アルコール燃料 燃料アルコールの供給

アルコール燃料

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/13 02:52 UTC 版)

燃料アルコールの供給

燃料アルコールは、サトウキビ、テンサイトウモロコシ大麦ジャガイモ、のような多様な作物などから製造される。重要なバイオアルコール計画としてブラジルのサトウキビからのエタノールがある。アルコールはエタンあるいはアセチレン、炭化カルシウム、石炭、石油ガスあるいは他の資源から合成的に得ることができる。

エタノール生産

かつて「農業による燃料アルコール生産は豊かなで耕作できる土地を相当規模必要とする。それゆえ西欧のように人口密度が高く産業化された地域では選択肢としてそれほど有効ではない」といわれてきた。仮に、ドイツ全土をサトウキビ大農園で覆い尽くしたとしても、ドイツの現在のエネルギー需要(燃料と電気を含む)の半分ほどしか供給できない。比較的高額で売れる穀物/嗜好品作物の生産が可能な程の降雨量のある農地で(面積当り収量の極端に多いパーム油は例外として)エネルギー作物を栽培することは必ずしも適切とはいえない

2016年現在地球環境産業技術研究機構が実用化開発中のRITEバイオプロセス[20][21]等によってセルロシック・エタノールが経済的に生産できるようになると、海藻トウモロコシ・スイッチグラス・間伐材などエタノール製造材料の幅が大幅に広がる可能性がある。地球全体で見ると広大な砂漠/半砂漠が荒地として未利用であり、そのようなところでは広大な土地が安価に利用できる代わりに、水コストが重要である。スイッチグラスやサボテンなど乾燥に強い植物を乾燥地で栽培してエネルギーエタノール増産が可能になりつつあるといわれる。

藻類は耕地1ヘクタールあたりの油収量が数十トンに及ぶものがあり、農地を必要としない海藻からのエタノール製造も検討されている。

代替資源

サトウキビは、(トウモロコシが主作物である地域のような寒い気候ではない)アメリカ合衆国の南部で生育し、トウモロコシを現在栽培する多くの地域は、テンサイを栽培するために適当な地域でもある。いくつかの研究によると、合衆国におけるエタノール製造については、これらのテンサイを使う方がトウモロコシを使うよりも、相当程度、能率の高い方法であることを示している。

1980年代のブラジルで、主食作物であり、根から大量のでんぷんが取れるキャッサバからエタノールを生産する方法が真剣に検討された。しかしエタノール収量はサトウキビよりも下回り、でんぷんから発酵可能なに変換するキャッサバの処理は複雑であった。そして植物の残渣もエタノール源としての可能性を調査された。

エタノール源や他の種類の燃料源としてバイオマスを使用することに注目があつまるようになった。これは広範囲に及ぶアイデアで、産業廃棄物家畜の屎尿と同様に、栽培作物や木材までをも含む多種多様な有機資材を使用する。

現時点では、バイオマスをエタノールあるいは他の燃料に変換するプロセスは、どれも複雑でそれほど効率的でもない。(軽重油のようなプロセス生成物の産出する)熱的解重合などは話題になることがある。

正味の燃料エネルギー収支

存続し続けるには、アルコール・ベースの燃料経済は燃料エネルギー収支の正味が黒字になっているべきである。すなわち、アルコールを生産するのに費やした全ての燃料エネルギー、これには原料植物を耕作、収穫、輸送、発酵、蒸留、配送に費やされた燃料はもちろん、同様に農場を建設したり農業機具を製作するのに費やした燃料が含まれるのだが、その総計に対しては生産された燃料が内蔵しているエネルギー量を超えるべきではない。たとえば、「1ガロンの燃料を作り利用するまでに、2ガロンの燃料を消費する」のでは意味が無いと言うことである。

燃料エネルギー収支を赤字の状態でシステムを切り替えることは、単に非アルコール燃料の消費を増やすだけに終わるであろう。そのようなシステムは、石炭、天然ガスあるいは作物残渣由来のバイオ燃料のような輸送に適していない非アルコール燃料を利用する為の迂回路以上の価値を持たないであろう(実際、多くの合衆国の提案は蒸留のために天然ガスの使用を想定している)。そして、アルコール燃料の環境貢献度や持続性の優位性はシステムの燃料収支が赤字であれば実現することができないであろう。

エネルギー収支の黒字幅がわずかならばやはり問題は発生する。もし正味の燃料エネルギー収支が50%ならば非アルコール燃料の使用をやめる為に、1ガロンのアルコールを消費者に届けるために、2ガロンのアルコール製造が必要となる。

この問題は、地政学が決定的な要因となる。ブラジルといった、豊富な水と土地資源をもつ熱帯地方で、サトウキビから生成したエタノールの永続性は疑問の余地もない。実際、サトウキビ残留物(バガス)を燃やすことでエタノールプラントを操業する以上のエネルギーを生み出し、プラントの多くは、今や公衆に余剰電力を販売している。豊富な水力発電所をもつ国なので電力の使用を生産に振り向けると、たとえば粉挽きや蒸留の改善を通じてエネルギー収支の循環が好転する余地がある。

熱帯以外の地域においては全くちがった構図になる。そこの気候はサトウキビにとって寒冷すぎる。アメリカ合衆国において、農業アルコールは一般に穀物、主としてトウモロコシから得られる。そして正味の燃料収支は道はいまだに険しいといった状態である。


注釈

  1. ^ 超臨界水を使用したりして分解していた。
  2. ^ 第二次世界大戦航空用エンジンレシプロガソリンエンジン)には充填効率を高める目的で水メタノール噴射装置を備えたものがあるが、この場合のメタノールは、気温の低い高空での水の凍結を防ぐための添加剤としての役割が主である。
  3. ^ そのほとんどがアメリカ向けであった。そのためアメリカ国内にMTBE製造設備を有していた。

出典

  1. ^ 石油とエコ バイオガソリンについて 石油連盟
  2. ^ 調査報告 シカゴ 米国における再生可能エネルギー及びバイオエタノールの政策及び産業動向(その2) (PDF) p.11参照
  3. ^ レスター ブラウン「フード・セキュリティー―だれが世界を養うのか」、ワールドウォッチジャパン、2005年4月、ISBN 978-4948754225 
  4. ^ 第27回農業環境シンポジウム 「食料 vs エネルギー -穀物の争奪戦が始まった-」 (概要報告)
  5. ^ バイオ燃料が食卓を脅かす
  6. ^ a b c d セルロースを分解しディーゼル、アルコール等を作る新しい微生物
  7. ^ 正念場を迎えた米国の第二世代バイオエタノール(2)
  8. ^ 食料と競合しないバイオ燃料
  9. ^ UM Scientists Find Key to Low-Cost Ethanol in Chesapeake Bay
  10. ^ セルロース分解細菌「Saccharophagus dengradans」の パイロット試験
  11. ^ シロアリによるバイオエタノール製造に弾み
  12. ^ シロアリがエタノール生産の救世主に? 代替燃料技術の現在
  13. ^ シロアリの腸からバイオ燃料生産効率を高める新酵素を発見
  14. ^ 国エネルギー省(DOE: Department of Energy)の共同ゲノム研究所
  15. ^ “廃材をバイオ燃料に”. 沖縄タイムス ( 沖縄: 沖縄タイムス): pp. 1面. (2008年7月3日) 
  16. ^ シロアリの新しい利用法
  17. ^ シロアリ腸内共生系の高効率木質バイオマス糖化酵素を網羅的に解析
  18. ^ バイオエネルギー生産のためのシロアリ共生系高度利用技術の基盤的研究
  19. ^ 同規則第10条の2第2項(揮発油規格の特則)
  20. ^ RITEバイオプロセスの概要地球環境産業技術研究機構
  21. ^ バイオ研究グループ・バイオリファイナリー生産技術開発及び実用化開発に向けた取り組み地球環境産業技術研究機構 2016年
  22. ^ MSUエタノールエネルギー収支調査 (PDF)
  23. ^ 再生可能燃料協会
  24. ^ Kovarik 未来の燃料
  25. ^ エタノールと石油に関する税的優遇措置 (PDF) (Tax Incentives for ethanol and petroleum):合衆国会計検査院, 2000年9月
  26. ^ "PETROBRAS MTBE Unit Retrofit to Isoctane Production". 25 September 2005. 2023年10月2日閲覧
  27. ^ アメリカでの自動車用ガソリンへのMTBE添加禁止政策によりMTBE製造設備の廃棄またはETBEへの製造設備転換、イソオクタン製造設備への転用が模索された[26]
  28. ^ Saudi Muslim scholar says running cars on bio-fuels could be 'sinful' Dubai News.Net 2009年2月22日)






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