ストーカー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/28 00:21 UTC 版)
対処法
福島はストーカー被害の予防に当たり、ストーカー予備軍でない人間を見分けるには、経験と他者への関心に裏打ちされた自身の観察眼に頼る他ないとしている[125]。また、精神科医としての臨床経験を踏まえて、他者との依存関係を避けるべく自身の人格の成熟・自立が必要と述べている[126]。荒木によるとストーカーにならない大部分の人間は、時間経過でトラブルを忘れられ[127]、自他両方の欠点が認められる[128]。それから、自身がストーキングをすることについて羞恥心を持つなどの要素が認められる[129]。
ストーキング対策に必勝法はないため、被害者は情報収集をしながら取捨選択が必要となる[130]。被害者が他人任せでのストーキングの解決を試みる場合や、ストーカーと戦う意志がない場合、事態が混迷を極める[131]。サバイバーで作家の遙洋子は自身が受けたストーキング3件を振り返って、ストーカーは被害者が自身より弱いとみなして残忍・卑劣になり、自分より強い相手には手段を問わず弱者として振る舞えると述べている[132]。また、遙は被害者の死者数の増加に伴って、社会のルールが後追いで改定されるとしている[133]。そこで、被害者は自身の生存のために、固定観念に囚われず全力を尽くしてほしいと訴えている[134]。
拒否の通知
初期の行動として挙げられる[135]。一度のみ、被害者は接触の拒否をシンプルに伝える必要がある[136]。拒絶するタイミングが早いほどストーカーの既得権益が小さいため、怒りも小さくなる[137]。このとき、以下の点に留意する。
- 書くべきでない情報
- ストーカーを責めること[136]。
- 被害者の状況や周辺情報[138]。
- 被害者の主観による解釈[138]。
- ストーカーに上から目線と取られかねない言葉[138]。
- ストーカーと被害者の対立を示すような言葉[138]。
- ストーカーへの言い訳[139]。
- ストーカーの機嫌取り[139]。
- 書くべき情報
- その他留意事項
この離別の話にストーカーの同意は不要である[143]。また、被害者はできるだけ一人にならないように注意する[144]。その後、ストーカーと被害者は一切コミュニケーションを取らず、必要な場合は第三者を介する[136]。ストーカーへの説得や話し合いは無駄であることに加え、ストーキングを助長させるため、第三者を交えない限り避ける必要がある[145]。これは、結論が出ないことでストーカーが被害者との接触が継続できる他、ストーカーに成功体験として刻まれるためである[145]。この方法は応用行動分析と強化理論から導き出された[146]。日本国内では警察がストーカー規制法を適用するにあたり、ストーカーの接触を被害者が断ったうえで、ストーカーが接触を図ったことを警察に示す必要がある[147]。
警察への相談
事案発生初期の相談が重要とされている[148]。ストーキングが2者間で発生しているということは、その問題は双方にとっての問題であることから、第三者を入れる必要がある[145]。福島は事情聴取の際の配慮などが過去と比べて充実し、セカンドレイプの減少がみられる他、相談にあたって納税者として権利を行使していいと述べている[149]。被害者がストーカー被害の支援者や弁護士に相談している場合、彼らを連れていくことが好ましい[150]。警察の説得への助けになる他、第三者を交えることで説明の効率化を図ることができる[150]。警察にストーカー被害の発生を伝えるにあたり、発生した事象を順を追ってすべて記録する[151]。また、担当刑事とは定期的に連絡を取る必要がある[152]。
2016年時点の日本におけるストーカー規制法では身体的な危険が及ばない場合、警察が動くことは難しい[46]。そこで、警察には「明日刺されるかもしれない」ことを伝える必要がある[46]。遙は、刑事次第で対応や裁量に個人差があるため、対応してくれる刑事に出会えるまで警察署を回ってほしいと述べている[153]。また、性暴力に関する警察への被害申告が少ないことから「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター開設・運営の手引」が内閣府の第2次犯罪被害者等基本計画で定められた[154]。
支援としては、警察からストーカーに注意や口頭警告、文書警告を発することができる[155]。この中では文書警告が望ましい[155]。他にも自宅付近の巡回強化や防犯指導、防犯器具の貸し出しなどが挙げられる[156]。緊急時には一時避難施設の対応もある[157]。また、被害者がストーカーの様子の確認を警察に依頼することもできる[155]。兵庫県警察が2010年から導入したチェック表で危険度を判別するシステムや、署員がストーカーに声掛けを行う「ストーカー安心コールシステム」が2013年12月から全国に広げられることとなった[158]。
証拠収集と記録
犯罪行為の立証が困難なことやストーカー規制法が新しい法律であることを踏まえて、告訴の有無にかかわらず、証拠収集は必要となる[151]。特に、ストーキング初期の証拠は被害者本人だけが収集できることにも留意する[151]。記録は日時・場所・出来事・対応・目撃者の事実のみを書き記す[159]。また、被害届を出す場合、警察に過去に出された被害届と紐づけられるように念押しする[152]。嫌がらせの電話などすべての出来事について記録して、警察に報告する[152]。また、メールを含めた証拠をすべて保存しておく[152]。必要であれば、監視カメラで撮影する[152]。
被害者が恐怖心から被害状況について記憶を失っていたり、誤って記憶していることは珍しくない[160]。被害者がストレスやトラウマに晒され続けた結果、話をまとめることが難しくなり、被害者が警察や専門家に疑われる事態を招くこともある[161]。秋岡は振り返りの際の被害者非難は、被害者が当時考えられる最善策を講じていることも鑑みて止めるべきだと述べている[162]。
協力者の確保
被害者にとって身近なところでは家族、友人、職場の人間、教師、カウンセラー、精神科医[163]、近隣住民などが考えられる[152]。彼らから第三者としての意見が聞ける他、被害者のアイデアに役立つ可能性が見込める[164]。仮に意見が出なくとも別の人間や社会資源に繋がる可能性があり、万が一被害者が死亡してしまった場合も犯人逮捕に繋げることができる[164]。基本的にはストーカーについて共有し、目撃情報を収集する[152]。併せて、被害者情報の漏洩を防ぐよう依頼する[165]。この時、ストーカーによる虚偽の流布や心理操作に注意する[166]。小早川は相談を受けた被害者に近しい人間は、ストーキングを受けるリスクがあるため、被害者から警察や弁護士にできるだけ早く相談するよう訴えている[167]。ミューレンたちは、専門的な機関と警察など通常の支援機関の連携が重要だと述べている[146]。被害者は、以下の施設に相談や支援依頼で掛け合うことができる。
法律の知識が必要だと判断した場合、弁護士への相談が考えられる[174]。経済的な不安があれば公共機関や大学で開催される無料の法律相談室に確認することができる[175]。デートレイプなどのデリケートな問題は、女性の権利保護に注力しているフェミニズム系の弁護士に相談することを福島は推奨している[175]。
情報漏洩の阻止
電気会社や水道局などの取引先には、個人情報の扱いを確認しておく[176]。病院に通院している場合、被害者関係者の家族を名乗る人物への対応について確認する[177]。必要であればインターネットプロバイダーに嫌がらせの報告を実施する[152]。家に固定電話がある場合、古い電話番号は残して留守番電話を設定し、新しい電話番号は信頼できる人のみ伝える[178]。また、非通知の電話や公衆電話からの連絡には応じないようにする[179]。連絡先を非公開にするなどの対処も考えられる[180]。スマートフォンでのグローバル・ポジショニング・システムの設定を切っておくこともできる[181]。また、ストーキングを受けている中で被害者にストーカーとは別の交際相手ができたり被害者が結婚した場合、それを知ったストーカーが嫉妬してストーキングが悪化することがある[182]。そのため、そういった情報は秘匿しておく必要がある[182]。
日本でストーカー被害者はDV被害者、児童虐待の被害者と同様に、市区町村に対して住民基本台帳事務における支援措置を受けることができる[183]。逗子ストーカー殺人事件では、探偵が被害者の夫に成りすまして、逗子市役所の職員から情報を盗んだ[184]。情報セキュリティ大学院大学教授の内田勝也はソーシャルエンジニアリングや誘導質問への対策が必要だと述べている[185]。
田淵はインタビューしたストーカーの一人から、被害者がストーカーから逃げるにあたって必要なものについて聞いている[186]。それによると、ソーシャル・ネットワーキング・サービスの使用停止や、出入り口の戸締りの徹底、インターネット上で自身の名前が取り上げられることの回避などが挙げられている[186]。また、通勤でも乗車車両や乗車時間帯、帰路の変更、アイコンになる持ち物の扱い方などが挙げられる[67]。
生活圏の安全確保
被害者の生活圏には、見晴らしの改善にあたり電灯の設置、生け垣や木の刈り込みなどができる[187]。また、ドアスコープの設置も考えられる[187]。住居から出る場合は避難ルートを複数用意し、避難バッグをあらかじめ用意しておくと逃げやすい[187]。マンションに住んでいる場合、エレベーターへの搭乗時は周囲に気を配る[188]。被害の悪化が止まらないのであれば、安全確保のために転居が必要になり得る[189]。転居時は個人情報の公開先にも気を配る[189]。ストーカーが住所を知らない場合、私書箱が活用できる[190]。
被害者が自動車を所持している場合、乗車前に車内と車の下部を確認する[191]。アラームの設置や施錠の徹底、走行中の車間距離の確保、キーについて制作した企業に相談するなどの対処ができる[192]。外出先では行動パターンの小まめな変更や行動予定の公開先の制限ができる[166]。外出先でストーカーと遭遇した場合に備えて、単独行動の回避と、遭遇時は逃亡前に警察への通報が必要となる[193]。
職場では情報共有の他、ストーカーの目撃情報があれば、被害者への通知や雇用者から警察への通報ができる[194]。雇用者は警察を通じて、ストーカーに無断立ち入り警告を与えられる[194]。他にも就労状況変更の相談や車から職場までの移動時の対策、単独作業時の対策を考える必要がある[194]。
告訴
告訴する場合、詳しい記録や、該当する法律には目を通しておく必要がある[152]。NPO法人日本フェミニストカウンセリング東京理事の遠藤智子によると、ストーキングやDVでは被害者自身も非があると思い込まされるため、告訴する人間は少ない[195]。サバイバーでライターの内澤旬子は、刑事裁判が行われた場合、検察庁に保管されている刑事確定記録[注 5]のすべての複写を持つように勧めている[196]。内容は被害者にとってショッキングなものである可能性が高いが[197]、民事訴訟の検討に役立つとしている[196]。
加害者家族への通知
被害者の意図に沿ったものになる場合と、ならない場合に二分される[198]。ストーカーの家族関係が良好でストーカーが正社員として勤務している場合、成功することが多い[198]。逆にアルバイトなど不安定な就労状況で、家族がストーカーを野放しにしている状態では失敗することが多い[198]。また、親が子供であるストーカーを庇うケースや[199]、ストーキングに加担するケースも存在する[200]。
加害者の治療
ストーカー加害者の心理への取り組みはアメリカ、イギリス、オーストラリアなどでは2006年以前より行われており、国によっては義務となっている[201]。日本では2016年から、警察がストーカーに精神科医による治療を推奨し始めた[202]。最初の追跡調査では治療が完了したストーカーによるストーキングの再発は見られなかったものの、母数が少ないため効果の評価が難しいとされている[202]。また、治療中と治療の中断時に再発が確認できた[202]。治療はストーカーの7割が拒否しており、受診の働きかけが続けられている[202]。臨床心理士の中村大輔は、明確な病気であるケースを除いて、考え方の偏向や罪悪感の欠如がある状態で事案を病のせいにすることは、認識の誤りに繋がると述べている[203]。2017年11月、京都府警察が「京都ストーカー相談支援センター」を設立した[204]。ここでは被害者支援だけではなく加害者の臨床として、加害者がカウンセリングを受けられることが特徴に挙げられる[204]。京都府ではこれ以外にも公費でストーカーの治療を実施している[205]。ミューレンたちは、刑事罰と治療は二者択一ではなく、実用的なものを選択することが重要だと述べている[206]。性障害専門医療センター代表理事を務める福井裕輝は、ストーカーは病気の一種で加害者を治療しない限り被害者が増え続けると、加害者治療の意義を述べている[207]。逗子ストーカー殺人事件被害者の兄である芝多修一は[注 6]、過去のストーカー殺人の加害者の末路を踏まえて、厳罰化による犯罪抑止が難しいと述べている[209]。
加害者の治療では投薬よりも、臨床心理学におけるカウンセリングが主となる[210]。認知行動療法や解決志向アプローチ[211]、条件反射制御法などが用いられる[212]。
注釈
- ^ 参考文献ではゾーマ(Zoma)だが、The British Journal of Psychiatryと[48]、A MULTIVARIATE MODEL OF STALKING BEHAVIOURS[49]、Journal of Forensic Sciencesでタイプミスと見られるため[50]、元文献に照らし合わせてゾーナと記す。
- ^ 被害者が大学生の場合[169]。
- ^ 夫婦間の派生によるストーキングの場合[170]。
- ^ 夫婦間の派生によるストーキングの場合[170]。
- ^ 警察・検察の調書や判決文など、裁判で用いられたすべての資料[196]。
- ^ 活動名[208]。
- ^ 一方で、NPO法人ヒューマニティへの相談の割合では半々となっている[244]。
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