「五つ」か「七つ」か
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/11/30 15:27 UTC 版)
ところで『七つ面』については芝居の内容もさることながら、他にも大きな問題がある。それは上に紹介した内容を見ればわかるように、面が「尉」「塩吹」「般若」「姥」「武悪」の「五つ」しか出てこないことである。寛保2年の時の役者評を記した『役者和歌水』にも、「頼朝公を討(うた)ん為、面打(めんうち)大和の元興寺(がごぜ)赤右衛門と名を替(かへ)、笑尉(わらひぜう)釣眼(つりまなこ)虚言籟(うそふき)武悪(ぶあく)黒髭(くろひげ)の七面の形(かた)去りとはお上手…」とあり、ここでも面は五つしか出てこない。なお『星合栄景清』には絵本番付が伝存し、『七つ面』に当たる場面の絵を見ると確かに面箱は七つ描かれており、そのうちの五つは蓋が開けてあって五つの面が見え、それぞれ面の下に面の名も記してある。しかし残りの二つは蓋が閉じたままで面の名も記されない。 実は元文5年の時もまた寛保2年の時も二代目海老蔵が『七つ面』を演じたとされながら、そのいずれにも「七つ面」という外題が使われたという当時の資料や記録は見あたらないのである。要するに「七つ」というつもりでやっていたのかどうかわからないということである。他でも「七つ面」という外題の演目は確認されていない。もっとも『七つ面』という外題の由来は上にあげた『役者和歌水』にある「七面」から来ている可能性もあるが、「七面」と記していながら面は五つしか出てこないのが不可解である。五つがどうして七つになるのか、その事情については不明というほかない。しかしとにかく歌舞伎十八番が制定されて以降、『七つ面』という外題が通用してこの芝居は上演されるようにはなったのである。 平成28年(2016年)1月の初春花形歌舞伎において、11代目市川海老蔵は改良を加えた『七つ面』を演じた。基本的に、「七つ面」のほか「象引」「関羽」「不破」「嫐」「蛇柳」については、型や脚本は伝わっていないため、実際に演じるためには都度、新たに脚本を作ることとなる。平成28年1月の『七つ面』の場合には、7つの箱が置かれ、うち6つの箱は空いていた。空いていない1つの箱は最初に海老蔵演じる赤右衛門によって開かれ、七つ面の神体である双面(ふたおもて)の面であることがわかる。海老蔵の舞いでは開かれていた6つの面を全て使った。
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