、その電流によって発生する磁場(磁気モーメント)と地球磁場とが互いに反発するためである。あじさいはこの磁気トルクをなるべく抑えるため、採用する部品素材に低導電性の材料を用いている。導電性の避けられない鏡面基板は面を細分化して板厚を薄くして影響を低減したが、それでもスピン減衰の要因の86%は鏡面基板が占めている[2]。
設計計算上は約72年でスピンレートが半減すると推定していたが、実際には不確定要素が大きくさから確な予測は困難であり、実際の減衰率は運用後の実測値から算出する必要があった。結果として1987年1月までで-0.6665rpm/年と予測の2倍程度大きく、これによるとスピンの半減期は約30年となった[2]。その後の観測からこの減衰について、スピンレートyは、打ち上げからの経過年数をxとすると、 Category:日本の宇宙探査機・Category:日本の人工衛星
「あじさい (衛星)」の例文・使い方・用例・文例
- あじさい_(衛星)のページへのリンク