元素の中国語名称 大陸と台湾の差異

元素の中国語名称

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/12 17:51 UTC 版)

大陸と台湾の差異

新発見の元素の漢字による命名は、中華人民共和国(大陸)と中華民国(台湾)のそれぞれで行われる。大陸では、政府の全国科学技術名詞審定委員会が命名する。台湾では、国立編訳館が命名する。

命名がそれぞれで行われる結果として、大陸では簡体字を用い台湾ではこれを用いないという点を除外しても、大陸の用字と台湾の用字との間には若干の差異が生じている。大陸の用字(繁体字)と台湾の用字とを比較対照し、両者の用字が異なる元素を探すと、次の表のように14種類が見つかる。表には、元素の発見年を付記している[4]

大陸と台湾で名称が異なる元素[5]
原子番号 元素記号 日本語名称 大陸繁体 台湾正体 元素の発見年 備考
14 Si 珪素 1824年 大陸での発音は「guī」、台湾での発音は「[6]
43 Tc テクネチウム 1937年
71 Lu ルテチウム 1906年 大陸での発音は「」、台湾での発音は「liú[7]
85 At アスタチン 1940年 大陸での発音は「ài」、台湾での発音は「è[8]
87 Fr フランシウム 1939年
93 Np ネプツニウム 1940年
94 Pu プルトニウム 1940-41年 発音は同じく「
95 Am アメリシウム 1944年 発音は同じく「méi
97 Bk バークリウム 1949年
98 Cf カリホルニウム 1950年
99 Es アインスタイニウム 1952年 大陸での発音は「āi
104 Rf ラザホージウム 鑪(旧称は⿰釒拉) 1968年 2013年8月に旧称の廃止が確定[9]
105 Db ドブニウム 𨧀 𨧀(旧称は⿰釒都) 1970年 同上
106 Sg シーボーギウム 𨭎 𨭎(旧称は) 1974年 同上。

珪素とルテチウムを除くと、用字が大陸と台湾で異なる元素の発見年は、1937年から1974年までの約40年間に集中している。そして、1980年以降に発見された元素は、簡体字と繁体字の差はあるものの、大陸と台湾で同じ字で表す。新元素の発見から漢字による命名までのタイムラグを考慮すると、この結果は、大陸で中華人民共和国が成立した1949年以降1970年代が終わる頃まで、大陸と台湾との間の交流が活発でなかったことの反映と解釈できる。

珪素とルテチウムは、中華人民共和国の成立前に既に漢字で「」「」と命名されていた。その後、同国では、「」が「」(セレン)および「」と同音であり、「」が「硫」(硫黄)と同音であるのを嫌い、1955年にそれぞれ「硅」、「」に改名した[10]。その結果、この2種類の元素の用字は、大陸と台湾で異なることとなった。

新発見の元素の命名に当たり大陸が採用する原則は大体次のとおり[11]

  • できるだけ既存の漢字から選定し、新しい字の考案は避ける。
  • できるだけ、画数がほどほどで、形が美しく、構造が単純で、ほかの字と区別しやすい字を選定または考案し、奇怪な字は避ける。
  • 発音が国際純正・応用化学連合(IUPAC)の命名に近い形声字を選定または考案する。
  • 既存の元素と同音になる字や読み方が複数ある字は避ける。
  • 既存の漢字から選定する場合は、生活常用字をできるだけ避ける。
  • 大陸と台湾、中国語文化圏の科学技術用語の統一のために、繁体字と簡体字で差がない字が最も好ましい。

なお、UnicodeCJK統合漢字には旧称の釒拉、釒都は収録されていない。また現時点では収録予定もない。[12][13]


  1. ^ a b 諸橋轍次 (1989年5月20日). 大漢和辞典 修訂版11巻. 大修館書店. pp. 617. ISBN 4-469-03087-2 
  2. ^ 國家教育研究院. “辭典檢視 「硫 : ㄌㄧㄡˊ」” (中国語). 國家教育研究院. 2022年4月6日閲覧。
  3. ^ 國家教育研究院. “辭典檢視 「鎦 : ㄌㄧㄡˊ」” (中国語). 國家教育研究院. 2022年4月6日閲覧。
  4. ^ 発見年は英語版の元素発見年表によった。
  5. ^ 注釈1の文献、p.152, 【表4】を参照。
  6. ^ 國家教育研究院. “辭典檢視 「矽 : ㄒㄧˋ」” (中国語). 國家教育研究院. 2022年4月6日閲覧。
  7. ^ 國家教育研究院. “辭典檢視 「鎦 : ㄌㄧㄡˊ」” (中国語). 國家教育研究院. 2022年4月6日閲覧。
  8. ^ 國家教育研究院. “辭典檢視 「砈 : ㄜˋ」” (中国語). 國家教育研究院. 2022年4月6日閲覧。
  9. ^ 化學名詞-化學元素一覽表, 國家教育研究院雙語詞彙、學術名詞暨辭書資訊網, 閲覧日:2017.04.22
  10. ^ 王宝瑄〈中国化学物质命名中的汉字探讨〉《中国科技术语》(2010年)
  11. ^ 全国科学技术名词审定委员会〈第111号元素中文定名的说明及元素中文定名的原则〉《科技术语研究》(2006年)
  12. ^ CJK統合漢字拡張Fの登録申請書
  13. ^ 「Babelstone Han PUA」というフォントのページより。外字としてこれらの字を含んでいるが、出典がウィキメディア・コモンズとなっている。
  14. ^ a b c d 全国科技名词委联合国家语言文字工作委员会召开113号、115号、117号、118号元素中文定名会”. 2017年2月16日閲覧。
  15. ^ 合信『博物新編
  16. ^ a b c d e f 劉廣定〈中文化學名詞的演變(上)〉《科學月刊》(1985年10月)
  17. ^ a b 代那(撰)、瑪高温(口訳)、華蘅芳(筆述)『金石識別
  18. ^ a b 丁韙良格物入門
  19. ^ a b 嘉約翰(口訳)、何瞭然(筆述)『化學初階
  20. ^ a b 韋而司(撰)傅蘭雅(口訳)、徐寿(筆述)『化学鑑原』(長崎大学附属図書館近代化黎明期翻訳本全文画像データベース
  21. ^ 張澔〈在傳統與創新之間十九世紀的中文化學元素名詞〉《化學》(2001年)
  22. ^ 大漢和辞典』縮写版1巻806ページ
  23. ^ 「譯其意義,殊難簡括;全譯其音,苦於繁冗」
  24. ^ 「今取羅馬文之首音,譯一華字。首音不合,則用次音,並加偏旁,以別其類,而讀仍本音」
  25. ^ 「惟白鉛一物,亦名『倭鉛』,乃古無今有,名從雙字,不宜用於雜質,故譯西音作『鋅』」
  26. ^ 「白金,亦昔人所譯,今改作鉑」
  27. ^ 硫強水之無水者,爲硫養
  28. ^ a b c 劉廣定〈中文化學名詞的演變(下)〉《科學月刊》(1985年11月)
  29. ^ a b 青年科技史论坛5 阅读材料2:益智书会与杜亚泉的中文无机物命名方案 - ウェイバックマシン(2017年2月5日アーカイブ分)





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