ウクライナ語 正書法・音声・音韻

ウクライナ語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/17 02:43 UTC 版)

正書法・音声・音韻

母音

前舌母音 中舌母音 後舌母音
狭母音 [i] [і] [ɪ] [u] [u]
中母音 [ɪ] [ɛ] [ɛ] [o] [a] [ɔ]
広母音 [ɑ]

黒い文字は強勢音。青い文字は非強勢音。

文字 音素 強勢音 非強勢音 軟音の後の強勢音 軟音の後の非強勢音
А, Я 非円唇後舌広母音 /ɑ/, /a/ [ɑ], [a] [ɑ̽], [a] [ɑ̈], [а̇], [ӓ] [ɐ], [а̇], [ӓ]
О 円唇後舌半広母音 /ɔ/, /o/ [ɔ], [o] [ɔ̝], [o], [o], у] [ɔ̈], [о̇], [ӧ] [ɔ̽], [о̇], [ӧ], [ӧ], [о̇у], у]
У, Ю 円唇後舌狭母音 /u/, /у/ [u], [у] [ʊ], [у̇], [ӱ]
Е, Є 非円唇前舌半広母音 /ɛ/, /e/ [ɛ], [e] [ɛ̝], [eи], [ɪ̞], e] [ɛ] [e], [eі]
И 非円唇前舌め広めの狭母音 /ɪ/, /и/ [ɪ], [и] [ɪ̞], е], [ɛ̝], и]
І, Ї 非円唇前舌狭母音 /i/, /і/ [i], [і], [ı̽], и], [ɪ], [и] [i], [і] [i], [і], [ı̽], и]

黒い文字は国際音声記号青い文字はウクライナ語の文献で使用されるキリル文字の音声記号。

ウクライナ語の母音組織の特徴は、非強勢音の/ɪ//ɛ/の対立の中和である。異なる表記を持ついくつかの同音異義語が存在する。例えば:

  • мине́(去るだろう)‐мене́(私を)→ [mɛ̝ˈnɛ], [меине́]
  • наведу́(揚げる)‐на виду́(目の前)→ [nɑ̽wɪ̞ˈdu], [навиеду́]

子音の調音方法

子音
部位 舌頂 舌背
方法 両唇 唇歯 口蓋 後部歯茎 硬口蓋 軟口蓋 軟口蓋
    [m]       [n̪]     [nʲ]    
破裂 [p] [b] [t̪] [d̪] [tʲ] [dʲ] [k] [ɡ]  
破擦 [t͡s] [d͡z] [t͡sʲ] [d͡zʲ] [t͡ʃ] [d͡ʒ]        
摩擦   [f]    [s] [z] [sʲ] [zʲ] [ʃ] [ʒ] [x]        [ɦ]
     [r]    [rʲ]    
接近         [ʋ]    [l]    [lʲ]       [j]
  • 正書法はベラルーシ語同様、表音主義であるため、ロシア語等とは異なり、発音どおりに綴る傾向が強い。原則として、子音連続は認められていない。例;ロシア語Россия /rossija/ [rɐˈsʲijə] - ウクライナ語Росія /rosija/ [roˈsʲijə]。обличчя[ɔˈblɪt͡ʃʲːɑ]のような場合は子音が連続するが、発音は長子音となる(この単語の場合、「オブルィーチャ」ではなく「オブルィーッチャ」のように発音される)。
  • 硬母音Оに対応する軟母音(いわゆる「ヨ」)は、Оの前に子音Й、軟音記号Ьをつけて表す。例;цьогойому
  • ロシア語のЪが原則として接頭辞の直後にのみ現れるのに対し、それに相当するウクライナ語のアポストロフはそれ以外の位置にも来る。例;любов'ю
  • アクセントのある母音は強く、やや長めに発音する(ロシア語と比較した場合、それほど顕著ではない)。音声学的には、アクセントの無いところではиеに近い音に、оуに近い音に変化する(母音弱化)。例:дивитися(デヴィーテシャ)、зозулька(ズズーリカ)
  • И /ɪ/ は現在の正書法では語頭に来ず[注 14]、Ї /ji/ は子音の後に来ない。
  • в - у の音の交替

в は語頭/音節の初めの母音の前や母音の間にある場合は/ʋ/と発音されるが、語末、摩擦音破裂音の前では/w/有声両唇軟口蓋接近音)、または/u̯/のように発音される。この音は決してアクセントを伴わず、音声学ではЎという文字を用いて区別して説明され、у нескладове(ウー・ネスクラドヴェー)(音節を形成しないу)と呼ばれる[注 15]。基本的には、子音の前では/u/、母音のあとや語末では/w/となる。ただし、その発音については厳密にはいくつかに細分される(例えば、во/wɔ/と発音するなど)。例;вона (vona) /ʋoˈna/ 及び /woˈna/(ヴォナー、ウォナー)、мова (mova) /ˈmɔʋa/ (モーヴァ)、Львів (l'viv) /ˈlʲʋʲiw/リヴィーウ)、вдома (vdoma)/ удома(udoma) /uˈdɔma/ (前が母音の場合 /wˈdɔma/)(ウドーマ)[12]

в-уの音は/ʋ/,/w/,/u̯/と3つあり、語中の位置や前後の音によって交替する:

1)/ʋ/ー母音і, и, е(, а)の前

2)/w/―単語の語末、及び子音の前、母音о, у, а(, е, и)の前

3)/u̯/ー母音の後ろ

  • в - у の表記の交替

字母 у で書かれる場合[13]

1)子音と子音の間にある場合

例:наш учитель / вихід у місто / Вони працюють у нас. / Світ учить розуму.

2)文頭にあり、次の文字が子音である場合

例:Учора відбулися змагання. У нас все гаразд.

3)次の文字が в 或いは ф である場合(前に来る文字が母音であっても常に у が書かれる)

例:Вона зайшла у фойє. / Він був у фотографа. / Це записано у вимогах до уроку.

4)文中の休止符(読点、コロン、セミコロン、ハイフン等)の後ろに置かれ、次に来るのが子音である場合

例:Синочки зросли-у школу пішли.

字母 в で書かれる場合[13]:

1)母音と母音の間にある場合

例:Вона живе в Одесі.

2)母音が前にあって、в 或いは ф 以外の子音が後ろに来る場合

例:Пішла в садок у вишневий.タラス・シェウチェンコ

音韻的対応

  • ポーランド西部からウクライナ・ベラルーシにかけて、スラヴ祖語の/g/を有声声門摩擦音[ɦ]で発音する傾向がある。これはチェコ語・スロヴァキア語とも共通している。
  • І/i/、Ї/ji/はロシア語ではЕ/je/になっている場合が多い。これは、東スラヴ語群祖語のѢがウクライナ語では/i/、/ji/に、ロシア語では/je/に統合されたためである。例;Лето /ljeto/ - Літо /lito/(夏)

  1. ^ より厳密には、憲法第10条により、唯一の「国家語」と規定されている。
  2. ^ ソ連邦に属していた時代の1933年から1990年にかけて、この文字の使用が禁じられた。
  3. ^ ウクライナの法律・公式文章に使用されるローマ字表記(Рішення української комісії з питань правничої термінології)
  4. ^ a b 外来語で用いる半軟音。
  5. ^ 軟音の前に半軟音になる。
  6. ^ a b дзの二重音字。
  7. ^ a b джの二重音字。
  8. ^ 発音は[ɪ̞]と同じ。
  9. ^ [j]の後と軟子音の前の間に[ɛ][ɪi]として発音する。
  10. ^ 無声音の前に[s]となる。
  11. ^ 発音は[ɛ̝]と同じ。
  12. ^ a b c d 無声音は有声子音の前で有声音に変わる。
  13. ^ 円唇化に伴う音。
  14. ^ 1999年に制定され数年間使われた正書法、及び、その基となった「ハルキウ正書法」では、иで始まる文字もあった。例:іншийиншийіноземецьиноземець
  15. ^ ウクライナ語には音だけが残っており特別に説明する場合を除いて文字は用いられないが、ベラルーシ語には文字も残っている。
  16. ^ ヤヌコーヴィチが大統領として2011年に訪日した際、日本では常にウクライナ語で発言をしていた。日本側もウクライナ語の通訳を初めて用意した(ユシチェンコが大統領在籍の際の訪日では宇→英→日だった)。
  17. ^ 「正しい表現、誤った表現」「ロシア語からの借用、純ウクライナ語の表現」等の比較本がしばしば書店で見られる。一部はオンライン版もある。






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