74式戦車 運用

74式戦車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 06:04 UTC 版)

運用

1974年(昭和49年)度から、1989年(平成元年)度までの15年間に873輌が調達された[25]。配備先も多く、空砲射撃も可能なことから、駐屯地祭などの模擬訓練展示でよく使用された。

旧式化し、年間40輌程度の速さで退役が進んでいる。特に走行装置の消耗が激しいとされ、容易に交換できない部分であるため、車体のみ他用途に転用することはできない。

本車の代替として、90式戦車と同等以上の戦闘力を持ちつつ、小型軽量化で全国的配備を目指した40t級の10式戦車が開発されており、2011年(平成23年)度から順次更新が進められていった。の先駆けとして、偵察部隊で例外的に戦車を装備していた第7偵察隊が2013年に90式戦車に更新する形で配備が解除された。更に26中期防による戦車定数の大幅削減により、北海道と九州の実戦部隊および本州の教育部隊を除き戦車部隊の廃止が予定されているほか、装輪型の16式機動戦闘車・水陸両用車AAV7装備部隊への転換により、74式戦車の退役が加速している。2017年度末には第14戦車中隊の廃止、第4戦車大隊第8戦車大隊の統合(西部方面戦車隊の新編)が実施された。2018年度末には第6戦車大隊第1機甲教育隊が廃止、第11戦車大隊が第11戦車隊に縮小、西部方面戦車隊の74式戦車の全廃、部隊訓練評価隊の90式戦車への更新がされた。31中期防では2021年度(令和3年度)末に第1戦車大隊の廃止、2022年度(令和4年度)末に、第2戦車連隊の縮小改編による用途廃止、第3戦車大隊の廃止が行われた。2023年度(令和5年度)末に、残る第9戦車大隊第10戦車大隊第13戦車中隊の廃止により、戦闘部隊から全車両が退役した。また、教導部隊である機甲教導隊第4中隊の機動戦闘車中隊への改編、同連隊戦闘中隊の16式機動戦闘車への増備により用途廃止となった。

仙台駐屯地船岡駐屯地豊川駐屯地湯布院駐屯地都城駐屯地など、一部の駐屯地では、用途廃止された74式戦車が展示されている。

改良

登場以来、外見の変化をともなう大きな改修が行われていないが、15年にわたる生産の中で小規模な改修が施されている。これはおおむね5つのロットに分けられるといわれ、射撃管制装置の近代化と新型砲弾の追加により、火力は大幅に増強されている[13]。防御に関しても、車内・砲塔内への高分子ライナー貼付など、外見から判別できない強化が行われている。

増加装甲としての爆発反応装甲に関しては経年変化試験まで完了しており、技術的には増設も可能だが、被弾時に周囲に随伴している普通科隊員への影響がある点や、装備時の重量増加に伴うエンジンの換装を含む大規模な走行系の改修を必要とするため装備が見送られている。

極少数ではあるが、74式戦車(G)の開発も行われ(後述)、近年でも2008年度より部隊訓練評価隊内の一部の車両には一般の二色迷彩に濃い灰色系の色を追加した三色迷彩が、第1戦車大隊の一部の車両には薄い灰色系の色と黒色の二色迷彩を施した車両が確認されている。

改修段階

74式戦車照準用暗視装置付
74式戦車ドーザ付
初期生産型
特に呼称はなく、後の生産型にB型以降の型式が付与されるようになってもアルファベットによる型式区別は付与されず、単に「74式戦車」と表記される[26]
74式戦車照準用暗視装置付[26]
アクティブ型赤外線暗視装置砲塔に取り付けた型式[26]
74式戦車ドーザ付[26]
車体前方に障害物除去用のドーザ(排土板)が取り付けられた型式[26]。操作は操縦士が姿勢制御装置の油圧を利用して行うが、操縦装置の関係から搭載砲弾数が通常の50発から3発少ない47発となる[26]
74式戦車照準用暗視装置 ドーザ付[26]
前述の2つの装備を取り付けた型式[26]。以下、下記の型式も取り付けられた装備に合わせて「○型○付」と表記される(例:74式戦車F型照準用暗視装置付)。
B型[26]
APDS及び75式HEPの2弾種に加え、APFSDSを運用できるようFCS弾薬架を改良した型式[26]。変更までに配備された400輌以上の初期型全てがB型に改良された[26]
C型[26]
オリーブドラブ一色だった塗装を、濃緑色と茶色の2色迷彩に変更した型式[26]。50-60輌程度が生産され、B型と並行して運用された[26]
D型[26]
砲身にサーマルスリーブを装着した型式[26]。C型以前の物は全てD型に改良された[26]
E型[26]
HEPに代わり91式HEAT-MPを射撃できるようにFCSを改良した型式[26]。D型以前の8割程度がE型仕様になった[26]
F型[26]
92式地雷原処理ローラを装備できるようにした型式[26]。数量は10輌以下とされる[26]
74式戦車(G)
G型[26]
上記の74式戦車改修型。量産4輌と試作1輌のみが存在する[13][26]。制式化されているため、4輌と少数であるが正式な量産車となる[26]
74式戦車の運用寿命の延命も期待され、1992年に製作が行われた[27]1993年には試作改修型として1輌が完成し、4輌が正式に74式戦車(G)として改修された[27]。車体後部の銘板には「74式戦車(改修)」その下に「形式 74(改)」と表記されている[27]。従来の74式戦車に、目標の自動追尾機能を兼ね備えたパッシブ式暗視装置や発煙弾発射機と連動するレーザー検知装置、強力なYAGレーザーを使用したレーザー測遠機などを装備したもので[13]、前述の他、90式戦車のものに類似したサイドスカートが装着可能[注 7]となり、起動輪にはリング状の履帯離脱防止装置[注 8]を装着している[27]。また変速装置を改修し、後退2速での後進が可能となった[28]。ロシアやイスラエル等では旧式化した主力戦車をアップグレードする際によく見られる爆発反応装甲の採用はない。
改修による性能の向上は良好なものであったが、開発当時の改修費用は1億円とも言われ、現有の74式戦車870両弱のうち500両を改修したとすると、90式戦車約50両分の調達数が減ることになり、結果として改修車は試作車を含む5輌のみで終了し、既存車への大規模な整備は見送られた[27]
正式に改修された4輌は富士教導団戦車教導隊で運用され、富士学校富士駐屯地の開設記念行事や富士総合火力演習に参加して一般公開されている。その後、改修車4輌はE型に準じた状態に復元されたが、パッシブ式暗視装置及び連動型レーザー検知装置の装備は継続されており、第1機甲教育隊にて運用されていたが、同隊の廃止に伴い全車用途廃止となった[29]。うち1両が駒門駐屯地で保存展示されている[29]

配備部隊・機関

陸上自衛隊富士学校

陸上自衛隊武器学校

北部方面隊

東北方面隊

東部方面隊

中部方面隊

西部方面隊


注釈

  1. ^ かつてタミヤはSTB時代の74式戦車をモチーフとした半架空の戦車「M.B.T.71」のプラモデルを販売していた。
  2. ^ 90式では前後方向への傾斜のみに簡略化されており、74式よりも可動範囲の自由度は小さい。これは弾道計算コンピューター、レーザー測距器に代表される電子機器の発達により、砲撃時に車体の水平を維持する必要性が薄れたためである。10式は左右の傾斜調整機能が復活している。
  3. ^ 90式より高腔圧に対応
  4. ^ 2008年度予算から初度費が一括計上されており、10式の単価には初度費は含まれていない。
  5. ^ 平成元年度防衛白書中の資料「平成元年度主要事業の経費」によれば、56両に対し22,175百万円。
  6. ^ 1965年と2022年の物価を消費者物価指数で換算。
  7. ^ サイドスカートを装着した状態では一般に公開された例はないが、試作車のみ、「SPEARHEAD (スピアヘッド) No.3」などでサイドスカートを装着した写真が掲載されている。
  8. ^ M1エイブラムスの初期型車両に類似したもの。

出典

  1. ^ a b 74式 事実上の主力戦車”. 時事ドットコム. 2021年1月14日閲覧。
  2. ^ a b c 丸 2002, p. 78.
  3. ^ a b c 古是三春 & 一戸崇雄, p. 68.
  4. ^ 丸 2002, p. 80.
  5. ^ 丸 2002, p. 81.
  6. ^ 三菱重工業株式会社 社史編さん委員会 編『海に陸にそして宇宙へ 続三菱重工業社史 1964-1989』三菱重工業、1990年4月、740頁。 
  7. ^ 74式 「低姿勢」を徹底追求”. 時事ドットコム. 2021年1月14日閲覧。
  8. ^ a b 丸 2002, p. 82.
  9. ^ 林磐男 2002, pp. 248–249.
  10. ^ 74式 アナログ式で弾道計算”. 時事ドットコム. 2021年1月14日閲覧。
  11. ^ 丸 2002, p. 83.
  12. ^ a b c d PANZER 2004.
  13. ^ a b c d 幻の「74式改」”. 時事ドットコム. 2021年1月14日閲覧。
  14. ^ 古是三春 & 一戸崇雄, p. 91.
  15. ^ 古是三春 & 一戸崇雄, p. 105.
  16. ^ a b c d e f 古是三春 & 一戸崇雄, p. 106.
  17. ^ a b 古是三春 & 一戸崇雄, p. 89.
  18. ^ a b c d e f g 古是三春 & 一戸崇雄, p. 81.
  19. ^ a b 古是三春 & 一戸崇雄, p. 83.
  20. ^ JグランドEX 2019 SPRING No.4. イカロス出版株式会社か. (2019年6月15日) 
  21. ^ a b ワールドタンクミュージアム」第4弾 74式戦車解説書
  22. ^ 74式戦車にある外付け電話ボックスって? 欧米ではわざわざ増設した例も 使い方は?」『乗りものニュース』株式会社メディア・ヴァーグ、2020年12月8日。2020年12月9日閲覧。
  23. ^ 『世界のハイパワー戦車&新技術』(Japan Military Review『軍事研究』2007年12月号別冊p135、一戸崇雄)
  24. ^ 伊藤学 2023, p. 47.
  25. ^ 装甲車両・火器及び弾薬の開発・調達について (PDF) - 防衛省経理装備局艦船武器課 平成23年2月
  26. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 古是三春 & 一戸崇雄, p. 99.
  27. ^ a b c d e 古是三春 & 一戸崇雄, p. 75.
  28. ^ 伊藤学, p. 78.
  29. ^ a b 陸自「74式戦車(改)」を知っているか わずか4両のレア戦車 90式戦車レベルの装備」『乗りものニュース』株式会社メディア・ヴァーグ、2020年3月31日。2020年4月8日閲覧。
  30. ^ “戦車にウインカー「軍隊否定」の象徴”. MSN産経ニュース. (2012年4月28日). https://web.archive.org/web/20120428193057/http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120428/plc12042822520013-n1.htm 2012年4月29日閲覧。 
  31. ^ 月刊PANZER編集部 (2018年10月23日). “火山噴火になぜ戦車? 頑丈さや悪路走破性のみならず 雲仙普賢岳噴火と陸自74式戦車”. 乗りものニュース. 2022年7月3日閲覧。
  32. ^ 日本経済新聞:自衛隊、福島第1原発周辺に戦車2両 がれき撤去へ
  33. ^ “がれき撤去で、戦車派遣=福島第1原発、放水作業を支援—防衛省”. livedoorニュース. 時事通信社 (ライブドア). (2011年3月20日). オリジナルの2011年3月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110322033459/http://news.livedoor.com/topics/detail/5428657/ 
  34. ^ PANZER 2011.
  35. ^ 大砲・戦車との音楽展示2
  36. ^ 2016年[4Kチャイコフスキー序曲1812年/2曲目砲撃有【高知駐屯地】]
  37. ^ 玖珠駐屯地恒例 戦車と綱引き - OBS大分放送(1月19日放送・配信分。同日配信のニュースをアーカイブ化)






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