約物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/29 07:50 UTC 版)
具体的には、句読点・疑問符・括弧・アクセントなどのこと[1]。
概要
元は印刷用語で、「しめくくるもの」の意。または、煉瓦・タイルなどで、縁に配置するために他と形状を変えてあるものを約物(「役物」とも書く)と称する。
約物は普通発音されないが、慣用的に用いられたり、文に意味付けを加えたり、音の表現でしかない平仮名や片仮名で表現しきれない意味付けを表現するのに使われる。
マークアップ言語とも似ているが、マークアップ言語は形式言語であるのに対し、約物の一般的な使い方としては、自然言語の一部として、それなりの約束事はあるものの厳密に規定されているわけではなく、編集者や筆者の裁量に任されている部分が多い。
最近では文字しか使えない電子メールや電子掲示板などで使われるアスキーアートで約物を使うこともあるが、これには約物としての意味はない。
約物の歴史は世界的に古く、〃等の一部の記号は印刷技術がない紀元前から使用されている。
約物は禁則処理(句読点が行頭にあってはいけないなどの制限)の対象となることが多い。
日本語の約物
日本語の約物には、日本独自のものと、感嘆符や疑問符など他国語から輸入されたものがある。
以下、主な約物を列挙する。
- 句点(。)
- 文の終端を意味する。基本的に題名や表題などには用いない[注釈 1]。横組の場合は、まれに「.」(ピリオド)を用いることもある。
- 読点(、)
- 一文を意味のある区切りごとに分けるために付けられる。また、語句を並列させる場合にも用いる。音読する場合はこれを息継ぎの目安とすることもある。横組の場合は、まれに「,」(コンマ)を用いることもある。
- 丸括弧、小括弧(( ))、二重丸括弧、二重小括弧(⦅ ⦆)
- 語句または文の次に、それらについて特に注記を加えるときに用いる。印刷用語ではパーレンと言う。
- かぎ括弧(「 」)、二重かぎ括弧(『 』)
- 会話や語句の引用、あるいは特に注意を喚起する語句を挿入する場合に用いる。
- 波括弧、中括弧({ })、角括弧、大括弧([ ])、亀甲括弧(〔 〕〘 〙)、山括弧(〈 〉《 》)、隅付き括弧(【 】〖 〗)
- 決まった用途はないが、括弧が入れ子になる場合の使い分け、引用符、強調などに用いる。
- 印刷・出版業界の慣例では、これらの括弧のうち閉じ括弧の直前には句点を置かない。しかしながら、義務教育の教科書や法律の文章では、括弧内であっても文が完結していればその終わりを示す句点を置く。
- 二点リーダ(‥)、三点リーダ(…)
- 主に会話文の中で、「沈黙」や「絶句」などの言葉の「間」を表現する。特にせりふの最後では、一文をはっきり言い終わらず「言葉を濁す」表現になる。「……」と三点リーダーを二つ並べて用いるのが正式とされることがあるが、実際には明確な決まりはない。また会話以外では、箇条書きの項目名と内容を繋げる記号、省略記号としての用法などもある。詳細は「リーダー (記号)」を参照
- 中点、中黒(・)
- なかてん、なかぐろ。複数の名詞の並置(例…国内・海外ともに)に使う。「、」よりも全体が一つの塊である意味合いが強くなる。外国語を片仮名に転写するときに区切りに使うことがある。中黒を3個続けて記し、三点リーダの代用とすることは誤りである。
- ビュレット、圏点(•◦)
- 縦組では文字の右、横組では文字の上に付けて強調を表す。箇条書きの項目の先頭に置くことがある。
- ダブルハイフン、二重ハイフン(゠)
- 漢字圏以外の人名などを片仮名で表記するときに区切りとして使用する。外国語を片仮名に直したときに単語の区切りに使うことがある。
- 感嘆符、エクスクラメーションマーク(!)
- 文の最後に付けられ、驚きや叫びなどを表す。元は欧文で感嘆文であることを示す約物であるが、現在は日本語でも日常的に使われる。雨垂れ、びっくりマークとも呼ばれる。より大きな驚きを示して感嘆符二つ「‼」が用いられることもある。
- 疑問符、クエスチョンマーク(?)
- 疑問文の最後に付けられる。しかし日本語の中では助詞「……か」などだけでも疑問が示されるため、むしろ発音上イントネーションを上げる(ことで疑問を表現する)記号として使われることが多い。逆に言えば、疑問文であっても語尾を上げて発音する必要がなければ使用されない。驚きと疑問を同時に表すときは感嘆符疑問符「⁉」や疑問符感嘆符「⁈」のような使い方をされることもある。耳垂れ、はてなマークとも呼ばれる。疑問の意味を増幅させるために疑問符二つ「⁇」が使われることもある。
- 感嘆符、疑問符の後ろに句点を置くことは誤りである。
- 長音符号(ー)
- 音引き(おんびき)とも。母音を伸ばす(長母音)ときに使われる。漢数字の“一(いち)”と紛らわしく、同時にハイフン (‐) と誤用されることがあり、注意が必要である。
- 米印(※)
- こめじるし。文中に書ききれなかった注釈などを、段落の外などで付け加えるときに使う。
- ダッシュ(—)
- 三点リーダのように言葉の「間」を表すほか、説明を加えるときの丸括弧のようにも用いられる。「ダーシ」とも呼ばれる。二倍の長さのもの(——)は二倍ダッシュ、半分の長さのもの(–)は二分ダッシュと呼ばれる。副書名や副題名をくくって用いることがある。
- 波ダッシュ(〜)
- 「1〜12月」などとして、値の範囲を示す。また「〜したい」などのように省略の記号としても使われる。ときに長音符(ー)の代わりに用いられることもあるが、これは読み手に滑稽な印象を与えるためや通常の長音より伸ばすことを示すためであることが多い(例:「あついね〜」)。
- なお、「1〜12月まで」のように用いることがあるが、「〜」には「まで」の意味が含まれているので誤りである[要出典]。
- 形が似ている「~」とは、互いに異なる記号であるが、どちらの形状も「右上がりから始まる波型である(チルダの場合には中央より上部に書かれることもある)。
- 踊り字、重ね字、送り字、繰返し符号、反復符号(々ヽヾゝゞ仝〻〳〴〵)
- 「延々」のように前の文字を繰り返すときに使う。漢字には「々」(同の字点)、平仮名には「ゝ」、片仮名には「ヽ」(ゝと二組で一の字点)を用いる。漢字を繰り返して訓で読ませる場合は二の字点「〻」(U+303B) が用いられるが、最近では「々」で代用することが多い。また、2文字以上を繰り返すときには「ふか〳〵」のように〳〵(くの字点)をセットで用いる。ただし、横組では用いない。それぞれ濁点のついているものは、2文字目が濁音化する場合に用いる(「ひゞ」なら「ひび」、「しか〴〵」なら「しかじか」と読む。ただし「じじ」のように1文字目が濁音の場合は「じゞ」と書かずに「じゝ」と書く)。現在では一般に「々」のみが用いられている。「々」は「同」の古字「仝」が変化したものとも、中国で使われた記号が変化したものともいわれている。
- ノノ点、ノノ字点(〃)
- 表などで上の項目と同じであることを示す記号。英語では「ditto (mark)」という。
- 庵(いおり)点(〽)
- 歌の始めなどに用いられる。
- ♨(温泉マーク)
- その他の記号
- 〼(枡記号)
- CJKの記号及び句読点
注釈
- ^ 例外として表題などに使用されるケースについては句点#句点を含む名称を参照のこと。
- ^ 引用符 (") はJIS X 0208には存在しない。JIS X 0208の左ダブル引用符 (“) 及び右ダブル引用符 (”) は別の記号である。
出典
- ^ JIS Z 8123: 1995(印刷用語 基本用語)3頁目、1104番
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