豊洲市場 豊洲市場の概要

豊洲市場

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/11 07:40 UTC 版)

豊洲市場(2020年1月撮影)
地図

豊洲市場(とよすしじょう)[1][2]は、東京都江東区豊洲六丁目にある公設の卸売市場である。東京都内に11か所ある東京都中央卸売市場の一つ。築地市場中央区築地)の代替施設として建設された。2018年9月13日に開場記念式典が行われ[3]、同年10月11日に取引を開始した(「築地市場移転問題」も参照)。

競りの見学、イベント、物販・飲食店舗については、小売・飲食店関係者以外の一般消費者や観光客も利用できる[4][5]

背景

築地市場は1987年まで汐留駅から引き込み線が場内に敷かれるなど、鉄道輸送を前提に設計されており、現代のトラック輸送には十分に対応できず建て替えが必要と言われていた。東京都は、銀座などに近いという立地の良さと土地の広さなどを鑑み、2014年を目処に江東区豊洲への移転を検討していた。東京都側と築地市場業界との協議機関として、新市場建設協議会が設置され、2004年7月には『豊洲新市場基本計画[6]』が策定された。

移転先予定地は東京ガスの施設が立地していた土地で、土壌汚染が発覚した。地中から検出されたヒ素六価クロムシアン水銀ベンゼンの6種類の有害物質が国の環境基準を超えており、発癌性物質であるベンゼンにいたっては局地的ではあるが、国の基準の43,000倍である[7]。こうした安全・衛生面や移転に伴う経費等の負担への不満、築地に対する愛着を抱く一部仲卸などにより、移転反対運動が行われていた。安全面での対応としては、2012年度より豊洲新市場土壌汚染対策工事およびそれに関する技術者会議を行っている[8]

築地市場の取扱量が減少傾向にあることも指摘された。築地での建て替えを求める「現在地再整備」案が1999年に浮上したが、業界との調整難航や費用の増大で白紙化された[9]

なお、築地市場でも敷地の土壌汚染が確認されている[10]。このほか地下には第五福竜丸によって水揚げされた、水爆実験被曝したマグロ(当時「原爆マグロ」と呼ばれた)が埋められている問題が存在している。

土壌汚染対策のために開場時期は何度も延期された。2014年12月17日、新市場建設協議会は2016年11月上旬に開場し、築地に代わる新市場として発足する事を正式に決定[11]。その後、開場日は11月7日とすること、名称を「豊洲市場」とすることが決定した[1][2]。しかし、新たな土壌汚染問題の発覚などを理由に、2016年8月31日に小池百合子都知事が開場を延期することを表明し、複数回の調整を経て開場日は2018年10月11日となった[12]

なお、前述の通りトラック輸送による搬出入がメインに考えられているが、築地市場時代と同じく海上輸送にも対応しており、市場北側の晴海運河南岸(豊洲ぐるり公園隣接)に全長150m級の桟橋が整備され、搬入が可能となっている。

施設

環二通りと東京都市計画道路補助第315号線の交差点を中心に5街区、6街区、7街区の3地区に分けて建設された。総敷地面積は40.7ha。東側の5街区に青果棟(地上3階建)、西側の6街区に水産仲卸売場棟(地上5階建)、南側の7街区に水産卸売場棟(地上5階建)および管理施設棟(地上6階建)が配置されている。管理棟には、築地市場にあった約3000冊の資料を所蔵する「銀鱗文庫」も移管された[13]

また水産業者などから信仰される魚河岸水神社(すいじんじゃ、本殿は神田明神境内)の遥拝所も、築地市場から豊洲市場敷地内へ遷座された[14]

市場の各施設を隔てる道路の交差点北東方にはゆりかもめ東京臨海新交通臨海線市場前駅があり、歩行者デッキで各街区と連絡される。

街区

街区」とは「街路に囲まれた」一区画を指す語で、豊洲地区においては本来都市計画上、平成23年の「江東区都市計画マスタープラン」のなかで豊洲5丁目の一部と6丁目を1~8街区に分けて整備計画を示したものである[15]。こうした中で、豊洲市場(仮)整備地として想定された5、6、7街区がそれぞれ街区ごとに用途を区分して整備された(5街区が青果事業者および青果関連事業者、6街区が水産仲卸業者、7街区が水産卸業者および管理施設)ことから、建設業者や都当局、場内事業者らも各街区の呼称を用いるようになり[16][17]現在に至る。市場内の区画区分ではないため豊洲地区1~4街区や9街区は豊洲市場とは関連のない用途に供用されている土地である[15]


千客万来施設

交差点に隣接して、6街区と5街区に観光客を対象とした商業・観光施設「千客万来施設」が建設される。

2014年2月19日、大和ハウス工業(5街区の伝統工芸体験施設を担当)と「すしざんまい」を運営する喜代村(6街区の飲食店や温浴施設を担当)の2社へ運営を委託することを決定した[18]が、2015年2月23日に大和ハウス工業が、同年4月28日には喜代村が辞退を申し入れた[19][20]

2016年3月4日、辞退表明をした2社に代わって万葉倶楽部が事業予定者として選定された[21](6街区のみ)。しかし、2017年6月に都知事の小池百合子が築地市場の再整備を行い、物流と食の観光拠点とすることを発表した[22][23]ことを受け、万葉倶楽部は採算が採れなくなることを理由に、撤退の意向を東京都に伝えた[24]。その後、両者の協議により「千客万来施設」は再び整備される方向となり、2018年8月時点の東京都による江東区議会への説明では、2023年の開業が予定されていた[25](「万葉倶楽部#開発事業」も参照)。

延期になった千客万来施設開業までのにぎわい創出のため、東京都では豊洲市場周辺の段階的・重層的な賑わい創出のための事業を複数構想。千客万来施設用地を活用した取り組みを相次いで打ち出した[26]。そのキックオフイベントとして2019年1月-3月まで、5街区の千客万来施設用地を活用して、さらに同年4月から2020年(令和2年)5月までは6街区の千客万来施設用地を活用して「豊洲市場Oishii土曜マルシェ」を開催。場内事業者や地元商店街らと連携したイベントを実施した[26][27]。マルシェ事業はその後、隣接して開業したミチノテラス豊洲で行われる「豊洲場外マルシェ」に引き継がれた[28]

また、2018年(平成30年)12月、千客万来施設開業までのにぎわい創出のため、貸付期間を1年間毎として平成35年(2023年)までの更新する暫定的な事業として5街区の千客万来施設事業用地を活用した事業を方針策定し、事業者を募集[29][30]三井不動産により応札され、2020年1月24日「江戸前場下町」としてオープンした[31]。同社がプロデュースし、リクリエーションズ株式会社が運営する[32]。2023年11月、東京都などは江戸前場下町について千客万来施設(豊洲 千客万来)の開業に合わせ2024年1月30日で営業を終了すると発表した[33]

2023年2月9日、万葉倶楽部は施設を2024年2月1日に開業すると発表した[34]。同年9月13日、万葉倶楽部は開業する施設の名称を「豊洲 千客万来」とすることを発表。「豊洲 千客万来」は豊洲市場の食材などが購入できる商業棟「豊洲場外 江戸前市場」と宿泊施設を併設した温浴棟の「東京豊洲 万葉倶楽部」で構成される[35]

施設の設計

水産仲卸売場棟、水産卸売場棟、青果棟の設計は日建設計が行っている[36]

施設の施工

豊洲市場の施工は以下の共同企業体(JV)が行っている[37]


  1. ^ a b 豊洲新市場(仮称)の名称及び開場日について - 東京都、2015年7月17日、2015年8月13日閲覧。
  2. ^ a b 移転先名称は「豊洲市場」 来年11月7日に開場 - 産経ニュース、2015年7月17日、2015年8月13日閲覧。
  3. ^ 豊洲市場開場記念式典/曲折30年 決意新たに/「仲卸置き去り」憤りも毎日新聞』朝刊2018年9月14日(東京面)2018年9月15日閲覧。
  4. ^ 豊洲市場の飲食・物販店舗及び見学者通路の一般の方のご利用等について東京都中央卸売市場(2019年1月22日閲覧)。
  5. ^ 「豊洲市場Oishii(おいしい)土曜マルシェ」スタート!!東京都中央卸売市場(2018年12月21日)2019年1月24日閲覧。
  6. ^ 豊洲新市場基本計画”. 東京都中央卸売市場. 2018年10月17日閲覧。
  7. ^ 築地市場の移転整備疑問解消BOOK” (PDF). 東京都中央卸売市場. p. 12. 2018年10月17日閲覧。
  8. ^ 豊洲新市場予定地の土壌汚染はどうするの?”. 東京都中央卸売市場. 2018年10月17日閲覧。
  9. ^ 「浮かんでは消えた築地の再整備・移転計画 跡地の未来は見えず」産経ニュース(2018年10月6日)2019年10月14日閲覧。
  10. ^ 「築地の土壌からヒ素検出 豊洲との比較が焦点」日本経済新聞ニュースサイト(2017年5月25日)2018年9月15日閲覧。
  11. ^ 16年11月上旬に開場 築地移転の豊洲新市場”. 産経ニュース (2014年12月17日). 2014年12月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年10月17日閲覧。
  12. ^ 豊洲市場の開場日の決定及びこれに伴う平成30年東京都中央卸売市場における臨時休開場日の変更について - 東京都中央卸売市場、2018年12月20日、2018年12月21日閲覧。
  13. ^ 「築地市場の図書室も移転 魚関係3千冊、貴重な資料」日本経済新聞ニュースサイト(2018年9月11日)2018年9月15日閲覧。
  14. ^ 魚河岸ものがたり(19)水神社 移転しても商売を見守る朝日新聞』朝刊2018年9月11日(東京面)2018年10月13日閲覧。
  15. ^ a b 豊洲地区の全景(令和3年)”. 江東区. 2024年1月14日閲覧。
  16. ^ 施設概要”. 東京都中央卸売市場. 2024年1月14日閲覧。
  17. ^ 見学エリア案内|ザ・豊洲市場
  18. ^ 千客万来施設事業 事業予定者の決定について” (PDF). 東京都中央卸売市場 (2014年2月19日). 2017年7月11日閲覧。
  19. ^ 千客万来施設事業 事業予定者の一部辞退について”. 東京都中央卸売市場新市場整備部 (2015年2月23日). 2017年7月11日閲覧。
  20. ^ 千客万来施設事業 事業予定者の辞退について”. 東京都中央卸売市場管理部市場政策課 (2015年4月28日). 2017年7月11日閲覧。
  21. ^ 千客万来施設事業(6街区)事業予定者の決定” (PDF). 東京都中央卸売市場 (2016年3月4日). 2017年7月11日閲覧。
  22. ^ “都知事、豊洲移転を表明 築地にも市場機能”. 東京新聞. (2017年6月21日). http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201706/CK2017062102000126.html 2017年7月11日閲覧。 
  23. ^ 小池知事「知事の部屋」/記者会見(平成29年6月20日) 築地市場移転問題について”. 東京都政策企画局調整部政策課 (2017年6月20日). 2017年7月11日閲覧。
  24. ^ “豊洲に予定の観光施設 運営会社が撤退の意向”. NHK. (2017年7月11日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170711/k10011053561000.html 2017年7月11日閲覧。 
  25. ^ 豊洲「千客万来施設」、20年には暫定店舗設置日本経済新聞ニュースサイト(2018年8月29日)2018年9月15日閲覧。
  26. ^ a b "「豊洲市場Oishii土曜マルシェ」 スタート!!" (Press release). 東京都中央卸売市場. 21 December 2018. 2024年1月14日閲覧
  27. ^ "4月から豊洲市場6街区でイベントを実施します!" (Press release). 東京都中央卸売市場. 26 March 2019. 2024年1月14日閲覧
  28. ^ 豊洲スマートシティ|豊洲場外マルシェ
  29. ^ 千客万来施設事業用地(5街区)を活用した賑わい創出事業 実施方針”. 東京都 (2018年12月21日). 2024年1月14日閲覧。
  30. ^ 千客万来施設事業用地(5街区)を活用した賑わい創出事業実施方針を策定しました”. 東京都 (2018年12月21日). 2024年1月14日閲覧。
  31. ^ 豊洲市場に「江戸前場下町」。市場の食材を使うフードホール” (2019年12月2日). 2024年1月14日閲覧。
  32. ^ "新豊洲 千客万来施設事業用地(5 街区)に商業施設「江戸前場下町 え ど ま え じ ょ う か ま ち」を開業" (PDF) (Press release). 三井不動産. 2 December 2019. 2024年1月14日閲覧
  33. ^ 日本経済新聞. (2023年11月30日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC29AAW0Z21C23A1000000/+2024年1月14日閲覧。 
  34. ^ “豊洲市場の場外エリアに、温泉・商業施設「千客万来施設」開業 2024年2月に”. IT media. (2023年2月10日). https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2302/10/news069.html 2023年2月16日閲覧。 
  35. ^ 東京・豊洲市場の集客施設、名称「豊洲 千客万来」に” (2023年9月13日). 2024年1月14日閲覧。
  36. ^ “豊洲新市場の基本設計を日建設計が8610万円で受託”. 日経アーキテクチュア. (2011年3月11日). http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20110310/546273/ 2016年7月23日閲覧。 
  37. ^ 東京都/豊洲市場建設現場(江東区)を初公開/躯体工事がおおむね完了”. 『日刊建設工業新聞』 (2015年10月30日). 2018年10月17日閲覧。
  38. ^ 豊洲新市場基本計画” (PDF). 東京都中央卸売市場. pp. 6-7. 2018年10月17日閲覧。
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  47. ^ 核の米権威が警告!福島より高濃度…都内にある“危険エリア” 2011年4月14日 ZAKZAK 政治・社会
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  54. ^ “【独自】東京駅―勝どき―有明を結ぶ「臨海地下鉄」新線、全7駅新設…2040年代前半に開業へ”. 読売新聞オンライン. (2022年11月24日). https://www.yomiuri.co.jp/national/20221123-OYT1T50226/ 2022年12月4日閲覧。 
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