ホタル 食性

ホタル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 00:10 UTC 版)

食性

多くの種類の幼虫は湿潤な森林の林床で生活し、種類によってマイマイキセルガイなどの陸生巻貝類やミミズヤスデなどといった土壌動物の捕食者として分化している。日本に棲むゲンジボタルヘイケボタルクメジマボタルの3種の幼虫は淡水中に生息し、モノアラガイカワニナタニシミヤイリガイなどの淡水生巻貝類を捕食するが、これはホタル全体で見るとむしろ少数派である(実際、『ファーブル昆虫記』に登場するホタルは陸棲で、カタツムリを捕食する)。また、スジグロボタルの幼虫は普段は陸上で生活するが、摂食時のみ林内の小さな湧水や細流の水中に潜り、カワニナを捕食していることが知られている。ゲンジボタルやヘイケボタルなど水生の種では、幼虫・成虫ともに水草スイカのような香りがある。

多くの種類の成虫は、口器が退化しているため、口器はかろうじて水分を摂取するぐらいしか機能を有していない。このため、ほぼ1-2週間の間に、幼虫時代に蓄えた栄養素のみで繁殖活動を行うことになる。海外には、成虫となっても他の昆虫などを捕食する種がいる。

発光

ホタルのうち尾部などに発光器官を持つ種は、酵素ルシフェラーゼと、ルシフェリン化学反応で光を発する(後述「発光のメカニズム」参照)。日本の基礎生物学研究所中部大学はヘイケボタルの、両者に米国マサチューセッツ工科大学を加えた研究チームは米国産ホタル「フォティヌス・ピラリス」のゲノムを2018年に解読。発光しない生物にもある脂肪酸代謝酵素アシルCoA合成酵素)が、ホタルの祖先が進化する過程で重複を起こして、1億年以上前に発光能力を得たと推測されるとの研究結果を発表した(ホタルとは近縁のヒカリコメツキの発光原理も同様であるが、進化の過程は別)[11]

ホタルが発光する能力を獲得したのは「敵をおどかすため」という説や「食べるとまずいことを警告する警戒色である」という説がある。事実ホタル科の昆虫はを有しており、よく似た姿や配色(ベーツ擬態ミューラー擬態)をした昆虫も存在する。ただし、それらは体色が蛍に似るものであり、発光するわけではない。

や幼虫の時代にはほとんどの種類が発光する。成虫が発光する種は夜行性の種が大半を占め、昼行性の種の成虫では強く発光する種も存在するが、多くの種はまず発光しない。夜行性の種類では主に配偶行動の交信に発光を用いており、光を放つリズムやその際の飛び方などに種ごとの特徴がある。このため、「交尾のために発光能力を獲得した」と言う説も有力である。一般的には雄の方が運動性に優れ、飛び回りながら雌を探し、雌はあまり動かない。成虫が発光する場合はも発光するので、このような種は生活史の全段階で発光することになる。昼行性の種では、光に代わって、あるいは光と併用して、性フェロモンをコミュニケーションの媒体としていると考えられる[6]

変わった例では以下のような種類もいる。

  • 一方の性のみ発光する。
  • 北米に生息する en:Photuris の雌は他種の雌をまねて発光し、その雄をおびき寄せて捕食してしまう。
  • 雄が一か所に集まり一斉に同調して光る。東南アジアマングローブ地帯で、一本の木に集まって発光するものが有名。ゲンジボタルも限定的ではあるが集団がシンクロ発光するのが見られる[12]

発光のメカニズム

発光するホタルの成虫は、腹部の後方の一定の体節に発光器を持つ。幼虫は、腹部末端付近の体節に発光器を持つものが多いが、より多くの体節に持っている場合もある。

ホタルの発光物質はルシフェリンと呼ばれ、ルシフェラーゼという酵素とATPがはたらくことで発光する。発光は表皮近くの発光層で行われ、発光層の下には光を反射する反射層もある。ホタルに限らず、生物の発光は電気による光源と比較すると効率が非常に高く、熱をほとんど出さない。このため「冷光」とよばれる。

主な種類

日本には50種類以上のホタルが生息しているが、代表的な種類には以下のようなものがいる[9]

ゲンジボタル Nipponoluciola cruciata Motschulsky1854
体長15mm前後で、日本産ホタル類では大型種。成虫の前胸部中央には十字架形の黒い模様がある。幼虫はの中流域にすみ、カワニナを捕食する。初夏の風物詩として人気が高く、保全への試みが日本各地で行われているが、遺伝的に異なる特性を持った他地域のホタルの増殖・放流による遺伝子汚染が問題になってもいる。
ヘイケボタル Aquatica lateralis Motschulsky1860
体長8mm前後で、ゲンジボタルより小さい。主に細流や水などの止水域で発生する。幼虫はカワニナだけでなくモノアラガイタニシなど様々な淡水生巻貝類を幅広く捕食し、やや富栄養化した環境にも適応する。また時には干上がる水田のような環境でも、鰓呼吸だけではなく空気呼吸を併用し、泥に潜って生き延びる。成虫の出現期間は長く、5月から9月頃まで発光が見られる。
ヒメボタル Luciola parvula Kiesenwetter, 1874
体長は7mm前後で、ヘイケボタルより更に小型の陸棲のホタルである。西日本の林地や草地に分布する。幼虫は林床にすみ、マイマイキセルガイなどを捕食する。5-6月に羽化し、かなり強く発光するが、川辺などの開けた場所ではなく森林内などの人目につきにくい場所で光るのであまり知られていない。名古屋城の堀の中に広がる草地には、都市部では珍しい大規模な生息地があることが知られている。メスは飛行できないため分布地の移動性は小さく、個々の個体群は隔離されがちで、地域により体長など遺伝的特性の差が著しい。
マドボタル Pyrocoelia
マドボタル属 Pyrocoelia の総称で、多くの種類がある。和名はオスの胸部にのような2つの透明部があることに由来する。メスは翅が退化していて、蛹がそのまま歩き出したような外見をしている。幼虫は陸生で、主に小型のカタツムリ類を捕食し、他の陸生のホタル幼虫に比べて夜には活発に光りながら草や低木にもよじ登るので、よく目立つ。成虫はよく光るものも痕跡的な発光しかしないものもある。本州東部には中型種のクロマドボタル、本州西部と四国、九州には中型種のオオマドボタル、対馬には大型種のアキマドボタルが生息し、南西諸島では何種もの大型種が島ごとに種分化している。
オバボタル Lucidina biplagiata Motschulsky1866
体長10mm前後。体は黒色で平たく、前胸に2つの赤い斑点があり、尾部も赤い。他のホタルと同じような体色だが、昼行性でほとんど発光しない。幼虫は森林の土壌中で、小型のミミズを捕食している。
ヒゲボタル Stenocladius
ヒゲボタル属 Stenocladiusの総称で以前はクシヒゲボタルと呼ばれていた(現在はクシヒゲボタルの名はCyphonocerus属の種にあてられている)。オスの触角が櫛の歯状に発達している。メスは翅が退化していて、幼虫のような形態をして、より淡色。幼虫は湿潤な森の林床でミミズを捕食する。体は乳白色で各体節に赤褐色の背板を持つ。南西諸島に数種が分布し、成虫は秋から冬に出現する。昼行性だが雌雄ともまたはメスのみ弱く発光する。

なお、ベニボタルは和名に「ホタル」とあるがホタル科ではなく、同じホタル上科のベニボタル科 (Lycidae) の昆虫である。


注釈

  1. ^ 一例として、「蛍火が星空と競演 高知県四万十町の津賀ダム湖」[リンク切れ]高知新聞』2018年6月15日(2018年11月27日閲覧)。
  2. ^ かつて日本住血吸虫の中間宿主であったミヤイリガイをホタルの幼虫が捕食していたが、ミヤイリガイを駆除することによってホタルの生息環境も奪われることになった。

出典

  1. ^ 『和漢音釈書言字考節用集』-、1717年。 
  2. ^ 『和漢音釈書言字考節用集』-、1717年。 
  3. ^ a b "ホタル". 『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館. コトバンクより2022年3月27日閲覧
  4. ^ a b 古河 2011, p. 89.
  5. ^ a b 『だれでもできるホタル復活大作戦』
  6. ^ a b 『謎とき昆虫ノート』
  7. ^ 古河 2011, p. 2-3.
  8. ^ 東京ゲンジボタル研究所 2004, p. 17.
  9. ^ a b 古河 2011, p. 1-2.
  10. ^ 夜空を輝かせるホタル(夜螢親親). 台湾観光局. 2022年4月8日閲覧
  11. ^ ホタルのゲノム解読に成功 〜ホタルの光の遺伝子の進化が明らかに〜基礎生物学研究所/中部大学プレスリリース(2018年10月16日)2018年11月27日閲覧。
  12. ^ 『ホタルの木』
  13. ^ a b c 古河 2011, p. 69-71.
  14. ^ 古河 2011, p. 71-75.
  15. ^ 矢島稔『昆虫誌』
  16. ^ 東京ゲンジボタル研究所 2004, p. 75-76.
  17. ^ 古河 2011, p. 77-79.
  18. ^ 古河 2011, p. 79-80.
  19. ^ 一の坂川 『よみがえる川 - 河川再生事例集』(2011年刊)より. 日本河川・流域再生ネットワーク. 2022年3月28日閲覧
  20. ^ ホタル護岸の整備”. 山口県 (2018年5月2日). 2022年3月28日閲覧。
  21. ^ 神田左京『ホタル』
  22. ^ 神田虔十(編著)『日本童謡・唱歌わらべうた集 2』メトロポリタンプレス、2013年、6-7頁。ISBN 978-4-904759-80-6


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