オフレコ オフレコの概要

オフレコ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/09 00:18 UTC 版)

オフレコを対価に話してもらった内容を非公開にすることは情報提供側と取材記者との間の約束事項であり、それを守るのは記者としての基本的なモラルとされる[3]

成立条件

発言者が事前にオフレコであることを宣言し、それに対してその場にいた取材者全員が了承した場合のみ成立する。すなわち、「契約成立後の発言内容について、口頭約定のみによって完成する秘密保持契約を締結」したものである。広義では発言者と取材者以外に居合わせた第三の当事者たちにも適用される場合もある。

種類

オフレコの程度は、取材時に記者と発言者の間の約束として取り決められる。日本では名前と発言内容の両方の公表を拒否する完全オフレコと、名前だけを隠して、発言内容は公表出来る匿名報道がある[4]

取材源の秘匿

オフレコ発言は発言者の了解を得なければ、原則としてオフレコ解除をしてはならないと解されている[5]

取材源の秘匿の観点から、しばしばジャーナリズムの義務かつ権利として主張される。たとえ法律違反を前提とする発言でも取材源の秘密は守られるべきであり、また公権力もこれを尊重すべきだという考え方は報道関係者を中心に根強い。公式の発言では原則論・建前論ばかりで慎重な表現が多いが、非公式の発言では断定的だったり踏み込んだ本音の表現をすること等のために報道をすると公式の発言よりも大きく注目されやすいが、一方で非公式の発言では取材源の秘匿が要求されていることを理由に発表者の名前が報じられないことになる。マスメディアは取材源秘匿の要求を受け入れてでも、公的機関・業界団体から発表内容について発表者個人が特定される表現を避ける傾向があるが、報道の内容や推測される発表者の地位によってはリークに加担していると批判されることがある。

日本新聞協会編集委員会はオフレコについて「ニュースソース(取材源)側と取材記者側が相互に確認し、納得したうえで、外部に漏らさないことなど、一定の条件のもとに情報の提供を受ける取材方法で、取材源を相手の承諾なしに明らかにしない「取材源の秘匿」、取材上知り得た秘密を保持する「記者の証言拒絶権」と同次元のものであり、その約束には破られてはならない道義的責任がある。」と述べている[6]。と同時に、これは乱用されてはならず、ニュースソース側に不当な選択権を与えたり、国民の知る権利を制約・制限する結果を招く安易なオフレコ取材は厳に慎むべきとしている[6]。新聞労連は、1997年に採択した「新聞人の良心宣言」で「権力との癒着と疑われるような行為はしない。公人の『オフレコ発言』は市民の知る権利が損なわれると判断される場合は認めない」と表明している[5]

フジテレビ報道局の上席解説委員である平井文夫は、メディアが一方的にオフレコを破るのはフェアではないという批判が出てくるのは当然だとする一方で、メディアが重大な事実を国民に伝えなければ役割放棄だという批判もあり、メディア内でも意見が分かれているとする[7]

実際にはオフレコ扱いであっても、何らかの形で報じられることもある。元共同通信後藤謙次は、オフレコ発言であっても時期を置けば公表できるタイミングが、長年の取材により政治家との呼吸で分かるという[8]。元産経新聞記者の福島香織も、別に取材して同一情報が得られれば報道してもいいとの慣習や、完オフ情報がその直近に出された週刊誌に掲載されるなど、完全オフレコが守られないこともあるとしている[9]。その他にも、外部へ漏らさないとなっているオフレコ発言が、政治記者によって別の政治家に筒抜けになっているケースもあり[10]ジャーナリスト岩上安身は、オフレコの記者メモが権力闘争の道具に使われたり、官邸に集められることで政治部の記者が諜報機関の役割になっていることを指摘する[11]

実際にさしたる不都合が無いにもかかわらず、とくに裏どり取材等の困難な情報のケースにおいて、オフレコの匿名性を利用して報道を誘導しようとする意図のある場合もあり[5]、取材源を真に護るための「取材源の秘匿」と必ずしも同視するのは行き過ぎとみられる場合もあり得る。オフレコ取材が単に相手の真意を確かめる取材手法として有効であるといった程度の場合であれば、メディアが恣意的にオフレコ解除するのであればオフレコ取材に応じる人はいなくなるであろうし[7]、それがメディア側への懲罰となるともいえる。また、むしろ情報提供者が報道を悪意で誘導しようとするケースに至っては、そもそもオフレコ扱いが当事者間の信頼関係で成り立っている以上、情報提供者はオフレコを外されても受忍すべきという考え方も成り立つ。

欧米の現状

アメリカの大学ジャーナリズムスクールで使われるMelvin Mencher'sの「News Reporting and Writing」では、「バックグラウンド(背景説明)」、「ディープバックグラウンド(深層背景説明)」「オフレコ」の形態がある[12]。「バックグラウンド」は発言者の名前や肩書を明示できないが、発言内容は自由に使える匿名報道である[12]。「ディープバックグラウンド」は発言者の名前や肩書が明示できないだけでなく、発言内容の直接引用を行えないために記者が地の文で書くことになる[12]。「オフレコ」は聞いた話は一切公開してはならない「完全オフレコ」である[12]

欧米の報道では、オフレコは行われていないという意見がある。従来、日本ではアメリカに「国務省高官」といったオフレコの表現がある[13]。しかし、元新聞記者の福島香織は、オフレコで得た情報が独自取材による情報と一致した場合に報道できなくなるため、欧米の記者はオフレコの要請を相手にしないと主張している[9]

CBSイブニングニュースのサブアンカーパーソンを務めていたコニー・チャンは、ニュート・ギングリッチ下院議長(当時)の母親にインタビューし、オフレコと言う約束を破って「ギングリッチ下院議長がヒラリー・クリントン大統領夫人(当時)を家ではビッチと呼んでいた」という発言を60 Minutesで放送して問題視された。チャンは直後にCBSを退職したが、この放送との関連性は否定している[14]

また政治分野での匿名報道(background briefing)も行われていないという意見がある。上杉隆は『ニューヨーク・タイムズ』での経験から、アメリカでは公人についてのオフレコ取材は認められていないと主張している[15]。 権力者から求められた場合でも、手ひどい意趣返しで対抗したケースがある。例えば1970年代に『ワシントン・ポスト』がキッシンジャー国務長官からベトナム戦争に関するリークを受けた。キッシンジャーは「政府高官」からの情報という匿名報道を求めた。これに対してワシントン・ポストは文章では一言も触れなかったが、キッシンジャーの写真を一緒に掲載した[16]


  1. ^ a b “大臣の「これはオフレコ」に反論せず 「記者たちはなめられている」”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2011年7月7日). https://www.j-cast.com/2011/07/06100713.html?p=all 2011年7月7日閲覧。 
  2. ^ a b c d e 「書いたらその社は終わり」と言われ、なぜ記者は怒らなかったのか”. ITmedia ビジネスオンライン (2011年7月14日). 2023年2月3日閲覧。
  3. ^ オフレコ』 - コトバンク
  4. ^ 2009年3月11日 読売新聞「政治の豆知識 オフレコ懇談とは」
  5. ^ a b c オフレコ発言 重大性鑑み実名報道も 情報源秘匿が前提【大型サイド】|あなたの静岡新聞”. 静岡新聞. 2023年6月24日閲覧。
  6. ^ a b オフレコ問題に関する日本新聞協会編集委員会の見解 1996(平成8)年2月14日
  7. ^ a b 【ニュース裏表 平井文夫】取材対象への約束違反では?「オフレコ解除」というフシギ 暴言秘書官の更迭を考える 何が「重大」なのかは誰が決めるのか(2/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト”. 株式会社産経デジタル. 2023年6月24日閲覧。
  8. ^ 「阿川佐和子のこの人に会いたい 後藤謙次」『週刊文春』2008年10月16日号、pp.141-142
  9. ^ a b 福島香織 (2009年1月22日). “雑談②いつまでたっても慣れない総理番のお仕事”. Iza. 2010年1月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年4月20日閲覧。
  10. ^ 魚住昭野中広務 差別と権力講談社、2004年、pp.242.254
  11. ^ 2009年6月10日 1:29 AM 2009年6月10日 1:38 AM 2009年6月10日 1:46 AM 岩上安身twitter
  12. ^ a b c d [1]ウォーターゲート事件ディープスロートさえ「オフレコ」取材ではなかった米国新聞の「ルール」 権力者に利用される日本の安易なオフレコ取材 牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」 2011年01月06日
  13. ^ 斎藤勉 「漆間発言」とメディア 取材源、安易に暴露していいのか 2009.3.11 12:09
  14. ^ Carter, Bill (1995年5月22日). “The Empty Chair” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/1995/05/22/us/the-empty-chair.html 2023年2月3日閲覧。 
  15. ^ 『ジャーナリズム崩壊』 P217
  16. ^ 上杉隆 (2009年3月12日). “漆間発言で思う、「オフレコ」を当然と思う日本メディアの甘さ”. DIAMOND online. 2010年4月18日閲覧。
  17. ^ 栗田亘 (2008年11月18日). “その記事の出どころは?”. 新s. 2010年4月20日閲覧。
  18. ^ 天野勝文 & 橋場義之 2008, p. 96.
  19. ^ a b 松林薫 2016, p. 50.
  20. ^ a b 松林薫 2016, p. 52.
  21. ^ a b 松林薫 2016, p. 53.
  22. ^ 「"筋"の話」『新聞をどう読むか』現代新書編集部編、講談社現代新書、1986年、pp.74-76.
  23. ^ 「小沢オフレコ暴露記者 タブー破りの真相」『週刊朝日』1994年9月30日号
  24. ^ ^櫻井よしこ「オピニオン縦横無尽 文春に"小沢一郎との訣別"を書いた田崎史郎氏の記者失格」『週刊ダイヤモンド』1994年9月24日号
  25. ^ 「ジャーナリストの現場から 記者クラブ制度の罪と罰 小沢一郎番記者『オフレコメモ』公開への是非」『週刊現代』1994年10月1日号。
  26. ^ ^田崎史郎『政治家失格 なぜ日本の政治はダメなのか』文春新書、2009年、pp.143-152
  27. ^ 柴田鉄治「戦後五〇年から二一世紀へ 新聞はいま」『21世紀のマスコミ 新聞 転機に立つ新聞ジャーナリズムのゆくえ』大月書店、1997年、p.87
  28. ^ 柴田(1997年)、pp.85-88.
  29. ^ a b 天野勝文 & 橋場義之 2008, p. 97.
  30. ^ 太田誠一より悪質!福田官房長官『レイフ擁護』 オフレコ会見、女性記者猛反発『全録音』」『週刊文春』2003年7月10日号、pp.27-29.
  31. ^ 「福田官房長官」『レイプ擁護』発言 国会『偽証』の決定的証拠」『週刊文春』2003年7月17日号
  32. ^ 民主、漆間副長官追及へ 「自民に波及せず」発言でarchive :2009-03-10) - 共同通信社 2009年3月7日
  33. ^ 違法献金:「自民党に波及せず」発言は漆間官房副長官 - 毎日新聞 2009年3月8日
  34. ^ 沖縄防衛局長「犯す前に言いますか」と発言 - 朝日新聞 2011年11月29日
  35. ^ 沖縄防衛局長「暴言」琉球新報だけ報道―他紙の記者は聞き流した? - J-CAST テレビウォッチ 2011年11月30日
  36. ^ オフレコ取材報道の経緯 性的少数者傷つける発言「重大な問題」 - 毎日新聞 2023年2月4日
  37. ^ 荒井秘書官、LGBTは「嫌」 岸田首相「言語道断」、更迭へ―政権打撃”. 時事通信社 (2023年2月4日). 2023年2月4日閲覧。
  38. ^ 岸田首相 同性婚「見るのも嫌だ」などと発言の荒井秘書官 更迭 - NHK NEWS WEB 2023年2月4日
  39. ^ ムネオ日記 2009年3月 2009年3月6日(金)を参照
  40. ^ 朝日新聞社2011年7月4日松本復興相、岩手・宮城両知事にきわどい発言連発
  41. ^ 小西氏、サル発言撤回も「切り取られた」法的措置示唆 - 産経ニュース 2023年3月30日
  42. ^ サル発言の小西氏に立民代表「党として謝罪」…参院憲法審の筆頭幹事を解任、党内でも批判広がる - 読売新聞 2023年3月31日



オフレコ!

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/11 15:25 UTC 版)

オフレコ!』は、2000年10月18日から2002年9月4日までTBS系列局で放送されていたTBS製作の情報バラエティ番組である。スペシャル版は『超オフレコ!』あるいは『超超オフレコ!』と題して放送されていた。放送時間は毎週水曜 20:00 - 20:54 (日本標準時)、直前の時間帯にミニ番組を編成していなかったTBSのみ19:54からの60分枠で放送。


  1. ^ a b c d “TBS、とんだ"肝試し" 網走刑務所の受刑者墓地、無断で撮影し謝罪=北海道” (日本語). 読売新聞(東京朝刊、札2社): p. 34. (2001年8月18日)  - ヨミダス文書館にて2013年8月26日閲覧。


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