日本の救助隊 日本の救助隊の概要

日本の救助隊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/02 03:22 UTC 版)

現在、通常の救助活動消防が担当し、海難救助海上保安庁が担当している。大規模な災害や事故になるとこれに加えて警察陸上海上航空自衛隊も投入される。

さらに海外で大規模災害発生し政府が被災国の要請を受けた場合に、消防・警察・海保の隊員によって国際緊急援助隊救助チームを編成し国際協力機構(JICA)の調整の下で被災国に派遣する体制となっている。この救助チームは最高レベルの救助能力を持つヘビー級に認定されている。

消防

消防では、全国の消防本部消防署等に救助隊が設置されており、さらに人口が10万人以上の地域には特別救助隊(通称:レスキュー隊)の設置を義務付けている。

東京消防庁の救助車II型(レスキュー車)

火災交通事故など日常生活の中で起こる一般災害から自然災害、河川・山間部で起こる水難救助山岳救助 、そして震災など大規模災害やNBC災害など特殊災害とあらゆる救助事案に対応している。

東京消防庁 水難救助隊
特殊災害対策車

日本の消防救助隊は警視庁消防部(現在の東京消防庁[注 1])の神田消防署が1933年に主に火災現場での救助活動を任務とする専任救助隊を設置し、1950年代から全国の一部地域で編成され始め、1964年に横浜市消防局消防特別救助隊(通称:横浜レンジャー)、1969年に東京消防庁が麹町消防署永田町出張所に特別救助隊(愛称:東京レスキュー)を設置したのに合わせて全国の消防が、火災に限定されないあらゆる災害での救助活動を任務とする救助隊の設置を始めた。1986年になると消防法の改正により全国の消防に人命救助を専門とした特別救助隊と救助隊の設置が義務化された。またこの年には海外の災害の際に派遣される国際消防救助隊も発足し現在は国際緊急援助隊の救助チームの一員として海外の災害現場で活動している。

さらに1995年1月に発生した阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて、同年6月に自治省消防庁(現総務省消防庁)では被災地の消防力のみでは対応困難な災害に際して都道府県の枠を超えて災害活動を行う緊急消防援助隊を創設した。

緊急消防援助隊 埼玉県隊

東京消防庁も阪神・淡路大震災を教訓に1996年12月に機動力と災害対処能力を備えた消防救助機動部隊(通称:ハイパーレスキュー)を発足した。この部隊には救急救命士重機資格者も含まれ災害現場で救助活動から活動に支障ながれきの撤去や負傷者の処置まで一連の活動を行うことが可能な自己完結型の部隊である。都内だけではなく国内の災害には緊急消防援助隊、国外の災害には国際消防救助隊として常に派遣できる体制をとっている。

また、第八消防方面本部消防救助機動部隊は、立川広域防災基地内に配置されており、同じく所在する東京消防庁航空隊のヘリコプターと連携した救助・救急活動にも対応している。さらに2016年1月に東京消防庁航空隊に空のハイパーレスキューである航空消防救助機動部隊(通称:エアハイパーレスキュー)を新設、2020年2月には平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、平成30年台風第21号北海道胆振東部地震などの近年頻発する地震や豪雨などの自然災害に対応するためにぬかるみや急斜面でも走行できるバギーの「全地形活動車」やウニモグベースの「高機動救助車」、浸水した際に水深が浅い場所でも進める「エアボート」、情報収集する「ドローン」等を装備した即応対処部隊を新設した。

エアボート

1997年には横浜市消防局が機動救助隊(通称:スーパーレンジャー)を設置した。この部隊を中核として大規模災害時には所轄の部隊も含め複数の部隊で救助機動中隊を編成する体制となっていたが、2008年にもう1つの高度な救助部隊で1975年に発足した本部直轄の特別消防隊(通称:特消(とくしょう))と統合され特別高度救助部隊(通称:スーパーレンジャー=SR)となった。

2001年には名古屋市消防局に後に名古屋市の特別高度救助隊に位置付けられる特別消防隊(通称:ハイパーレスキューNAGOYA)が発隊。同部隊は令和6年4月に特別消防救助隊に名称変更。

さらに総務省消防庁新潟県中越地震JR福知山線脱線事故などの教訓や新潟県中越地震の東京消防庁の消防救助機動部隊の活躍(長岡市土砂崩れ現場での男児救出)から、2006年4月1日に中核市消防本部等に高度救助隊を、特別区が連合する消防(東京都が該当)及び政令指定都市消防本部等に特別高度救助隊の設置を義務付けた。

これらも東京消防庁の消防救助機動部隊と同種の部隊であり各消防局は消防救助機動部隊「通称:ハイパーレスキュー」を参考に編成しているためにこれらの部隊には「スーパーレスキュー」や、「ハイパーレスキュー隊」など消防局それぞれの通称名が付けられている場合が多い。近年は南海トラフ巨大地震[1]首都直下地震などの発生が危惧されており設置基準でない消防本部でも自主整備で高度救助隊を編成する本部も増えている。

これらの部隊は大規模災害のみに出動すると思われがちだが通常は他の救助隊と同様に一般災害に出動する。また、化学救助や水難救助などの指定部隊とする消防や各部隊ごとに特定任務がある消防も存在する[注 2]

埼玉県では県内で地震による建物崩壊や列車脱線事故などの大規模災害が発生した際に県知事の指示・要請で出動し救助・救命活動を行う埼玉県特別機動援助隊(愛称:埼玉SMART)を編成する体制をとっている。この部隊は県下消防本部、災害派遣医療チーム:埼玉DMAT埼玉県防災航空隊で構成される。

さらに各地の消防本部には、 山間部や河川、湖、湾岸における救助隊として、山岳救助隊水難救助隊が設置されている。これらの部隊は一般の救助隊が兼任している場合が多い。また、一部の政令市消防局や東京消防庁、県では消防防災航空隊を編成し消防防災ヘリコプターによる救助活動を行っている。

なお東京消防庁では、山岳救助隊と第六消防方面本部及び第九消防方面本部の消防救助機動部隊がスイフトウォーターレスキュー(急流救助)に対応している。これはレジャー客が中州に取り残された玄倉川水難事故を機転としており、急流救助に対応できる知識・技術を持ち、専門の資機材を装備している。他県も同様に山間部やレジャー客が多い河川等を管轄する消防は急流救助に対応している。

また、化学兵器核兵器生物兵器放射能兵器等を使用したテロなどNBC災害に対応するため、東京消防庁には化学機動中隊第三消防方面本部および第八消防方面本部の消防救助機動部隊が設置されており、各地の消防もNBC災害の専門部隊を創設するようになった。

日本の消防救助隊は次の四段階構成になっている。なお、いずれ部隊も配置の基準を満たしていない自治体でも自主設置可能とされている。

区分 救助資機材の基準 車両の基準 配置の基準 隊員の構成
救助隊 救助活動に必要最低限の資機材 救助工作車
又は消防車1台
人口が10万人未満の地域 人命救助の専門教育を受けた隊員5名以上で編成するように努める[注 3]
特別救助隊 救助隊よりプラスアルファの資機材 救助工作車1台 人口が10万人以上の地域 人命救助の専門教育を受けた隊員5名以上
高度救助隊 高度救助資機材[注 4] 中核市もしくは消防庁長官が指定するそれと同等規模もしくは中核市を有しない県の代表都市を管轄する消防本部 人命救助の専門教育を受け
かつ高度な教育を受けた隊員5名以上
特別高度救助隊 高度救助資機材[注 5] 救助工作車1台と
特殊災害対応車1台
政令指定都市および特別区が連合する消防(東京都)

海上保安庁

海上保安庁 特殊救難隊

海上保安庁は、特殊海難に対応する専門部隊として第三管区海上保安本部羽田特殊救難基地(特殊救難隊:特救隊)を設置している。

また、初動対応班として全国の管区航空基地に機動救難士が配置されている。これらの要員は海保の潜水士の資格を持つ者であり、各管区の巡視船にも潜水士が配置されている。

機動救難士による荷崩れした貨物船からの乗員救助活動

原則的に、救助活動を行うのは海上だが、大災害の発生時には応援要請があれば、山間などでも、孤立集落の傷病者の搬送などの、一連の救助活動を行う。


注釈

  1. ^ 戦前は消防は警察の一部であり、消防組織法の施行に伴い分離され東京消防庁が発足したのは戦後の1948年である。
  2. ^ 「われら消防レスキュー隊」(イカロス出版)によれば、名古屋市消防局特別消防隊(特別高度救助隊)には各方面ごとに特定任務が与えてあるとされる。また新潟市消防局は水難救助隊員育成が難しいことから特別高度救助隊を水難救助専任隊としている。また岡山市消防局ホームページ及び季刊誌「Jレスキュー」(イカロス出版)2011年11月号によれば、岡山市消防局と堺市消防局の特別高度救助隊も隊員全員に潜水士資格を取得させて、水難救助に従事しているとされている。
  3. ^ いわゆる兼任救助隊。
  4. ^ 電磁波人命探査装置、二酸化炭素探査装置、水中探査装置など一部の高度救助資機材は、地域の実情に応じて備える。
  5. ^ 地域の実情に応じてウォーターカッターと大型ブロアーも
  6. ^ 季刊誌「Jレスキュー」(イカロス出版)2008年5月号によれば、北海道警察は2007年に、機動隊員(救助任務を担当する特務中隊の隊員)を消防へ研修派遣し、その中から優れた者を選抜して、特別救助班を編成したとされている。また同誌には、札幌市消防局特別高度救助隊(SRS)と、北海道警察特別救助班が実施した合同訓練の模様が掲載されている。この合同訓練は、2008年3月19日に、大規模災害を想定して札幌市で行われた。
  7. ^ 季刊誌「Jグランド」(イカロス出版)14号によれば、2007年11月10日に東京都で行われた「大規模テロ災害対処共同訓練」において、機動隊化学防護隊が化学テロの被害者の救出を行い、公安機動捜査隊が証拠品の収集を担当している。

出典



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