算数・数学教育 課題

算数・数学教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/14 14:28 UTC 版)

課題

教育理念に関する課題

数学教育は学校教育の中で一定の比重を占めているが、内容の高度化・抽象化に伴ってその必要性を疑問視する声も少なくない。日本の児童・生徒の場合、近年行われたPISATIMSSといった国際的な学力調査において、学力面で高い位置にいながら、数学への学習意欲が低いという結果が明らかとなった[注 1]

この傾向は成人以降の世代にも見られ、専門外(特に人文科学系)の知識人の主張としても比較的多く見られる。中には(前者の主張と意味合いは異なるが)数学者自身がそのように述べることがある[注 2]。こうした現状は数学教育の存在意義に関わることだが、現代の日本の教育議論においては、「学力の向上」という文脈以外で数学教育の必要性が語られることは少なくなっている。

なお、数学の有用性を説く知識人でも、その見解は形式陶冶(思考力や文化的価値)に求めるか、学習内容の他分野への応用に求めるかで大きく分かれる。こうした見解の相違はアイザック・ニュートンが数学を「科学の女王」ないし「技術の奴隷」と述べた頃に既に見られ、数学の発展においては純粋数学応用数学に二分される形で具現化していると言える。

学習事項に関する課題

数学教育の学習事項は海外でも概ね共通している。多くの国の教育課程で、中等教育終了までに微分・積分の基礎を学ぶように順序付けられている。

基本的には初等教育段階で代数学方程式など)や幾何学(図形の計量・証明)が中心的に学ばれ、中等教育以降で解析学関数微分積分法など)の比重が高くなる傾向にある。他方、行列複素平面統計など、教育課程に大きく依存する単元もある。

このうち、代数学では計算問題の応用として出題される文章題、幾何学では証明問題や空間図形の問題、解析学では関数概念に関わる問題全般で生徒の苦手意識や定着度の低さが課題とされる傾向にある。また、先述の学力調査では、学習意欲とともに記述問題における正答率の低さ(とりわけ無回答率の高さ)が問題視されている。

近年では国際的に統計学を重視する気運が高まりつつあり、日本でも2012年以降の学習指導要領において統計分野が拡充された。

教員養成に関する課題

日本で中学校および高等学校「数学」の教員免許を取得する際には、教育職員免許法施行規則第4条及び第5条に基づき、次の内容を含む科目を規定単位数以上履修する必要がある[1]

※ 応用数学以外の具体的履修内容は施行規則において明記されていないが、便宜的に記載。

このほか、第6条第四欄に規定されている「各教科の指導法」として、「数学」の指導法(数学科教育法などと呼ばれる。基本的には、数学教育学を含む)を履修する必要がある。

2010年3月現在、日本で中学校・高等学校「数学」の免許は多くの教員養成系・理工系・情報科学系の大学・学部で取得可能である[2]が、通信教育により取得可能な大学は2020年度において玉川大学佛教大学明星大学北海道情報大学環太平洋大学の5校であり、国語科の7校、公民科の9校よりは少ないが、理科の1校より多く、現在では極端に少ない状態ではない[3]

学校教育の現場では習熟度別学習やティーム・ティーチングを行う必要性から募集人数が多いが、その割には免許取得者が少ない現状がある。

また現代の日本の教員免許制度では、数学と関連の強い学問領域が多く存在する(物理学化学をはじめとする自然科学哲学経済学心理学社会学など)が、これらの学問領域を履修しても、数学の教員免許取得のための単位として殆ど考慮されない。また応用数学のコンピュータは情報にも大きく関連する内容だが、互いに単位の互換性はない。


注釈

  1. ^ 但しこの傾向は、程度の差はあれフィンランド韓国などの好成績を残した他国でも見られる。
  2. ^ 比較的著名な人物として、前者では三浦朱門曽野綾子、後者では藤原正彦G.H.ハーディが挙げられる。なお、上記の傾向については、C.P.スノーの『二つの文化と科学革命』において興味深い言及がなされている。

出典

  1. ^ 教育職員免許法施行規則 - e-Gov法令検索を参照
  2. ^ 文部科学省「中学校・高等学校教員(数学)の免許資格を取得することのできる大学」
  3. ^ 私立大学通信教育協会「取得できる教員免許状一覧」


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