ダニ 人間との関わり

ダニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/30 22:54 UTC 版)

人間との関わり

ダニ類は種数・個体数ともに膨大であるため、人間の活動に関わりのある種は、ダニ類全体に対してはごく僅かな割合でしかないが、保健衛生上また農業上有害な生物として、その影響は無視できない。

ダニという場合、有害な吸血生物のイメージが一般的だが、外部寄生により吸血を行う代表的なものとしてマダニ類とイエダニ類が挙げられる。これらのダニ類は通常はマダニがシカなどの野生動物を、イエダニが住家性のネズミ類を寄生対象としており、ワクモツツガムシ等人間以外の生物を宿主としている種でも、状況により人間を吸血し被害を与えるものがいる。現代では日常生活でこれらのダニの寄生を受ける機会はほとんどないが、アウトドアでのレジャー等野外活動時にマダニ類やツツガムシ類の被害を受ける例が増えている。これらの被害を受けると、吸血時のダニの唾液物質によるアレルギー性の咬症の他、マダニ類の口器により傷口が化膿したり、場合によってはリケッチアやウィルス等による重篤な感染症を発症することがある。

直接吸血はしないが、人体の組織に寄生するダニとして、ヒゼンダニニキビダニ類が挙げられる。ヒゼンダニは皮下に穿孔して寄生し疥癬という皮膚病を発症させる。ニキビダニ類は主に顔面の毛包に寄生しており、通常無症状であることが多いが体質や状況によりアレルギー性皮膚炎の原因となる。

また人体に寄生はしないが、住家中のハウスダスト)の中も数種のダニが生息しており、これらは埃中の有機物を食べているので人体への直接の加害はないが、糞や脱皮殻、個体の死骸等が皮膚炎や気管支炎等のアレルギー性疾患を引き起こす元(アレルゲン)になることがある。さらにこのダニ類を捕食するツメダニ類が繁殖し、偶発的に人体を刺す皮膚炎も発生している。

人体に被害を与えるもの以外では、台所や食品倉庫でコナダニの仲間が小麦粉や乾物等の貯蔵食品などに繁殖し、食品工場等で大きな損害を与えることがある。

農業害虫として、植物に寄生するダニのうちでもハダニ類には産業上重要なものが多い。この仲間は植物の表面にクモのように糸を張り巡らして巣をつくり集団で生活する。植物組織内に口器を挿入し細胞の原形質を吸い取って摂食するが、刺咬時に有害な成分を分泌するため葉が変色し、寄生数が多い場合株ごと枯死することもある。殺ダニ剤等の農薬に抵抗性を持ち、防除が困難なケースも多い。

ダニ類が人間の活動に有用に関与している例として、間接的には分解者としての土壌動物のダニ類等生態系を支えている重要なメンバーとしての働きなどを挙げることができるが、直接的な利用はあまり多くない。産業上重要な例として、農業害虫のハダニ類防除に、カブリダニ類等これらの植物寄生性ダニ類の天敵である捕食性のダニ類が生物農薬として用いられている。

また、ヨーロッパではミモレットエダムチーズ等伝統的なチーズの熟成法としてチーズダニが利用される[17]

ダニが媒介する感染症例


  1. ^ Zhang (2013)
  2. ^ 島野・高久 (2016)
  3. ^ a b Sharma, Prashant P.; Kaluziak, Stefan T.; Pérez-Porro, Alicia R.; González, Vanessa L.; Hormiga, Gustavo; Wheeler, Ward C.; Giribet, Gonzalo (2014-11-01). “Phylogenomic Interrogation of Arachnida Reveals Systemic Conflicts in Phylogenetic Signal” (英語). Molecular Biology and Evolution 31 (11): 2963–2984. doi:10.1093/molbev/msu235. ISSN 0737-4038. https://academic.oup.com/mbe/article/31/11/2963/2925668. 
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  13. ^ a b Bolton, Samuel J. (2022-02-25). “Proteonematalycus wagneri Kethley reveals where the opisthosoma begins in acariform mites” (英語). PLOS ONE 17 (2): e0264358. doi:10.1371/journal.pone.0264358. ISSN 1932-6203. PMC 8880937. PMID 35213630. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0264358. 
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  19. ^ Plorde, JJ (1994), “Spirochetes”, in Ryan, KJ et al, Sherris Medical Microbiology, Stamford: Appleton & Lange, pp. 385-400, ISBN 0838585418 
  20. ^ 日本にもいる! 中国「殺人ダニ」衝撃度…33人死亡 ZAKZAK 2010.10.02
  21. ^ a b 智之, 島野「ダニ類の高次分類体系の改訂について-高次分類群の一部の和名改称を含む-」『日本ダニ学会誌』第27巻第2号、2018年、51–68頁、doi:10.2300/acari.27.51 
  22. ^ a b 島野智之「ダニ類の高次分類群とその和名」『Edaphologia』第109巻、日本土壌動物学会、2021年、34-35頁。


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